第三回 華将軍吉凶難測 孫老虎及時退兵

 高順は陽人城が見える所まで来ていた。自ら斥候に繰り出すと其処には憎たらしい程に『孫』と書かれた旗が建っていた。




「ふふふ、敵もやってくれるな」




「将軍、如何致しましょう?」




「そう急くな、華将軍が直ぐにでも引きずり出してくれるだろう」




「はぁ…」




「其れよりも伝令を出せ、各位配置通りにな!」




 この身に着けている甲冑、が偶に邪魔に思う時も有る、更に言えば下半身に防具が無い!何故なら馬に乗り上がる際に邪魔になるらしい…。クソ!改造しちゃるわい!どうせ、北の夷狄と戦わにゃならんのだからな!




 中国の歴史は基本的に北の異民族と戦ってきた歴史でもある。直後の五胡十六国時代は又の名を五胡乱華と言うし、秦(漢)漢(漢)晋(漢)隋(胡)唐(胡)宋(漢)元(胡)明(漢)清(胡)と中国の九つの統一王朝の中でも匈奴、羌、氐、鮮卑、蒙古、女真が常に漢民族の王朝を脅かしてきた歴史だ。だからこそ北方の軍の実力を強化しなければならないと高順は妙な使命感を帯びていたのだった。




 華雄は軍を進めた。城まで二里という地点で軍を留め、臨戦態勢をとった。華雄は指揮官としてはそれなりに優秀でもあった、で無ければ華雄を討ち取った孫堅がその武勇を天下に知らしめ董卓が慌てて縁談を持ち込むこともなかった。演義でも関羽の噛ませ犬になることも無かっただろう。昔の中国では山東出相、山西出将(山東は孔子の故郷でもあり文人墨客がよく出るため必然と文官が多い例は山東瑯琊出身の諸葛家、秦の名将王翦が始祖と言われる瑯琊王氏等、山西では昔から匈奴の襲来や首都圏に近い為必然と強兵悍将が出てくると言われる例は関羽、華雄、張遼、呂布、徐晃、郭淮、郝昭等がいる)と言われているのだ。高順も華雄を目の当たりにするまで俺もただの噛ませ犬だろ?程度に思ってたが、どうやら違ってた見たいだ。


「ふふふ、フハハハハ!敵もやってくれる!侮れんな…」




「将軍!お退がりを!」




 その刹那、華雄の腕には既に一本の矢が掠めた。




「ぬォ?!」




「将軍!」




「狼狽えるでない!来るぞ!備えよ!」




 華雄は臨戦態勢を取り布陣し始めたが、空かさずに孫堅が攻め込んで来た。




「ハッハッハッハァ!我は江東の孫文台也!」




「ケッ!とんでもねぇ阿呆じゃ無けりゃ、とんでもねぇ大物だわな!」




 両軍入り乱れて乱戦を展開し、三万の華雄軍に対して士気の高い一万の江東軍が攻め込んだ。ここ迄の連合軍と董卓軍の戦況は、局地戦に限るが董卓軍の二勝である。




 先ずは董卓軍のエース徐栄が滎陽県で曹操、鮑信らを破り続いて、梁県で孫堅を打ち破った。その為、董卓は敵を軽視し始めたのか胡軫を大将に今回の戦闘に至る。哀兵必勝の言葉通り孫堅軍は死に物狂いで戦った。更に言えば、対董卓軍のエキスパートになりつつ有る。




「者共!こやつらを打ち破れば漢に禍を成す国賊董卓のもとに辿り着く事になる!殺せぇ!」




「「うぉぉぉ!」」




「おい徳謀よ、ぬかるなよ?」




「あぁ、万事抜かりは無いさ、公覆!俺は全軍の差配をする故、左は任せたぞ?」




「おう!て事だ義公!お前は右だな!」




「ふん、言われるまでも無いわ!」




「おいおい、誰も主公の心配をしねぇのかよ?」




「ふっ、今頃は大栄と前で戯れておるであろう?心配無いさ」




「じゃあ、後でな!」




「「おう!」」




 三人の言う通り、孫堅と祖茂は前線で暴れていた。




「フハハハハ!大栄!どうじゃ!」




「大将、昨日今日に戦を始めたわけじゃねぇんですから、ちったァ自重してくださいよ?」




「ぬかせ!死んでった奴らのため、何よりもこの漢の為に董賊は殺さねば成らぬ!」




「へいへい、わぁりやしたよ!」




 まるで、楽しむように突撃を繰り返していた。だが、彼らも流石に慌てる時がある。そう、孫家の大公子孫策がやたらと深入りする為である。




「親父、先に行かせて貰うぜ!」




「伯符!いかん、深入りするで無い!」




「あーぁ、坊ちゃんは主公にそっくりだからなァ…、あぁなったら止まらねぇぞ?」




「大栄!」




「判ってますって!大公子の様子を見てきやす!」




 流石、歴戦の主従である。孫堅が何を考えてるか祖茂には伝わる長年の暗黙の了解が働いているおかげだ。


「オラオラ!音に聞こえた西涼の精兵はこんなもんかァ!?ちったァ根性見せんかい!」




 孫策は周りを見ずに無闇に突撃し敵将華雄からもそこまで離れてなかった程に近い距離まで侵入していたのである。




「おーら!てきしょ…」




 衝撃が孫策を襲った。その時に天地をものともせずの孫策ですら恐怖を覚えた。




「ほほぅ?孫堅軍ってのは余程人が足りてねぇらしいな!こんな童までも使うたぁな」




「やかましい!その童にここ迄やられて恥ずかしくねぇのかよ!」




 数合打ち合ったが、孫策の力負けである。だが、華雄も敵を侮れない若冠にも満たない少年が自分とここ迄撃ち合えるのだ、何処を侮ると言うのだ?




