第七回 軽挙妄動険醸禍 辺疆告急速行軍
洛陽にて、兵器開発がある程度進みこのまま董卓の軍と一戦交える事も可能だが、凶報が届いた。匈奴が南下してきた。
途中経過でしか無いが、戦力は拮抗してる模様だ。俺もこれを機会にそそくさと并州に逃げ帰れる!と思ったが、其れはあくまで理想だ。現実は董卓が皇帝の名義で俺に婚姻しろと命令してきやがった…。相手は先の皇妃でもある唐姫と言う女性だ。天下で最も高貴な女性だった人間だ。困るわぁ…。
「孝父、貴様は未だに独り身と言うでは無いか!安心致せ、儂がお主の媒酌人を務めてやるから安心して良縁を結ぶが良い!」
「はっ!有り難き幸せ!」
此処で首を縦に振った俺も悪い…。
「聞いて驚くな?相手は皇太妃唐姫だ」
呂布がじゃ無くて俺がお前を殺しに行ってやろうか?とすら思った。この野郎は無責任に唐姫を俺に嫁がせた後は知らん顔出来るだろうが、俺は世の中からの謗りは免れないだろう…。
「恐れながら、相国様…」
「うん?未亡人では不服か?それとも生娘が良いのか?」
「いえ、その拘りは持ち合わせておりませぬ…然れども此度の婚姻、誠に喜ばしきものでしょうが、某が先帝の妃と…、相国様がこの世からあらぬ謗りを受けるは某の本望にございませぬ…」
「ふん!何だ、そのような事か!気にするでない、唐家からは既に了承を得ておる!」
おい!さすがにダメだろ?危ねぇって!何が何でも断る俺と何が何でも突き通す董卓が今本来の意味とは違う矛盾の争いをしていた。
「太師、先帝既に崩御されました。これ以上は皇室への侮辱にも成りかねませぬ…!太師の権勢は今や天下で知らぬ者等居りません…ましてや其の威は諸将の奮闘により押しも押されぬより磐石なものかと…」
「ふぅむ…、どうしたものかのぅ?おい!文優、何か良案は無いのか!」
「は、はいぃ〜!蔡家の娘御が、嫁ぎ先に先立たれて居ると聞いておりますぅ〜」
「そうか、ならばお前は下がれ!蔡公を呼んでこい!」
「はっ!」
流石の董卓も蔡邕等は一応敬うようだ。更には皇甫嵩を執金吾、朱儁を羽林中郎将、盧植を虎賁中郎将にそれぞれ任じて、未だに若い侄の董璜を補佐するように配置していたりと抜け目が無い…。一応、并州で将兵を鍛えるという名目で避難させているが、入れ替えの時には朝廷で業務をこなすらしい。だが、これも董卓の誤算に成るだろう。この三人は寧ろ曹操や袁紹以上の董卓嫌いである。董璜は其れに気付けなかったら董氏政権はそこで終わりだ。
俺は張五に御三方へちょくちょく挨拶の書簡を持たせたりなどしている。お蔭で皇甫嵩の息子皇甫堅寿何かはしょっちゅう董卓にチクってるしな…。
「孝父、近頃はあの三人と近しい様じゃな?」
「はっ、未熟な身の上、兵法韜略を学ばせて貰っております」
「ハッハッハッ!良いでは無いか!気に食わぬが、確かに義真殿らは戦の妙を得ておるしのぉ…、孝父、一つだけ言っておくぞ?ヘタに動くなよ?」
肝が冷えた、コイツ俺を見通したのか?いや、カマをかけてるだけかもな…?其れとも、もう誰も信用してないか、だ。
「ははっ、此方に関しては相国様の身のこなしを学ばせて頂いております…」
董卓は目を細かくして此方を見ているが、勝手に動けない…、動いたら負けだ。此処は星座の甲冑を身につけた彼らを見習って千日戦争だな…。
「ふっ、すまぬ、儂の勘は鋭いからなぁ!だが、偶には外れる時もある!はぁっはっはっ〜!」
このオッサン…!まぁ、良い直ぐに死ぬのはお前だからな!
