第四回 董相国捜金刮銀 高将軍用賊変兵



 高順から献策を貰った。李傕は僅かな随行と共に陽人の城へと入っていった。僅かなのは理由がある。城の辺りは戦いが終わったばかりとはいえ、屍横辺野にして未だ酸鼻極まる。




「使者殿、態々御苦労!要件を手短にして貰おう!どうせその首は我らの手柄になるのだからな!」




「「ハハハハハッ!」」




「ははっ…、これは手厳しいですな」




「おい!早く要件を言わぬか!其れとも、貴様に長江の水を飲んだ後ににするか!?」




「某、李稚然と申す。此度は相国の使いとして連姻の旨をお伝えに上がり申した」




「ほう?」




「ご成婚の暁には相国様が天子に上奏し、朝廷より三公の大司馬と荊、揚二州の刺史として全ての統治権を授けられるとの事です」




「ふん!やかましい!この孫文台、忠心報国は知れども、賊と手を組み国を蔑ろにする事は知らぬ!帰ってあの老賊に伝えよ!首を洗って待ってろとな!」




 孫堅、孫策親子を初めとした罵詈雑言を浴び尽くし、其の身に余る怒りを抑え丁寧に使者としての勤めを果たして李傕は退出した。




 内心は今直ぐにでも殺してやりたいが、そうは問屋が卸さない。




「こうなれば、戦は避けられぬ…、ふふふ、孫文台覚えておけ、貴様に組した者から殺してやろう…、クックック…!はぁーはっはっはぁーーー!」




 高順は胡軫軍の敗残兵を集めつつ徐々に梁県へと撤退して行った。そこで呂布と同僚達と合流して、董卓と面会する事になった。無論、董卓は既に大方の報告を聞いた後では有るが、一軍の将としての癖でもある。




「…、奉先、話を聞かせろ…」




 横にいる李儒なんか何かを漏らしそうな程に恐怖していた。呂布は顛末を話した、勿論都合の悪い所は全て死んだ胡軫に擦り付けてだ。言葉通り死人に口無しである。




「はっ、此度は都督の胡将軍が…孤軍深く…」




 往来の気迫では如何に武力の強い呂布でも些かの畏怖を覚える。まぁ、俺は傍から見てたけど、董卓って絶対呂布の威を借る小物じゃ無ない、それなりに器量を備えた傑物だ…!




「ふむ…、あの阿呆め!して、兵はどれ程損なった?」




 流石に、細かい計算してる場合でも無い上に、元から勝ち目の無い戦…元々、五万で勝てるほど董卓も甘くは見ていない上に、戦略性皆無の前線指揮官を三人も送り込んだのはただの時間稼ぎだったって言うのは恐らくこの場で其れを理解しているのは董卓と俺以外にあと数人ほどだろうな…。負傷した華雄はともかく、単純に退却した呂布はそんな計算何一つしていない。




「はっ、私が此処に戻ってきた時には一万程…」




「ぬぁにぃ?!貴様ァ!それで良ぅ戦が出来たのぅ?この様な負け方があるかァ!」




 そりゃそうだ…、仮にも一軍の将である。怒られて当然だ。どのくらい当然かと言うと、中学生になっても未だ1+1=3と答えて怒られたのだから…。そんな中、董卓から見て空気の読めないバカな伝令であり諸将の救いの手が現れたのである。




「報告〜!!」




 この空気の読めない伝令により、本営に血が流れた。董卓が咄嗟に剣を抜いて斬ったのである。それはそうだ、死人が出てこそ主君の威厳が保たれる。当然、使い道のある将軍は余程の事が無い限りは殺されないだろうが、一般兵の代わりなど幾らでも居るのである。




「貴様らァ〜、これで終わりとは言うまいのぉ〜?何ぞ挽回の策は有るのだろうなぁ?」




 凶悪な笑みを浮かべながら言う董卓は最早、人の其れを越えた何かに見えた。と諸将は後に口を揃えて言ったと言う。




 再度入ってきた。この伝令は横たわっている自身の先例を見て死を覚悟したかのような顔をしたが、それでも任務は行わなければならず、仕方無く報告した。




「…ングッ…!報告!」




「何じゃぁ!煩わしい!」




「は、はっ、李将軍、呂都尉配下の高順が只今戻りまして…」




「ほぅ?通せ…」




 俺は先に李傕に行かせることにした。何でか?そりゃあ…、外様の配下の俺と子飼いの直属じゃぁ違うだろ?っていう話だ。本部勤務の役職者と加盟店の役職者じゃ大分立場が違うだろ?そういう事だ。