「ふふ、若いの!やるじゃねぇか!」




「ごちゃごちゃ言ってねぇで首よこせ!」




「取りたきゃ、取ってみろ!」




 そこで更に撃ち合い、混戦を極めた。其処に孫堅も居合わせていたが、息子の戦いぶりを見守って居ただけであった。華雄も其れを認識していたが、孫堅の方に向かう余裕がないのだ。孫策は若さ故に其の身に余る体力でジリジリと華雄を追い詰めいた。




 もはや、ここ迄!と華雄は思いを詰めて自らその首を刎ねようと剣を首に当てた。その刹那に孫軍の者らは勝利を確信した。馬に乗った一団が現れた。




「我は呂布帳下の高順也!賊軍ども!今降るならば良し、戦えば我が主呂奉先がお相手致す!」




 旗印には確かに呂の字が書いてあった。『人中の呂布、馬中の赤兎』その人である。




「お、おい、呂布が来るなんて聞いちゃいねぇぞ?」




「公覆、狼狽えるな。口からでまかせを言っておるだけであろう?」




「徳謀の言う通りよ」




 江東の者らはタカを括っていたが、高順の部隊の後ろに更に大軍が控えていた。これには流石の孫堅も驚いた。




「ハッタリでは無かったか…、全軍!退けぇーい!」




 これで、終わったか。と思う高順であったが、来たのは呂布では無く胡軫であった。




 高順が布陣して華雄を救出する事に腐心していた頃に、呂布は胡軫に献策していた。




「胡将軍、華将軍の先鋒に我が軍より高順を付けたので勝利の疑いは無く確信出来るかと…」




「それで?あの『飛将軍』殿がこの儂に話しかけておるのだからさぞ良策が有るのだろう?」




 呂布は浮き上がる青筋を抑えて、どうにか話を続けた。



「此処で将軍自ら勝利を相国様に捧げれば軍功間違い無しにございますぞ!」




胡軫は内心ほくそ笑んだ。そんな当たり前の事を今更お前に言わたくないと思いつつも全軍に前進の号令を掛けた。




呂布の方も我が計成れりと笑いを堪えて共に進んだ。勿論、途中で撤退するが、形だけでも進まねば失敗するだろうという考えを胸にしまい込んでの事だが…。




「フハハハハ!江東の病猫め!この胡文才様が引導渡しに来てやったぞ!」




その頃の俺は華雄に辿り着く前に俺は韓当と黄蓋に絡まれていた。




「名のある将と見た!この黄公覆がお相手致す!」




「おい!公覆、それは俺の獲物だ!」




「ふん!ならば、討ち取るまでよ!」




「てめぇ!」




「おい!俺は韓義公ってんだ!そっちも名乗れよ!」




「貴様らに名乗る名など無い!其処をどけぇ!」




流石に武勇で鳴らして来ただけあって強い、俺なんかもう既に死にかけてるからね。




「大将、危ねぇ!」




張五の機点によって救われた。




「ケッ!敵も中々やるねぇ〜…」




「張五、あんなの無視して進むぞ!」




「へい!」




俺は敵軍を薙ぎ払いつつ、華雄の元に辿り着こうとした。




「おい!そこてめぇ!この孫伯符の相手になれ!」




何だこのカラスの不良達見たいな感じの少年は!孫伯符って…、小覇王じゃん!この頃から完成してんだな…。




「小童!戦場出てきた事は褒めてやろう!だが、挑む相手を間違えたな!」




「うるせぇ、来たからにはその首、胴と離れてもらうぜ?」




「伯符!やめよ!」




その刹那、孫策の矛と俺の槍が交差し孫策は腕に傷を負い俺は頬を掠められた程度だ。狙ってできるならやってやりたい。だが、これは俺の意思じゃなくて高順の本能が働いたからである。




