第51話 七月一日②
二度寝をする気も起きず、そのまま体を起こして自分にできることを考える。
僕はどうなろうとも、一番の懸念は姉貴だ。それこそ、昨日言った検診で出産日はもうすぐそこまで来ているらしい。七月三日に陣痛が来てもおかしくないくらいには、だ。
僕のどうでもいいことを考えることには長けている頭脳は、現実で直面した事柄の解決策を考えるのには短い。
それでも考えなくてはならない。僕が諸悪の根源と考える人でさえ、結局のところ、赤子が生まれるということ自体を、その破滅のトリガーが無くなって、亡くなってしまえばこの夢物語の幕が下りることを理解している。
要するに、『生まれる前の子供とその母親の二人を標的にするより、男子高校生一人をターゲットにしたほうが夢見がいい』という加害者側の都合の産物でしかない。
僕一人で姉を、姉とその子を守ることができるのだろうかと想像した時、それはかなり無理のあるように思えるし、妊婦さんと言うのは転ぶという行為さえ、一つの命を落としかねない。
それに僕自身これまで武道や護身術を通ってきていない為、自分より少しでも強い一人にでも目的を果たされる可能性が高い。
ここで平凡で人畜無害で一般市民である僕は当然の思考に至った。
国民の味方、罪の敵、そう、警察である。
しかし冷静に考えてみるとどうだろう。いくらインターネット犯罪も増加しつつあり、Web上での誹謗中傷に対して訴訟まで起こせるようになった時代とは言え、SNSを見る限り多くの人は恐怖を感じている旨をフォロワーと共有するために発信している者がほとんどで、僕や姉へと言う名前も身元も分からず、その上ただ夢に出てきた人物に殺意を抱く様な過激な思想の人はいないわけではないにせよ、多数派ではなかった。
それに当然の思考として、実際に行動するような思い切りがよく、覚悟を決めた人間はこんな大勢の見る中で犯行をほのめかすようなことは言わない。今のところ、実際の被害もなく、それに加えて『夢が原因となって命を狙われるかもしれない』という突拍子のない考えだけで警察が動いてくれるとは、なかなか思えない。
「あーあ、どっかに個人的に警護をしてくれる人がいればなー」
と独り言を言うぐらいには思考が行き詰っていた。
そして気づいた。そして目を覚ましてこの方活躍しっぱなしの電子機器で、今度は自分から電話をかける。
「もしもし、昇吾さん。貴方の奥さんを助けて下さい」
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