第35話 六月二十八日②
「言い訳はあるかしら?あ、言い訳は聞かないわ。理由なら聞いてあげるわ」
その差は何なのか僕には分からないけれど、そんなことを言っていても仕方あるまい。
「いやさ、早めに授業が終わって、手持ち無沙汰になっちゃったからさ、せっかくなら迎えに行こうと思ったんだよ」
「私、貴方にどのクラスかは言っていなかったはずだけれど」
墓穴を掘った。終った。
いや、まだだ、まだ助かる道はある。
「まあ、君のクラスは知らないけれど、探してたらどこかで見つかるだろ?」
「入れ違いになっていた場合どうするつもりだったのよ」
「お互いに探しあってたら、どこかで会えるだろ。よくある恋愛ソングみたいに遠い距離がある訳でもないし、ただでさえ一学校のおんなじ階だし」
「いつから私が同級生だと錯覚してたのかしら」
「違ったのか!?てっきり背丈と言葉遣いから同級生だと判断してたんだが。確かに、うちの担任の授業を受けていることだけでは学年を確定できないな。
「いや、今朝、あなた、間違いなく二年の下駄箱の方に向かっていきましたよね」
「あら、人の言った言葉は覚えていないのにそんなことは覚えているのね」
「別に忘れてはないだろ。ただ臨機応変な行動をしたまでだ」
「ハイハイ、御託はいいわ。言い訳は聞き飽きた。
「怒らないから本当のことを言ってごらんなさい」
でた。この世界で信用ならない言葉第三位。(ちなみに堂々の一位は『行けたら行く』だ。)
しかし、ここまで見透かされているとなると怒られるのも仕方あるまい。実際、約束を反故にして帰ろうと思っていた僕の方がおかしいし、非がある。
とはいえ、なぜ僕の思考や行動がここまで彼女に筒抜けなのかは疑問ではあるが。
「あのー、ですね。本当はちょっとクラスメイトと話せて、ついでに夢についての見解も聞けたものだから、いい気分になって、今日と言う日に満足して帰ろうと思ってました、すいません」
「たばこを吸わないことは前から知っているわ。急に宣言してどうしたの?謝罪をしたいならすみませんが正解よ。ま、でもどうして謝罪しなくてはいけないかなんて私にはわからないけ・ど・ね?」
かなりご立腹のようだった。この感情や気分で変わる激情で本当に、彼女は僕にとって、僕の刷新にとって大切なのか不安になってきた。
「喜ばしいことだわ。だってついこの間まで人が変わったみたいに突然コミュニケーションのほとんどを放棄していたあなたが、自分で活路を見出せたのならばそれ以上のことはないのだから」
文面であったのならば伝わらなかったであろう慈愛の含んだ物言いは彼女の一つ前の言葉の意味を正させた。
「そりゃ、お褒めに預かり恐縮です」
「なによ、そんなに硬くなって」
微笑む彼女。口角を上げる僕。
「ま、せっかく一人と話せたんだから、何人と話しても一緒よ。さ、世論調査にレッツゴー!」
はしゃぐ彼女。驚き呆れる僕。
「どうしてそうなる」
「刺激的な同人誌理論よ、一回やったなら何回やっても一緒❤」
「わかってしまう煩悩が憎い。が、それ、僕の動画鑑賞と同じで対象年齢に達してないだろ!」
「そう、だからあの時も結局は何も追求しなかったじゃない。
「そ・れ・に・実写、アニメの両方で映画化されているかの有名な私のバイブル『君の膵臓を食べたい』でも、高校生が飲酒するシーンがあったから大丈夫よ。何だったら、健康被害は私たち場合ないし、逆に健全ともいえるわね」
「いや、でも、あっちは寿命近いという言い分があるじゃないか。それ込みで許されてるわけであって。彼女らと僕らじゃ状況が違うじゃないか」
「貴方、あの作品から何を学んだのかしら?別に死期が近かろうと、日々を何気なく生きていようと人は平等なのよ。それをああいう方法で住野よる先生は言いたかったのよ」
作品の熱意で暑苦しい。彼女も人間、というよりオタクっぽい一面なのかもしれない。
そりゃあ、そうだ。明るい未来に導く案内人の天使のように思っているのは僕だけで、僕の視点だからなのだから。
「だから、今日を後悔しないようにいくのよ」
今日も彼女に手を引かれてみることにしよう、そう諦めた。
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