第五回 泗水河畔敗孟徳 長安城中殺伯慎

 さて、俺は今八十万の兵を連れて本軍と合流して今滎陽に居る。残りの三十万を張遼ら諸将に任せて并州攻略に回した。




 徐栄達も流石に、この八十万の兵には驚いた様で董卓に報告が行った。




「高将軍!この兵らは一体…?」




「あ、いやぁ…、黒山、白波の賊徒らを討伐したら成り行きでそれ位に成ってしまって…。は、はは…」




「ふふ、ともかくこの戦勝てますな!」




「ええ、勝てますとも!」




「して、如何致す?」




「このまま睨み合いを続けましょう!」




「なっ…!?」




「相手はもうじき、軍糧が尽きる頃です。故に今は待ちましょう!」




「しかし、敵が攻めてきたらどうするつもりじゃ?」




「泗水を渡らねば、攻められる事は有りますまい…、敵が渡河する頃に反撃すれば良いのです。伏兵も用意しております故」




「相国に採り立てられるだけ有るな!将軍の謀略にはお恐入りますな!」




「御冗談を…」




 俺はどちらかと言えば頭は悪い方だ。未来から来た俺だから判りうる事だ。幸いこの場には徐栄と楊定、張済しか居ないため俺にもある程度の発言権が有るからだ。オマケに最大兵力はこの俺だからな!黒山勢は張遼に付いてるから上手く扱えるだろう…。




 逆に袁紹は焦った。十八路諸侯兵はどれだけ見積っても精々四十五万程、其れを優に超える兵が一夜にして対岸で布陣してるのだ。これは流石の袁紹もタカを括れ無くなった。それ故に自身のみならず張楊、王匡らと共に酸棗に本隊を連れて来た。




「…!聞いておらんぞ!何故賊軍がこんなにも!」




「本初!落ち着け、兵達に聞かれるぞ?」




「孟徳、そうは言うがな!」




「落ち着け!お前はこの軍の総大将であり我ら十八路諸侯の盟主でもあるのだから、お前が慌てれば兵達にも動揺が走る!今其れが最も恐ろしい事だ!」




「えぇい!軍議じゃぁー!」




 宴と言う名の軍議が始まった。これには流石の曹操も従わざるを得ない。何故ならば今こそ余裕を見せなければ成らない、内外に向けて見せなければならないのだった。




「フハハハハハ!諸侯、安心致せ!斥候を送った所どうやら戦の出来ぬ農兵らしい。諸君、賊軍なぞ決戦で蹴散らせば良い話だ!ハハハハ!」




「盟主がそう仰るのなら…」




「其れと、この場に居る諸侯に一つ提案が有るのだが…」




「曹将軍、お待ちを」




「伯珪殿、如何なされた?」




「盟主に一つお聞きしたい。我が軍への兵糧は何時になったら届くのかね?まさか、兵達に腹を空かせて戦えと?」




「い、いや、うむ…」




 袁紹は答えが詰まった。答えられ無いんだから…。曹操は目を瞑った。友を間違えたとしか言いようが無い、何故この男は名声以外に無能としか形容出来ないのだろうか?




「こうなれば短期決戦しかあるまい!彼の西楚の覇王項羽も三万の兵を以て四十万の秦軍を巨鹿にて釜を破り船を沈め、一気呵成に戦を決したではありませんか!」




「だかなぁ…」




「我々が義兵を起こしたのは董卓の暴乱を鎮めるためです。すでに大軍が集結しているのに、諸君らは何を躊躇らっているのか!もし董卓が朝廷の権威を利用して、洛陽周辺の要害を守りつつ天下を支配していたら、攻略することは難しかった。だが今、董卓は宮室を焼き、天子を脅おどして長安に遷都した。これこそ天が与えた董卓を滅ぼす絶好の機会だっ!」




 これを聞いて諸侯はある程度持ち直したが結局足並みが揃わず…。夜襲を仕掛けたのは曹操、公孫瓚、張邈とその弟張超である。夜襲でも仕掛けてやろうかと思ったら曹操の野郎…、良い勘しやがる…。向こうから来やがった!幸い徐栄と二十万の兵を連れて進軍しての遭遇…、滅茶苦茶怖かった〜!