「末将李傕、只今戻りました。」




「おぅ!稚然、首尾はどうじゃった?」




「はっ、断られ申した…、面目御座いませぬ」




 聞くだけ無駄、それは理解っている。それでも、このくだりは必要だ。改めて敵を認識しなければならない。




「ふん!田舎者の成り上がりめ、ちぃとばかし戦に勝ったからとつけ上がりおって!…ならば、戦か?」




「そうなります」




「そうか。稚然、飛熊を出すぞ」




「はっ!」




 飛熊を聞いて李傕は確信した。董卓は本気だ。董卓も何か考えが湧いたらしく大声で命令を下した。




「其れと、長安へ遷都するぞ!」




「稚然!貴様らは儂と来い!奉先、徐栄!」




「「はっ!」」




「貴様らは東より来る敵の足留めをせよ!」




「「領命!」」




「張済、牛輔、樊稠!」




「「はっ!」」




「貴様らは南より来る賊軍を阻め!」




「「はっ!」」




 董卓は直ぐさま指示を出し、撤退をしだした。諸将も兵が足りない等とざわめき出したが、誰も逆らえないのだった。




「相国様、恐れながら一つよろしいでしょうか?」




「うむ、許す」




「呂将軍の配下である高順と言う者が居ります。どうか会って頂けませぬか?」




「つまらぬ用で有れば如何に奉先の配下と言えども斬るぞ?奉先もそれで良いな?」




「…、はっ」




「良し!通せ!」




 俺は呼び出された。歩く度に胃に響いて痛い、かと言って粗相をやらかして斬られるのもごめんだ。何せ俺はまだ転生と確信して四日目なんだから!未だに夢だと思ってるけれどね。




「末将高順、相国に拝見致します」




「うむ、して何用か?」




「恐れながら、相国様この者は相国様が遷都すると見通しておりました。それに、此度はこの者のおかげで散り散りになった我が軍の回収も出来申した…」




「そうか、どれ程集めたのだ?」




「は、二万程…かと存じ上げます」




 二万と聞いて董卓は驚いた。何故今までこの男の存在に気付かなかったのか?と少しばかり己を恥じた。手柄は手柄である、そこを賞さねばなるまいと思案した後に言葉を発した。同時に呂布配下に置いて置くよりかは手元で育てて置いた方が有用性が高いと判断した。




「ふむ、良うやった!今から貴様を偏将軍とする」




「はっ、大恩を賜り感謝の念に耐えません!これより一層励みます!」




「うむ、貴様に何か良策はあるかの?」




「これと言った良策は御座いませんが、このまま并州を攻めようかと」




「并州?」




「はっ、一つ彼の地は司隸を守る盾で御座います。二つ解池の塩を握れば富も保てます。三つに十八路諸侯と聞けば我らの危機でしょうが、その実は私心の徒が集まった。烏合之衆に過ぎません。ならば、此方は奴らの糧秣から攻め、更に挑抜離間して行けば敵軍は瓦解致しましょう」




「ほぅ?」




「実際に我らを滅ぼさんとしてるのは渤海の袁紹、河北の公孫瓚、江東の孫堅、そして曹操くらいなものです。他は取るに足らない小物に御座います」




 董卓は理解した。この高順は、柔を以て剛を克せと言うのだ。間違っては無い、南陽より袁術、朱儁、孫堅らが攻めてきてるのだ。退く以外に手は無いがこの者は退きつつも敵を攻めよと言うのだ。其れに高順は元から并州出身、更に董卓も并州を治めた事がある事からこの重要性は十分に認知している。寧ろ、逆に何時でも相手の本拠地を揺さぶる事ができると気づいてはいるが、今、誰かを并州に回す余裕は無いのも現状、其れを将軍の部将が申し出たのだ。好機を見逃す訳には行かず、賭けに出たのであった。




「ふぅむ、ならば何処に退け良いと思うておるのじゃ?」




「相国様の意のままに…」




「クックック!良かろう!皆、長安に退くぞ!」




「「はっ!」」




「時に高順よ、儂はそなたが奉先の下に居る事を勿体無く思う、故にそなたを偏将軍より武衛将軍に任ずる!又、元丁原の兵もそなたに預ける!良いな!」




「ははっ!改めて相国様の大恩に感謝いたします!」




「此度はそなたも付いて参れ!」




「はっ!」




 こうして俺は、董卓の直臣になった。呂布と同僚になったって訳だ。正直やりづらい…。立ち回り方なんて知るか!




 洛陽に撤退すると決まり、そのまま俺は元・丁原の并州兵四万を率いる事になり、殿軍を受け持った。配下には、呂布より貰い受けた諸将と張遼が着いてきた。呂布の配下には李粛が付く事になったらしい…。元々同郷の人らしいけど、詳しいのはわからん!