「ふふふ、ははは、孫文台、良き子を持たれたな!」




「ふっ、虎が猫を産むと思うか?」




お前、其れお前んところの次男坊が関羽にディスられるやつを俺に使うなよ…、ありゃ犬って言ってたけれども…




「まぁ良い、どうかね?此処は一騎打ちと行こうじゃないか」




「その話乗った!大栄!皆に伝えとけ!手を出すなってな!」




「あーぁ!まぁた主公の病気が始まったよ!へいへい、行って来やすよ!大公子、行きますよ!」




「お、おう!」




「張五、華将軍に伝えろ、此処よりは撤退し、胡将軍自ら対処されるとな」




「では!」




「来い!」




数合撃ち合い決着は着かない、いや、むしろ高順の方が徒に決着を引き延ばしてるのだ。




「貴様ァ!」




「孫文台、聞け、これよりは小声で」




「何じゃ?遺言なら遅いぞ?」




「そうでは無い、この戦はもはや我らの負け、故に胡軫の首と陽人の城をくれてやる。だから互いここらで兵を退け」




「ふん、この俺に退けと?」




「寧ろ、お主とは互いに死力を尽くす程に戦いたいが如何せん主がそれを許さぬ故…」




「ほう?その気概は買うが、呑めんな。」




「其れとお前たちの討董諸侯の連合軍なぞ、足を引っ張り合うだけの烏合之衆ぞ?お主が此処で手柄を立てた所で、あの袁術が何もしないと言うのか?寧ろ、お主は袁術の都合のいい先鋒将軍でしかないぞ?」




「一理有る話だが、どうすればいい?」




「退くと見せかけて胡軫と当たれ、それ以外は手を出すなっ!」




「この俺がお前を信じる理由は?敵同士だぞ?」




「ケッ!全くわかっちゃいねぇな!此処で董卓が倒れたとしても袁紹、袁術兄弟が利権を争い、延いては諸侯がそれに付随するだけだ。その中で如何に天下を謀ろうかと思案しておるところよ…!どうだ?単純な猛虎よ?其れに、天下に名を轟かせた江東の猛虎孫文台を袁術の猿如きに扱き使われちゃ困るってんだ!」




 孫堅は思案し、高順の言う事にも一理あると納得した。




「相、判った!」




 ここは互いに武器を治め、一旦引き上げる




「高順!今日の処は決着が着かなかったな!次こそ覚えておれ!」




「ふん!江東の猛虎がどんなものかと思えばこの程度か!次は無い!」




 とか言いつつ互いに距離を取って退がり、孫堅は自陣に戻り自軍の再編成と布陣を図った、俺は主の呂布の方へと戻った。次は、ちゃんと話し合えるな!




「父上!あの賊将に良い様に言われて!」




「伯符!黙れ!皆は暫し待て」




 俺は主に言うべき事を言いに行った。




「将軍、頃合に御座いますぞ!某は、胡将軍と話す立場にござらん故…」




「判った。俺が行ってくる」




 呂布はそのまま胡軫の方へと駆ける。




「将軍!戦は大詰め、今こそ全軍に号令を!」




「ほぅ?良かろう!子建、呂将軍!見ておれ!我が西涼鉄騎の武威を!」




「はっ!」




 胡軫は自軍を率いて自ら乱戦の中に突入して行った。それを確認した俺は張五に配下諸将へ撤退する様に申し付け、自分は呂布の元へ駆けつけた。




「将軍!今こそ相国様の元へ!」




「良かろう!」




「華将軍、引き上げましょう」




「けど、文才殿が!」




「其れは某からお話いたしましょう、先ず此度の敗戦は胡将軍の驕りから始まり華将軍を敵の刀で殺そうと企んでおり申した。それ故逆に胡将軍を孫文台の刀で殺すように謀り申した。敗戦には英雄が必要です」




「…!そうか、礼を言う。では引き上げるぞ!」




 胡軍を残して、残りの全軍で引き上げた。梁県まで下がり董卓と合流する予定である。途中で更に五千を追加して貰い、伏兵を設置して敵軍を防ぐ算段を作る途中で自軍の一行と会った。




「某、騎都尉麾下、司馬の高順と申します!何方でしょうか?」




「ほぅ?これはこれは、何故此処に?」




「はっ、胡文才将軍討ち死に後、敵の追撃を防ぐために此処で兵を伏し、防ぐ為にございます」




「そうか、儂は李傕、李稚然じゃ」




 あ、ミスター・オカルトか〜…、出来れば会いたくは無かったかな…。董卓の腹心にして、董卓軍最強と名高い飛熊軍を率いる勇将でもある。実際指揮官としての能力もうちの上司と引けを取らないしなぁ〜、あの人の場合は個人の武勇が飛び抜けてるだけの事だから…。




「して、李公は此処で何を?」




「うむ、相国様より孫文台と連姻する故使者として出向いておる。」




「左様に御座いますか。もし…、断られたら如何なさいますか?」




「うーむ、また考えるわい」




 さてはお前…、実はなんも考えてないな?良し、此処は俺が献策してやろう!




「…、孫文台の事ですから断られましょうな…」



「ではどうせよと?」




「戦の支度にございます!」




「ほう?」




「敵は恐らく、北は河内、東は酸棗、南は陽人より攻め上がる事になるでしょうな」




「では軍を二分して対処すると?」




「はい」




「うむ、判った」




「申し訳ござらんが、どうか相国様の前で某の功績…」




「フハハ、判っておる!安心致せ!」




「ははっ!ありがとうございます!」




 こうでもしねぇと数年後には処刑だからな!それに仕えるべき主を間違えたら忠義なんざ無意味だ!

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