「皆!躊躇うな!殺せぇ!」




 徐栄は一瞬ムッとしたが、流石に敵を前にして誰が号令をかけるかなんてくだらない争いを犯す様な人間では無かった。




「今こそ好機ぞ!全軍、掛かれぇ!」




 戦闘が始まる。緒戦で徐栄軍に敗れた曹操軍は多数の死傷者を出し、あわや全滅する所だった。流石名将曹操の手腕といったところである。




 そして、徐栄軍の追撃が始まると曹操自身も矢傷を受け、馬も傷を負った。これを見た曹操の従弟の曹洪が馬を譲ゆずろうとしますが、曹操は先に逃げろとこれを断る。曹洪は更に続けた




「天下ってのぁ俺が居なくたって何も変わりゃせん。今、天下は兄上を必要としているのじゃ!兄上は何れ天下を治める人じゃ!だから…こんな所で死のうとするんじゃねぇ!」




「判った!だが、逃げるのは儂一人では無い!子廉、お主も一緒じゃ!」




 曹洪はこう言って曹操に馬を譲ゆずると自分は徒歩で付き従い、夜陰に紛まぎれて汴水を渡って二人とも逃げ延びる事が出来たのだった。この時に曹洪は生涯でこの時が一番勇猛だったと後に懐術している。




「…、兄者、どうにか辿り着いたぜ!」




「…あぁ、そうだな。徐栄と言ったか?次の戦は儂が勝つ!」




「おう、其れでこそ孟徳兄者だ!」




「ふっ、これ位くらいにして、先ずは腹を満たさねばな!」




「あぁ、何かしら狩ってくるぜ」




 その後も曹操軍は少数ながらも奮戦したため、徐栄は酸棗県は未だ容易には攻め落とせないと判断して兵を退いた。




 時を遡らせると、こういう事だ。




 曹操軍のこの敗北の代償は大きく、済北相鮑信も傷を受け、鮑信の弟鮑韜と陳留太守張邈の配下・衛茲は討ち死にしてし、酸棗諸侯の解散と共に曹操は離脱し、徐栄に敗れた曹操酸棗県にたどり着いた時、諸侯は十数万の兵を擁ようしていながら、毎日ただ宴会を開いているだけだった。これを見た曹操は、諸侯を一喝して次の策略を披露した。




「先ず、本初には河内郡の兵で孟津に進み、我等は成皋に出て敖倉を占領し、轘轅関と太谷関の街道を封鎖する。そして、公路が南陽の兵を率きいて丹析に陣を敷しき、武関から侵入して三輔之地を揺るがせば、たちどころに董卓を滅ぼすことが出来るだろう!」




 曹操の提案のように、反董卓連合の諸侯が連携して洛陽と長安を同時に攻撃することは董卓が最も恐れていたことであり、董卓軍を壊滅させることができる可能性の高い作戦だった。だが、緒戦の敗北で気後れし戦意を失いつつ有る諸侯は、この曹操の作戦を却下して、保身に走る、これに呆あきれ果てた曹操は、もうそれ以上何も言わずにその場を去った。




 曹操は失った兵を補充するために、夏侯惇らと共に揚州に向かう。この時、揚州刺史陳温と親しかった曹洪は、揚州廬江郡の精鋭二千人を与えられ、丹楊太守周昕からも数千人の兵を得て、豫州沛国龍亢県で待つ曹操と合流した。此処で予想外な事に、曹洪が龍亢県に着いた時、募兵した兵が反乱を起こして多数の兵を失ってしまう。仕方なく曹操は、銍県と建平県で兵を募つのって千人余りの兵を得ると、酸棗県ではなく司隷河内郡に駐屯している袁紹の元に向かう事にした。この時に曹仁、曹洪は他で兵を集めたりして離れていたが、唯一傍に居たのが夏侯惇だった。




「ハハハハ、元譲、思い通りに行かぬものだなあ」




「孟徳、気を落とすな!兵なぞ直ぐにでも集まる!」




「うむ、大業を成す者はこの程度で諦めては短慮と言うものだ!ハッハッハハッハッハ!」




 曹操が去った後、酸棗県に集まった諸侯たちは、兵糧が乏とぼしくなったため陣を払ってそれぞれの任地に撤兵を始める。そしてその後の各地諸侯達は仁義無き戦いを始めた、先ず兗州刺史劉岱は仲が悪かった東郡太守橋瑁を殺害し、後任として王肱を太守に任命するなど、すでに彼らに連帯意識は無かった。またこの時、青州刺史焦和も董卓討伐の兵を挙あげ、酸棗諸侯と合流すべく西に向かっていたが、青州で黄巾賊が蜂起したために任地に引き返して鎮圧に当たっていた。




