第33話 世界の裏側①
このインターネットが発達し、子供を遊ばせたり注意をひくために動画を見せたりなどがタブレット一つで行われる時代であるからして、日夜億千の意見が飛び交う。その議論の場の一つに『ACT倶楽部』と言うサイトがある。ここでは世間で話題になっていることや、なっていないことについての考えを論文調に想像であったり、証明として投稿ができる。
毎週多くの記事が寄稿され、反応の多かった物がランキング形式でページトップに掲示される。
あの日以来、どうにかあの夢の話でランキングに乗ることを夢見るもので溢れかえったACT倶楽部は優劣交々あるものの、ランキングがそのテーマで独占された。こんなことはいつ誰が開設したかわからないサイトであるものの、このサイトが開設して以来であった。
世間の反応としては、地球に暮らす全ての人間が夢を見た日以来、当然ながら所詮は夢であり、何一つ根拠のないことからほとぼりは完全に冷め大半の人がつつがなく日常を送っている。
ただし、この電子世界では投稿以降絶対的一位を走り続け、今なお閲覧数が伸び続けている記事があった。
その記事には平易な言葉でやはり件の夢についての概要に始まり、意見と今後の予想について書かれていた。ここまで語った内容はほかの同一テーマの記事にも漏れなく書いてあった。しかし、この記事が異彩を放っているのはここに参考論文を提示しているところにある。
それは1989年にドイツで発表された論文で『脳内記憶の整理のための明晰夢における現実との相関関係について』と銘打たれたものだった。
これを著した教授はすでに亡くなっており、発表はされていたものの、当時例示されていた研究が再現不可能な非人道的なものであったことや、科学的にはあり得ない内容だったため世界の誰一人、見向きもしなかった。
そして現在、その論文が改めて掘り起こされたのである。なぜならこの論文の中で教授は『同様の夢を複数人が同一の日に見た場合、その内容が実現する可能性は大きく高まった』という一文があったからだった。
この記事ではこの証拠からあの夢『Venous embrace』が実際に起こると断言し、残された時間を有意義に使うように、と締めくくられていた。
この記事には多くのコメントが殺到し、恐れおののく声や、とはいえそんなことはあるまいと冷笑するものなどまるで社会の意見が小さく集約されているようだった。
そのコメントの最後尾に寄せられたものの中に「死ぬことが怖い人、この夢を夢で終わらせたい人へ」の言葉と一つのURLが添付されているものがあった。
救済と救世の女神:(固定された発言)先の記事にもあるように私たちの目前には終焉がすぐそこまで迫っている。しかし、私たちには明日を生きる権利がある。明日叶えたい希望がある。このまま行動を起こさずに犬死にするのか、未来を求めて人として生きるのか。こんな前代未聞で空前絶後で摩訶不思議なことが起こっているにもかかわらず、世界は今日も変わらずに平穏だと思い込んで時を刻んでいる。
SNSでは多く取り上げられ、議論をされるこの夢は、この国のどこのテレビ局でも報道されない。情報操作はもう既に行われている。
変化に弱い日本国民は時として重要な局面から目をそらす。盲目になってなかったことにする。
でも中には、その変化を敏感に感じ取るものもいる。今ここにたどり着いた、貴方たちこそ、そうだろう。
変化があったら驚いていいんだ!怖がっていいんだ!時にそんなことも知らないで、驚嘆したり恐怖する君を嘲笑する者がいるかもしれない。そんなのは欺瞞だ。人間への冒涜だ。
物事に心を動かすことは至って人間らしい感覚だ。
この場所は自身を人間だと自認する愛すべき臆病者の楽園だ。桃源郷だ。
明日を救う英雄は我らだ。
さんぽマスター:これはロールプレイか何かか?
ダイの大暴言:そうかもしれないが、ダークウェブをつかっていることからして、本気で言っているのかもしれない。いたずらにしては手が込み過ぎでは?
明日から龍之介:それにしては口上が臭すぎんだろww
サインコサインエージェント:表現はともかく、言いたいことははっきりと伝わって来たけどな
断固大家族:自分もこの女神って名乗ってるやつと同じこと思ってた。あんな嘘のようなホントのことがあったのに、街にいる人間だったり、周囲の人間がなんてこともなく日常を演じてるのには、漠然と恐怖を抱いた。なんというか異常にも思えたな。
ダイの大暴言:確かに違和感はあった。だけどそれを誰もが口に出さないことで気づいていないことにしてた。
エンジョイ商法:待て待て、本当にあんな荒唐無稽な夢が現実になると思ってんのか。
さんぽマスター:それは言いっこ無しだろ?よく言われる悪魔の証明みたいなもんじゃねーか。
泣く子はビネガー:要はここにいる自分たちがどうしたいかが大事なんじゃね?
宝塚歌劇男dism:俺は死にたくないね
イリオモテ大和撫子:わざわざ死ぬかもしれない状況で何もしないでいるのは性に合わない
果汁先輩:俺は、生きたい。
ロマン奇行:同じく。
力学的ゾンビ:賛同する人だけがここに残ればいい。
→エンジョイ商法さんが退出しました
サインコサインエージェント:俺は別に死んでもかまわないけど、面白いことが起きるなら首を突っ込みたい
断固大家族:今回の件を解決する場合、実際に何をすればいいんだろうな。何をすればこの夢を回避することができる?
イリオモテ大和撫子:人類が漏れなく見たのだから面白がって記録に残している人ぐらいいるだろうから、そこからわかる情報から連想してみるしかないわね。
ダイの大暴言:各々が覚えている範囲で夢を思い出しながら、状況を整理するのがいいのでは?
ロマン奇行:登場人物は人々の一人称視点になった青い抗菌服を着た青年らしき男性、帝王切開されている母親の女性『アサヒマヒル』、執刀医2名と4名の助手。すべての人間が病院にいるから当たり前だけれど、マスクを着用。登場人物同士の関係性は夢の中では判明しないが、現実に照らし合わせるのなら男性は『アサヒマヒル』と関係がある可能性が高い。始めに立っていた場所の景色から窓がなく一本道で手術室に繫がっている様子だった。
日付は男性の腕時計から七月三日と割れているが、時間はなぜかはっきりと見えなかった。
さんぽマスター:お前、よくそんなにはっきりおぼえてんな。
サインコサインエージェント:有能。
明日から龍之介:調べる手間が省けたな。
果汁先輩:この断片的な情報から、手練手管を利用して、『アサヒマヒル』の個人情報を、明確にする必要があるだろう。
断固大家族:そこまでの覚悟があるのか?
力学的ゾンビ:確かに個人情報を探ることには問題がある。今のところ、『アサヒマヒル』が実在するかも、どんな漢字なのかも、どこに住んでいるかわからない。
ダイの大暴言:俺たちはそんなこと言っている場合か?地球上の人間が一人残らず死ぬかもしれないっていう時にそんな些末なこと、気にしていられないだろ。
泣く子はビネガー:いざとなればこの裏側で虱潰しに探すしかないかもしれん
宝塚歌劇男dism:極端なことを言えば、あの子供を流産させればこの件は起きない。
サインコサインエージェント:待て、それはそうかもしれないが先にほかの平和的な方法を探すべきだろ。事実確認が最優先だ。そのうえで手段がなくなってからそういう話をすべきだ。
己がどこまでを覚悟できるかを。
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