 南から北へ退き、行軍して無事に洛陽に着き、そこで曹操軍とぶつかり、善戦こそしたが、あの人材コレクターが集めた勇将らのおかげで決め手がイマイチ欠けてしまっている。




「張五、各隊に敵は兵糧が少ない、守り切る事こそ重要だと伝えてこい!」




「へい!」




 此処で一旦膠着に入るかと思われたが、董卓軍に動きがあった。徐栄が突撃を行い、曹操を敗走たらしめた。




 戦は一旦落ち着き、これから城に帰り落ち着きを計った。




「徐将軍、この度援軍痛み入る…」




「我らは既に同僚である。其れに敵軍の足を止めて無かったらこの戦には勝てなかっだろう」




「そう言われると幾らかは救われます」




 その後、俺は洛陽には戻らずにそのまま并州に向かって行った。名目上は黒山、白波の両賊が此方を脅かしてきたからだ。実は、董卓についていけるかと言うと無理!呂布について行くと漏れなく処刑が待っている。中身が現代人の俺はこの先の流れを知っているからこそ、自立せざるを得ないのだった。そこで自軍の諸将を集めて会議を開いた。更に、俺は長安へ向かい、董卓と面を合わせねばならんからな!せめて文遠達には中枢から離れてもらおうってだけだ。




「皆、一つ相談だ。俺は并州を占領しそこで自立するつもりである。俺に付いて来る者、俺の元を去るものに別れよ」




 皆は、こいつ何言ってんのよ?みたいな顔で戸惑って居たが、張遼が諸将を代表して質問をしてきた。




「高将軍、自立されるのは良いとして、何故かを聞かせて貰えまいか?」




「うむ、知っての通り我らの主は丁原、丁建陽であった。それが呂布に殺され、相国の元に身を寄せて居たが董卓にしろ、呂布にしろ何れも己の身を滅ぼすような人間である。だから俺はとても付いて行けるとは思えない、かと言ってこのまま揃って身を滅ぼすならば自立した方が良いと思ったまでだ」




「ほほぅ?」




「なに、心配するな。五年以内に董卓は死ぬ、そして司隸、西涼は荒れるだろう、そして天下はもっと荒れる。どうせなら、并州でひっそりと身を守ろうでは無いか!」




 張遼はこれを聞いて、ある程度納得したが、やはり懐疑的である。俺は思ったね!張遼さえ取り込めば今の所怖いものは無いって。




「うむ、判った。五年以内にそうなら無かったら将軍のお命は我らのものと致す。それで宜しいか?」




「うむ」




 高順は晩年こう振り返っている。




「あの時こそ、我が人生で尤も危ない時であった」




 場所と時を移すと董卓は栄華を極めた洛陽を焦土にして、帝王の陵墓より金目の物を根刮ぎ持って行った。道中、老人子供を虐殺、婦女を姦淫して洛陽に向かって行った。




「フハハハハハ!奴らに金目の物を残すなよ?若者には荷物を運ばせよ!他は好きにせよ!良いな!」




「「ははっ!」」




 こうして、恐怖の長安遷都が始まった。道すがら全て死屍累々である。これを見た諸将は董卓はおろか、呂布にも付いて行けないと意を決して此方に付いて来てくれた。ある意味では士気の鼓舞である。




「この惨状を見たら後に相国について行こうとは思わぬ!高将軍!これよりこの張遼不才ながら将軍を主と仰ぎ付いて行きとうございます!何卒、末席に加えてくだされ!」




「張将軍、ご謙遜召されるな、将軍の虎威は以前から見聞きしておる。将軍が私の左右に居れば天下を手に入れる事なぞ容易い事よ!これよりは宜しく頼む!」




 張遼を腹心に加えた。これからは戦いやすくなるはず!この俺の内心のガッツポーズは最早昇龍拳である。




 成廉、魏越らは特にこれと言った意見も無い。彼らは意見が定まらぬ内に呂布に主を殺され、己の身を守る事に精一杯だった。だから、今回道を示してくれた事で決心したらしい。どうでも良い話でもある。助かる事には変わり無いがな。




「うむ、ならば兵らには戦わせろ!五人を討ち取ったならば伍長、百人討ち取ったならば百夫長にすると兵らに伝えておけ!」




 黒山賊への流言には今俺を此処で叩けば董卓は二度と黒山賊に手を出せなくなる。と、片方の白波賊らには黒山が白波を吸収し、天下を取りたがっていると流言を流し、互いに反目し合うように持って行った。壊滅した軍団の敗兵を吸収する以外に他所から来た第三者が軍団の軍兵を手に入れる手段はない。これが最も敵軍を効率良く吸収する方法である。戦わせて傷ついてからの方が効率が良いからな!