 結果として一九零年一月に決起した反董卓連合だが、いち早く行動を起こした曹操は董卓配下の徐栄に惨敗。ついには兵糧が底をつき、酸棗県の諸侯は何の成果も上げぬまま、約三ヶ月という短い期間で解散したのだった。




 その後董卓は無理矢理、諸侯らと手打ちを敢行した。これが普通なのである。寧ろ太平洋戦争中に日本がこんな感じで米国と早期講和で手を打っとけば歴史は違ったのかもしれない…、そんなタラレバを言ってしょうが無いのである。




「徐将軍、終わりましたな!」




「うむ、だが、気は抜けんぞ?」




「そうですな、だが当面の間、奴らは真面に戦う事が出来んだろうな」




「これから、どうするかね?」




「相国様に報告をせねばなるまい」




「はっ!なら共に長安に戻りましょう」




「うむ!」




「配下を司隸に置いて、巡回させます。さすれば奴らは此方に手を出せぬでしょうな」




「そうされると良い」




「はっ」




 十日後には長安に着いて、論功行賞が行われた。




 これに関しては流石にちゃんとしたものだった。




「此度の戦、第一功、武衛将軍高順、前へ!」




「…、はっ!」




「高順なる者は此度の戦に於いては敗戦の被害を最小限に留め、長年の悩みの種だった黒山、白波二賊を降し更には酸棗にて諸侯の叛軍を徐栄と共に打ち破った!よって、鎮北将軍、并州牧、晋陽に爵位を賜り晋陽侯とする!」




「ははっ!」




 其処から順番に行った。




 軍職


 大将軍


 董旻


 将軍


 左将軍徐栄、前将軍牛輔、右将軍段煨、武衛将軍兼任鎮北将軍高順


 中郎将


 李傕、郭汜、華雄、董承、呂布、張済、李粛


 校尉


 董璜、賈詡、李蒙、樊稠、王方、楊定、張繍




 武官職に関してはタレント揃いで魏蜀呉三国の全盛期と互角若しくはそれ以上にいい勝負が出来る陣容だ。残念な事に文官は李儒ただ一人のみと言う飛んでもないブラックな職場だ…。今回の陣容を見て俺は清末の袁世凱を思い出した。何故か董卓と袁世凱って似てるんだよなぁ…、袁世凱も張作霖等の外様を除けばこんな感じに人材が揃いすぎてたんだよなぁ…。やる事なす事董卓の方がエグいけど…。論功行賞が終われば宴が相場と決まってるんだけど、俺も高順も酒は好まない方らしいな。体が受け付けないんだよ…。




 因みに、張五に張遼を俺が并州不在の間に并州牧の代理を務めて貰う様に書簡をしたためた。こうすれば匈奴とかが攻めてきても現場判断が楽になるしね!




「鎮北将軍、この様な処で何をしているのかな?」




「何でもござらんよ、華将軍」




「命を救ってもらった御恩は何時ぞや返させて貰うぞ!」




 あ、うん。いや、マジで頼んだよ!




 一応、朱儁、皇甫嵩、盧植の三人も呼んではどうかと進言したところ通っちゃったんだよ…。まぁ、良いや!来てくれただけでも良しとしなきゃ!俺は急ぎ身なりを整えた。実はこの時代の服装はゆったりとした者が多い、現代では細い人でも上流階級ならサ〇ゼンで大きいサイズの服を買って其れを着るイメージだ。




 そして宴は始まった。この後誰も予想しなかっただろうナ…、あんな事になるなんて…。蔡邕や王允等も呼ばれた。酒宴の最中悲劇は起きた。董卓はかねてより仲が悪かった太尉張温を、親交があった袁術と内通していると人を使って誣告させ、笞で打ち殺させた。彼を憎悪していた董卓は、死んだ張温の首を刎ねて酒宴でその首級を披露した。戦に勝利し、更なる権威欲しさに披露したのだ。宮殿内で笑っているのは董卓だけである。それにより盧植、朱儁、皇甫嵩が席を立つ。俺も小用と言って抜け出した。




