時は戦国、所は関東。とある秘密を持つ御曹司が立身出世を願い、仲間と共に舞台に立つ――わけですが、実はそこは割とどうでもよろしい。
いや、どうでもよろしいは言いすぎ、確かに御曹司にも郎党にも秘密あり志あり、そして凡ならぬ才能で物語を彩ります。
ですが、この物語を彩るのは英雄豪傑だけではなく、その他大勢の個性的な脇役たち。
凄いのです。例えば主人公の御曹司のお付の爺の亡くなった奥さんの父親が回想の主に据えられたりして、またこれが濃い、濃い、濃い。
そしてまた、それら言わばサイドストーリーが退屈かと言えばさにあらず。
むしろこの脇役たちこそ人間味が豊かで、大真面目に悲喜劇を巻き起こす。
そんなモブたちの湧き起こす小劇が縒り集まって、ひとつの大きな歴史絵図を描き出す。
そんな、物語。
だからこれは通勤電車に揺られながらぱっと読む定番Web小説というより、秋の夜長をくすりと笑いながら読む物語。そう、思います。
気になりましたら、この物語世界に訪れてみてはいかがでしょう。
これは、何の物語か――そう問われれば、戦国時代の関東の物語である、滝野の物語であると答えるべきでしょうけど、やはりここは、あの時代を生きる人たちの、息づかいが聞こえる物語と答えたい作品です。
物語は、伊勢新九郎盛時(のちに北条早雲として知られる人物)に、滝野義直という若者が仕える――という縦軸がありますが、その義直を支える、石頭斎や伯言和尚なる人物がいて、彼らは彼らの「歴史」があって、その「歴史」が横軸として語られます。
それは縦と横で綾なす織物のようなもので、見ていて飽きません。
それでいて平易な語り口で、難しくなく、見ている者の心の中に、物語の光景がスッと入って来ます。
要は――面白いです!
ぜひ、ご一読を。