「本日は相国様にご報告が…」
「匈奴か?」
「はっ!」
「并州は司隸を守る盾でも有りますので、北に匈奴、東に袁紹、公孫瓚らが控えております故…」
「そうか…」
「誰ぞ連れてゆくか?」
「いえ、某の配下のみで…」
「ふふっ、そうか」
「はっ!」
「ふむ、戦は直ぐに行かねばならぬな!挨拶は無用、往くが良い!」
「では、これにて!」
「さらばじゃ!孝父」
俺は頭も振り返らずに屋敷に向かった。
「張五!居るかぁ!」
「へい!なんですかい?大将?」
「おう、直ぐに呉資らに伝えよ全軍を率いて直ちに晋陽に向かえとな!」
「へい!それと、大将お客さんが来てやすぜ?」
「客?誰だ?」
「蔡邕とか言う爺さんですが…」
張五は拳骨を貰った。礼を欠くのは高順でも許されなかった。
「ってぇ!大将!」
「馬鹿もん!速く行け!」
張五は頭を押さえたまま駆け出した。俺は足早と客間に駆け込んだ。
「蔡公!おいでは預かり知らず失礼を致しました」
「ふふふ、良い良い、此方こそ呼ばれても無いのに、勝手に来てしまった此方にも非が有る」
「いえいえ、当代きっての大学士蔡先生とお話出来る事の方が光栄に御座います!」
そりゃそうだ。娘の方も有名だが、この人が弟子をきっちり教育し、その弟子が大書道家王羲之を教えたのだから!
「ハッハッハッ!この老耄を持ち上げるでない、して此度は将軍に御用があっての事ですじゃ」
「はぁ…、何でしょう?」
蔡邕は俺に結婚のつもりがあるかどうかを尋ねた。
「某、軍営に籍を置いて十数年、考えたこともござらん」
蔡邕は笑ってこう言った。
「この老いぼれの娘を娶って頂けまいか?」
ふぁ!?なんて?と俺が驚いていると、この老人は大笑いしていた。
「娘も運が悪くてのぅ…、嫁ぎ先が決まったかと思えば、先立たれてしもうて…、近頃将軍の噂を耳にしましてなぁ…」
え?俺もやっぱり董卓政権の一員だから……、悪評が…。
「ハッハッハッ!そう、緊張めされるな!なぁに、戦に勝ったと言う話と著しい栄転をされてるとな!」
「はぁ…」
「さて、高将軍、結論や如何に?」
うーん、結婚…ねぇ…。トラウマしか無いねん。時代は違えども…。
「…、一日考えさせて下され。幾ら、蔡公がお望みであろうと当人が望まなければ意味を成しませぬ。其れに、この高順、一介の匹夫に御座いますれば…、幸せに出来るかもお話が変わって来ますし…」
御老公め…、殺気立った目で此方を睨み付けたが…、後に破顔一笑して立ち去った。だが、その晩に蔡府から使いが来て、手紙を寄越した。
漢季失權柄、董卓亂天常、志欲圖簒弑、先害諸賢良。逼迫遷舊邦、擁主以自彊。海内興義師、欲共討不祥。卓衆來東下、金甲耀日光。平土人脆弱、來兵皆胡羌、獵野圍城邑、所向悉破亡。斬截無孑遺、尸骸相牚拒、馬邊縣男頭、馬後載婦女。長驅西入關、迴路險且阻。還顧邈冥冥、肝脾爲爛腐。所略有萬計、不得令屯聚。或有骨肉倶、欲言不敢語。失意機微閒、輒言斃降虜、要當以亭刃、我曹不活汝、豈復惜性命、不堪其詈罵,或便加棰杖、毒痛參并下。旦則號泣行、夜則悲吟坐,、欲死不能得、欲生無一可。彼蒼者何辜、乃遭此戹禍。邊荒與華異、人俗少義理、處所多霜雪、胡風春夏起、翩翩吹我衣、肅肅入我耳。感時念父母、哀歎無窮已。有客從外來、聞之常歡喜、迎問其消息、輒復非郷里。邂逅徼時願、骨肉來迎己、己得自解免、當復棄兒子。天屬綴人心、念別無會期、存亡永乖隔、不忍與之辭。兒前抱我頸、問母欲何之。人言母當去、豈復有還時。阿母常仁惻、今何更不慈。我尚未成人、奈何不顧思。見此崩五内、恍惚生狂癡,號泣手撫摩、當發復回疑。兼有同時輩、相送告離別、慕我獨得歸、哀叫聲摧裂,馬爲立踟蹰、車爲不轉轍。觀者皆歔欷、行路亦嗚咽。去去割情戀、遄征日遐邁,悠悠三千里、何時復交會、念我出腹子、匈臆爲摧敗。既至家人盡、又復無中外、城郭爲山林、庭宇生荊艾。白骨不知誰、從橫莫覆蓋。出門無人聲、豺狼號且吠。煢煢對孤景、怛咤糜肝肺。登高遠眺望、魂神忽飛逝、奄若壽命盡、旁人相寛大、爲復彊視息、雖生何聊賴。託命於新人、竭心自勗厲。流離成鄙賤、常恐復捐廢。人生幾何時、懷憂終年歳。