「お三方、お待ち下され!暫しお話を!」




「これはこれは高将軍、董卓の爪牙が何用かね?儂らは道を急いでおるのだが?」




「ハハハハ、いやはや、手厳しいですな!実は占いに凝っておりましてな。」




「だから何だ?我らはおぬしと会話する程親しく無かろう?其れにそのようなくだらない話をするのであらば失礼させて頂く!」




「それは此方も重々承知しております。ですが!この国が変わるにはお三方のお力がどうしても必用です。それに今日の事で相国をどうにかしたいと思っておられるのでしょう?」




 三人はキョトンとまるで心の中が見透かされたようにちょっと驚いた。




「ほう、我等は如何いたせば良いかね?」




「今は雌伏の時なれば、厚かましいお願いですが并州にて黒山、白波の賊徒を将士に変えて頂きたく存じ上げます」




「ほぅ?」




「三年以内にこの世で最も権勢のある人間が死にます。その後都は必ずや荒れましょうぞ!その時に御三方には勤王之師の中核を担っていただきますのでそれ迄はお待ちくだされ!」




 三人は顔を合わせながら、首を縦に振った




「分かった。三年間待ってやろう!だがそれ以降は待たぬ!」




「ありがとうございます!必ずや…!」




 この三人を抱き込めただけでも収穫だ。もう一人抱き込みたかったがもういない。王允...そう三公の一人司徒王允だ。何故ならば董卓を殺せる程に影響力が有るのもその王允しか居ないからだ。その間に俺は董卓軍内で後どれだけの将軍を抱き込めるかに拠る…。さぁて、戦争よりも恐ろしい中国の謀略の世界に入り込もう!




 その頃、王允は絶望、恐怖、憎悪に支配された体で何とか屋敷に戻った。




 翌日には、皇帝と鉢合わせ、暫く皇帝と言う名前の可哀想な子供と遊ぶ事になり、身体を動かす大切さを教え込んだ。




「陛下…!」




「シーッ!」




「しかし、陛下…」




「気にするな、朕は余りにも暇なのじゃ、遊ぶ相手もおらねば兄上も貴様らに殺されたしな!」




「陛下、お声が高いですぞ…!何時何処に太師の耳目が…!」




「ふむ…それもそうよな…!」




「そなた名は?」




「臣武衛将軍高順と申します」




「そうか、高順、朕は生まれながらにして母と父の顔を知らぬ…」




「左様にござりますか…」




「そなたは父に会ったことあるのか?」




「いえ…、臣は元より并州の一武官でした故、先先帝のご尊顔は…拝した事は…」




「そうか、朕は皇帝としてどうすれば良いのか?解るか?」




「陛下は天子に御座す者に御座います。然れども、人に御座いまする…。かの太祖高皇帝すら泗水の亭長に過ぎませぬ…、先ずは市井の人々の暮らしを解らねば如何に天下を治めましょうや?」




「どうやって知るのだ?」




 うーん…どうしたもんかね?何なら変装して、行くか!




「では、陛下、一度行ってみましょう!」




 こうして、後日劉協は孝父の護衛の元でお忍び社会科見学に出かけるのであった。




「高将軍、どうすれば良い?」




「ハハハ、陛下、童の格好で良いかと」




「それでは朕の天子たる威厳が…」




「天子様と知られれば其れこそ危ういのです」




「そうか、ならば任せたぞ!これから、民の暮らしを視察するぞっ!」




「はっ!」




 普通に可愛い…!さすが子供、逆にその分不憫でならない…。平時なら何不自由無く暮らせていただろうし、皇族じゃ無ければ幾らか苦しかろうが、それでも平凡な子供として笑って居られだろうな…。そう思うととてつも無く心が苦しかった。




「高順!何をしておる!?早く行こう!」




 道中、あれはこれはと聞かれて一々説明したが、現代人の俺の言ってる事が正しいのかどうかも解らんけど、まぁそれなりに楽しめたんじゃないかな?




