第22話 幕間
「先生、夜田先生~。起こしに来ましたよ」
「照間君、今日は起こしに来てくれって頼んでいないのだけれど」
「ソンナハズナイデスヨー。ボクガタダヒマッテダケノリユウデクルハズ、ナイジャアナイデスカアー」
「絶対その部分カタカナだ、僕が決めた」
「いや、まあ用と言っていいかはわからないですけど、聞きたいことは星のカーズゥほどありますよ」
「なんでイントネーションをピンク色の悪魔に寄せたんだよ」
「実は僕、HAL研究所の回し者だったんです。少しでも会話に自社のキャラクターを登場させることで権利を発生させてmという儲けようという作戦です」
「作戦を堂々とターゲットの前で話すエージェントがどこにいるんだよ、無能超えて無効化されちゃってるよ」
「ところで、夜田先生、佐倉寄に対しての当たりと言うか言葉遣いというか、態度と言うか何から何まで強くないですか」
「君もそんな言い方薄情じゃないか?まあ、僕のせいか、ハハ」
「はぐらかさないでくださいよ。まあ、そんなに真意が聞けなかったところで特に問題はないですけど」
「そうだね・・・・・・まあ話してもいいか。ライオンが子供のライオンを崖から落とすことと同じさ。いや、栽培漁業の方が近いかもしれない」
「一説によると親ライオンが子ライオンを崖から落とした起源は、崖上でプライドを持たないライオンが襲い掛かって来て親の負ける姿を見せたくなかったと時の強硬手段だったらしいですよ」
「本当に?それは興味深いね」
「(今考えた嘘だけど面白いからこのままにしておこう)ですよね」
「にしても君は話の腰を折る能力は天下一品だね」
「いや、先生の要望通りですけどね、欲しがり屋」
「閑話休題っ!僕は彼に、佐倉君にもっと苦悩を知ってもらいたいんだ。突然投げ出された砂漠の惑星でさまよった時のように。家族が突然毒虫になってしまった時のように。親友に恋人を取られた時のように」
「最後の例だけなんだか実体験の雰囲気を感じますけど・・・・・・重たそうな話題なのでスルーしますね」
「ヨージロー・ノダも乾ききった心が一番のスパイスだって言ってた。要するに今は脂が乗るのを待つ期間なんだよ。大人になるための重要な段階さ」
「まあ、何となく理解できましたけど・・・・・・。それよりその呼び方気になるな~」
「いや、普通にヨージロー・ナノダ」
「どこぞのハムスターみたいな語法になってますけど」
「これ、アメリカじゃあ最先端なんだぜ?」
「ここは日本です」
「それはどうかな」
「全く冗談ばっかり言って。とにかく、僕が思うに度が過ぎてるんじゃないかと苦言を呈させていただきたいんですよ」
「照間君、さては君自炊できないタイプだろ」
「どういう意味ですか?いや、まあ、先生次第ですけど・・・・・・。しいて言うなら一人暮らしをし始めた頃はからっきしでしたね。毎日廉価なパスタや麺類を買ってきては茹でて食べるだけの単調な生活でした。淡白な生活でした」
「超典型的だね。単刀直入に聞こう。君、その麺類のサイクルの前にまともに自炊を試みるも失敗したんじゃないか」
「すごいですね、なんでわかったんですか」
「やっぱりね。料理が下手な人はね、レシピを見ないんだよ。『何となくこれが入っている記憶がある』だとか『これ入れたらうまいだろ』と言って余計な調味料を足すんだ。料理は引き算できないのさ。人生と一緒さ。一度犯した罪はもう取り返しがつかない・・・・・・」
「ここで人生を持ち出すのは不釣り合いと思いますけど」
「ここで大事なのはレシピ通り作ることなのさ。関西人みたいにせっかちになってはいけないのさ」
「江戸っ子も気が短かったりしますから地域で人を括るのには抵抗がありますね」
「大丈夫大丈夫、埼玉県人に比べたら僕の関西いじりも大分可愛いもんさ」
「それもそうですね」
「レシピを妥協しては美味い一皿は提供できない。だから徹頭徹尾、終始一貫、完全無欠にやり切らなければ成功は、成長は無いのさ」
「悔しさを発条にしてくれればいいですけどね」
「悔しさかどうかはわからないけどね。流石にあれほど説教とも説経とも説法とも取れる叱咤激励を受けて何の変化もない人間は居ないだろうし」
「ですね」
「とはいえ、僕が言ったことは無茶な論理のものは避けたとはいえ、それが正解かは僕にだって分からなくて、その本人の状況に応じて求められる答えも有為転変と、無情に別の色を望んでいく。状況とともに本人の状態も要素のひとつ。どんなにいい言葉だって受け取る側の人間が『薄っぺらいな』と感じてしまえばそこまでであって、本来あった言霊の深度も発信された人物で百八十度変わってくる」
「有名な詩人の言葉と芸人の考えたその詩人の特徴を捉えた言葉も見分けがつかないという番組もありましたね」
「それもいい例だね。本物だと思われているものだって、偽物じゃないことの保証なんて誰もしてくれやしないんだ。だからこそ、佐倉君を一度リセットさせてやることも必要だった」
「洗脳まがいですけどね」
「そんなことを言いわれてしまえば、僕としても言い訳を持ち合わせていないけれど・・・・・・英語でもブレインウォッシュというから、一回丸々洗っちまったほうが気持ちいいってもんだよ」
「いやまだ話は終わってないですよ、勝手に格好がついたところで鉤括弧つけないでください。職権乱用ですよ」
「なんだよ、ちょうどいいフレーズだっただろさっきのは。全く、まだ何か用があるのかい、それともないけどかまってほしいのかい?」
「僕、そんな猫みたいに気まぐれに見えますか?
「まあ、前者です。というか、本当に聞きたいのはこっちだったんですけど・・・・・・
「先生、佐倉君に対しての発言の中で矛盾してましたよね。自家撞着というと、今回は一番正鵠を射ることができそうですけど」
「ええ?そうだっけ?」
「とぼけているというよりは忘れているか、何か意図がありそうな反応ですね。
「先生は彼に直接『人に頼るな、自分で考えろ』的な発言をしたにもかかわらず、次の日は電話口で『わからないことを人に聞くことができるのは良いことだ』的な発言をしていました。変です」
「そんなところで上げ足を取るなよ。君、モテないだろ」
「妻帯者ですよ、今は」
「まあいいけどさ。そんなことを言い出したらだね、個人の問題を抱えている人間と人類の問題を抱えている人間とでは対応が変わったとしても何の異常もないだろう?
「話は以上だ。あーあ、キリが悪いことこの上なしだよ」
「でも、それでこそ、なんじゃないですか?」
「まあ、ね」
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