と書いてある。董卓や俺を引っ括めて天下の乱れを批判しているのだ。これは彼女が書いた悲憤詩の一章だが、俺は二章の方に馴染みがある。国語の先生が腹立つぐらいにバカにしてきやがったから、無理やり覚えたんだけどな!返書には
邊荒與華異人俗少義理、處所多霜雪胡風春夏起。
翩翩吹我衣肅肅入我耳、感時念父母哀歎無窮已。
有客從外來聞之常歡喜、迎問其消息輒復非鄕里。
邂逅徼時願骨肉來迎己、己得自解免當復棄兒子。
天屬綴人心念別無會期、存亡永乖隔不忍與之辭。
兒前抱我頸問母欲何之、人言母當去豈復有還時。
阿母常仁惻今何更不慈、我尚未成人何不顧思。
見此崩五内恍惚生狂癡、號泣手撫摩當發復回疑。
兼有同時輩相送告離別、慕我獨得歸哀叫聲摧裂。
馬爲立踟車爲不轉轍、觀者皆歔欷行路亦嗚咽。
所謂、悲憤詩其の二ってやつだ。彼女は後に書くだろうが…、まぁ、売られた喧嘩はきっちり買わなきゃな!倍額にして売り返してやる。
高順はまだ知らなかった。これから二人は文通を通じて夫婦になる事を。
董卓は高順に仮節と鉞を与え、軍十五万で并州に向かうように詔を出した。
「張五、諸将に将軍府へ来るように伝えて来い!」
集まったのは、本軍の六将と白波軍の二将で計九人此処から進軍の路線等を定めて多方向から進行する事にした。
遊牧民は農耕民と比べたら何時でも家を移動する事が可能であるのに対して、固定の土地で生活すると言う互いの違いを利用するしかない。どうせ、向こうが移動するなら此方も移動しながら迎え打てば良い話でもある。
「という事だ。各々、準備を怠るなよ?其れと我が軍の軍令はただ一つ、《何があっても生き残る事が先決》である」
「「はっ!」」
俺だけ、朝廷に顔を出して挨拶して其の儘行こうとしたら見知らぬ女が俺に玉佩を渡して来た。
「…、将軍、ご武運を…」
一般人ならまず声をかけて来ない。何故ならば、俺は当代最凶の悪人董卓の配下だからだ。
「ふむ、そなたはきっと名家のお嬢様だろうから、断れば面目は保たれないだろう、今回は受け取るが女子がこの様な殺伐とした場に来るのは感心せぬ。気を付かれよ」
「はい、其れと此方、お時間が有れば見てください。」
書簡を貰って、行軍中に中身を見たらこれだよ。こき下ろしやがって!
男大当婚女当嫁、寡婦門前是非多
(男女共に相応の年齢になったら結婚するけど、未亡人はタダでさえ変な噂が立つと言うのに)
将軍出征生死憂、何如前朝双将軍
(将軍は今回の戦争で生きるか死ぬかもわからないし、武帝の頃の衛青、霍去病と比べたら将としての能力はどうなの?)
丈夫尽忠守人節、無情強娶他人妻
(夫は国家に忠誠を尽くしたが、将軍は無情にも夫を無くした人の妻を娶ろうとしている。)
萍水相逢未謀面、今日一見更似賊
(お互い会ったことも無く大して関る事も無いし、今日貴方の事を見てみたらやはり国賊に付くような見た目をしている)
マジで言うとんの?俺ちゃうで?とツッコミたくなったが、この子コミュ障なんとちゃう?まぁ、良いや!返書と言うよりか……、其の儘強引に馬の上に引き寄せた。
「見たので、そのまま返詩を言うから覚えておけよ?」
漢詩は得意分野だよ!どっちかっつうと…唐詩だな!漢賦、晋詞、唐詩、宋文章…得意のは唐詩だな!
「はい?将軍は誰かと間違えて居られますよ?」
「蔡家のお嬢様の蔡琰、蔡昭姫だろ?」
蔡琰はびっくりして暫くそれ以上の会話は無かった。
「見破られましたか…」
「ふっ、その詩を見なければ判らなかったがな」
「余計な事をした様ですね」
確かにね!