 疲れて寝てしまったものだから、おぶって帰った。皇宮の宮女に道を尋ねようとしたら怯えられてどうしようも無かった。




「あの…」




「ヒッ…!?」




「シーッ…、今、陛下がお休みだ…喋るなよ?良いな?」




 宮女はそっと指を指しその方向を向かった。すると有る老人と出会った。




「ホッホッホッ、ご苦労であるな。陛下を背負うとは…」




「御老人…」




「陛下の居室は此方じゃ、着いて来なされ…」




 陛下を寝かせて、俺は老人と二人きりで話し合った。




「御老人、名を伺えますか?」




「私の名は魏猛…最も【前世での名は忘れましたが】ね…!」




「…!へ、へー…」




「何だ、対し驚かないのかい?」




「べっつに…驚いたって何にもなりゃしないだろ?ま、可哀想に…たァ思うがな…」




「君が今の歴史を掻き回そうとしてるのだから…」




「あぁ?どういう意味だよ?」




「そのままさ、君がこのまま好き勝手にやればどうなる?」




「どういう意味だよ…」




「事もあろうか、皇帝陛下を市井に連れ出す事だよ」




「あれは…あの子が…不憫でしょうがねぇからだよ!」




「不憫…?」




「そうだよ!今は董卓の傀儡、大きくなりゃ実権を持てないお飾りの皇帝だ!なら普通の人間がどう暮らしてんのかを見せてやりゃ良いじゃねえか!そうりゃちったァまともな人間になれるだろうよ」




「無駄な事を…」




 高順も相手の言っている事を理解した。だが、高順は其れに抗うと決めた。




「なら、好きなだけ変えてやるよ!望んでもねぇ転生なんざ興味ねぇからな!歴史!?んなもん俺が生き残る為の知識でしかねぇんだよ!」




「き、君は…!」




「うるせぇな!お前みたいにグジグジしてる暇はねぇ!文字通りの暴君と戦闘狂の上司を相手にしてんだ!そんなもん…!関係ねぇ!俺は俺が自由に生きれるように好き勝手やってやるだけだ!」




 高順は無意識に興奮してしまった。魏猛もそれ以上は追求しなかった。




「…、これ以上言っても無駄だね…」




「あたぼうよ!転生者なんざ幾らでも居るだろうよ?どうせ居るかどうかも分からねぇような奴の玩具になるぐれぇならとことん反抗するだけさ!」




「君…!」




「ま、おっちゃんは安心して余生を過ごせや、俺ァもう何が出てきたって驚きやしないさ!この身体のお蔭で人を殺してもなんとも思わねぇし、戦場に居ても有り得ねぇくらいに冷静で居られるしよ!」




 魏猛は黙ったままだった。




「ならば、好きに生きなさい」




「おっちゃんは?この世界に来て後悔した事ねぇのか?」




「後悔ねぇ…?来た時点で夜の営みが出来ない身体になっているからね…」




 嘘だろ!?じゃ、俺が居た時代のニューハーフじゃねぇか!微笑みの国の徴兵逃れやんけ!嘘だろ!?




「不憫だな…」




「そうかい?私はこの辺で失礼させてもらうよ?」




 董太后がまだ生きてる事を高順は未だ知らなかった。




 この男は魏猛では無く、曹操の養祖父曹騰であり官職は中常侍、大長秋であった。そして、宦官の中では十常侍の筆頭張譲も迂闊に手を出せない人間でもあった。




 魏猛と言う偽名を捨て、今は大長秋曹騰として太后へ報告をしていた。




「太后様…」




「戻ったか…」




「は…」




「首尾は?」




「高順なる男…権力に興味は無いようです。扱い次第では忠臣にもなりましょう…」




「そうか…、如何に憎き何霊思の産んだ亡き弘農王は孫でもあった故…今や私の孫は協ただ一人…」




「太后様…、あの高順にも何かしらの考えを持っているのでしょう…」




「どういう考えじゃ!この深宮で育った幼子を市井に放り出す考えなど…!」




「恐れながら…、其れにつきましては高順なる男の優しさに御座います」




「何?」




「明帝陛下より和帝陛下までの御治世は少なからず世間を知った上での治世にござりました。然れども…」




「うむ、少なからずわかった。権勢に拘りが無いのであろう?」




「そうとも言いきれませぬが…」




「ふっ…、あの者が権勢に興味あろうがなかろうが関係無い、皇帝に忠実であればそれで良い…武将ならば尚更、な…」



 後宮では高順に対する陰鬱な、何かが蠢き出した。

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