「さて、文遠!」




「はっ!」




「黒山賊の中に張燕と言う者が居る、この者を生け擒りにせよ!」




「何故か?」




「それは、アレは我らに必要な将だからだ。行軍速度に関しては当世で一二を争う位に早いからな」




「畏まった!」




「うむ、お主にしか頼めん!」




 張遼に五千を分けて行かせた。俺は残りの三万五千を諸将に分配して両賊を叩き、約二週間休まずに戦って漸く両軍降参して来た。




 足して合わせて百数十万に膨れ上がった軍をどうしたら良いか?其れに悩んでいた。悩んでも仕方が無いので、とりあえず并州に軍を進めた。この中で、白波側の首領達李楽、韓暹、胡才と黒山側の張燕、于毒、王当、眭固、孫軽、杜長、白繞らである。




「さて、諸君何か言う事は有るかね?」




 此処で不満をぶち撒けてくれりゃ後々やりやすいんだがなぁ…




「我らが浅はかでした。今や将軍の虎威を知り、どう争えと言うのですか!此処は降る以外に御座いますまい…」




「「我ら一同将軍にお仕え致しとうございます!」」




 若干何名か、嫌々な表情してるけどね!




「良かろう!ならばこれより宴だ!諸将らを歓待しようでは無いか!」




「「おおぉ〜!」」




 俺は酒を飲まずにのらりくらりとやり過ごし、兵営の外に出た。其処に張燕が来た。




「飛燕将軍、如何した?」




「なぁに、風に当たりに来たのよ…」




「そうか、傷は痛むか?」




「いんや、そうでもねぇ、だが、あの張遼とか言う野郎にゃ成る可く会いたかねぇがな」




「ふっ、そうか。ならば会わずとも良い」




「ところで将軍様よォ!一つ聞きてぇんだが良いか?」




「うむ」




「何でも、あの張遼の野郎が言うには俺の生け擒りが絶対らしいじゃねぇか!何でか?ってな」




「飛燕将軍の才が欲しいからだ。この先董相国が天下を統べる事は無い、だが、何れは北の匈奴、鮮卑、烏桓らが我が大漢を犯して来る事は明白、故に貴公の才ならば夷狄共を駆逐出来ると確信して生け擒りにして我が麾下に加えたかったのだ!」




「へぇ〜、そんなにこの俺の事を買ってくれてるたぁ、嬉しいねぇ〜!でも、このままじゃぁ俺ァ納得しねぇぞ?餌を目の前にぶら下げられた驢じゃねぇからな!」




「だが、何れ貴公にならば騎兵を任せたいと思うておるのだがなァ…」




「本当かよ!?任せてくれるならどんな野郎でも俺の速さにゃ適わねぇぜ!」




「ふふ、あの文遠も苦労したと言っておったぞ?」




「そうかい、あんたの口ぶりからすると…騎兵を任せるには条件が有る様な言いぐさだな、さ、言ってみな!」




「いや、止めておこう。飛燕将軍が困る事になりかねんから」




「ケッ!漢らくしく言ってみやがれ!あんたが俺を買ってくれてるんだ!乗らねぇ手はねぇ!」




「実は…、文遠の元で副将として付いて貰いたい…」




「…、チッ!しゃあねぇな!とっ捕まった俺が悪ぃんだ。クックック!堅物の将軍の相手も悪かあねぇ!安心しな!主公様!この張飛燕様に二言はねぇ!」




「安心した。文遠は生粋の武人だからな、少し傲慢な所が有るかもしれんが其処は堪えてくれ。無理そうな時は俺に言ってくれ」




「おう、頼んだぜ!大将!」




 俺は笑顔で首を縦に振り、その場を去った。そして、并州攻略に関しても目処がたった。何故かって?相手は俺たち元・丁原幕下の同僚だからだよ!攻略し易いこの上無い相手だ!




 李樂、胡才、于毒、王当、眭固、孫軽、杜長、白繞らには死んでもらう予定でいるし、更に他はどうせ帰る場所が無く仕方無く賊になっただけだろうよ。




 予想通り次の日には、張燕以外の幹部は行方をくらました。張燕らには激務とも言える兵農分離を推進させ、并州に定住させる予定である。




 これでも兵は何れ百万に届くらしい。多くて困る事はない、何時かは河北の公孫瓚、袁紹らとは悪戦苦闘が待ってるだろう…。

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