「うむ、そう言う事だ」
「では、期待していませんが…返詩を」
「秦時明月漢時関万里長征人未還、但使龍城飛将在不教故馬度陰山、金帶璉環束戰袍馬頭衝雪過臨洮、卷旗夜刧單於帳亂斬胡兵闕寶刀。どうだ?」
蔡琰はさも有り得ないといった表情をしていた。失礼な女だと思いつつも興味が湧いた。
其れにこの時代は未婚の女性に触れること自体、強姦に等しい行為である、触ったからには責任を持って娶らなくてはならないのである。勿論高順は其れを自覚していたので、高順なりのプロポーズでもあったのだが…、蔡琰は観念したようだ。
「この度はの婚姻お受け致します。ですので心よりご武運を」
「ふむ、しかと受け取った!」
「では…」
「うむ、時期尚早だが…、帰って御令堂と日時を相談されよ。俺は拘らないからな!ハッハッハッ!」
「はい…」
「何時でも、并州に移れるようにな!」
と洛陽の城北まで来て、そんな会話が続いた。
「待て!何者だ!」
「鎮北将軍、高順である!貴様こそ何者だ!」
「北門都尉である!」
高順の肉体が変にザワついてる。恐らくこれが武人の直感だろうな。一応、進軍の路を邪魔されたという事で槍を構える。
「皇甫兄、何事かね?」
「貴様を捕らえて相国の前に突き出してやる!」
「はて?」
「貴様ァ!」
コイツ!いや、皇甫嵩の方だな。漏らしやがった!どうりで董卓が勘づく訳だ。
「…おい、俺を突き出したらお前も三族皆殺しにあうぞ?」
「なっ!そんな、そんな訳有るか!」
有るよ!アッチからすりゃ、お前なんか捨て駒同然だぞ!?わかってないの?ふざけんなよ?
「有るから言ってるんだよ!良いか?お前が相国と親交が有るから相国はお前の父を殺さなかった、だが、お前の軽挙妄動でお前の父、俺や皆がお前のせいで死ぬんだよ!」
皇甫堅寿は黙った、高順の言ってる事は確かである。だが、ここ迄来た手前引き下がれない。
「ならば!」
「良いか?お前が北門都尉で此方も助かった。しっかり役職を全うしておけば問題は無い、だが軽挙妄動に走れば皆が死ぬぞ?」
「う、うむ」
「良いな!」
「わかった!」
「相国にはきっちり説明しておけよ?」
「うむ、待っておるぞ!」
「おう!」
洛陽に来る事は暫く無いだろうが、一応返事はしておいた。
行軍中に軍中の指揮系統を固めた。白波の二将なんざ、数百人率いれたらすげぇ方だからな!
さて、どうしようか〜!まぁ、軍政はどうするかを考えるとしても…少なくとも数十万の軍勢だ。其れを纏める将軍…居ても張遼、郝萌、侯成…その辺しか居ないんだよなぁ…更に兵科を分けて鍛えるってなると…えぇい!やめだやめだ!そんなクソみたいな考えは後回しだ!
并州に付いて、暫く人員配置を行って、その間、孫文台からの手紙の返書を書いてた。
先日の礼、其れと中枢の情勢を聞いて来た。それなりには答えてるし、一応俺個人の見解を送り更にその返書が返ってきた。
孝父兄、先日の陽人では世話になった。
天下の諸侯は未だに其の志を忘れておらず、再び集結して戦うと言っている。我らも参加するかどうかを検討したいので中枢の情報をくくれまいか?
文台兄、書簡を送って頂き誠に有難く思います。
天下の諸侯が再び戦を起こすと言うのであれば私も一軍の将として其れを防ぐ所存です。中枢に関しては盟主たる袁紹、袁術兄弟が大将軍何進の敵討ちをしたせいで太師董卓が其れにつけ入り先帝を弘農王とし、陳留王を帝位に就かせ、それより先の大戦が起こりました。兄は荊州の長沙、武陵、零陵、桂陽を取り地盤を固めて袁術の言いなりとならぬ事を祈ります。
孝父兄、重ねて礼を言わせてもらうが、戦場で相まみえた時は容赦出来ぬ故。
文台兄、我らは戦場に身を置く者、各々の主が為、この高順恨み言は申さぬ。何れは堂々と戦いましょう!
超訳してこれだからな、実際はもっと長いし、何を書いてんのか全くわからん!
二ヶ月掛けて人員配置が完了し、あとは戦うだけである。その頃、中華全土では第一次反董卓連合の崩壊による不協和音が嫌な響きを鳴らしていた。
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