第16話 六月二十六日

 夢を見た。

今日行った施設、病院と同じ匂いがする。

アルコール消毒のいき届いた徹底的までに清潔で菌の排除された空間。

視界には一人の人間もいない。

右の壁には僕を映しだす鏡があって、正面にあったのは赤い「手術中」と青い扉。

招かれているような感覚に襲われ、足が義足のようにも思え実感のないまま進んだ。

入るや否や、煙のように充満した緊張感が抗菌服に関係なく僕を縛り付ける。

 テーブルマナーの悪い子供が出すような金属の重なる音が聞こえる。

何人もの手術台を囲む医師の輪の外に僕は立っている。

いや、立っているかもわからない。膝は笑い、腰は引けている。

人が刻々と入れ替わり、邪魔にならないようにその部屋を出ようとする。

「浅飛まひるさんの数値は?」

その音に呼応して患者の顔を見た。

姉だった。

思ったより動揺しなかった。

おそらく現実での経験から理由は推測できる。つけている腕時計が指し示す日付は「七月三日」だった。

その情報を加味すると、帝王切開というやつだろう。

「お顔見えました」という正解発表があり、夢とはいえどんな顔かは見ておきたいものだ。

現実と比べることに趣がある。

しかし、僕は愛しの甥の御顔を拝むことができなかった。

その代わりにその甥の顔を中心として光が隙間のない花火のように医師たちを包み、僕を包み、病院を包み、国を包み、地球を包んで、すべての命を包み隠した。

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