第31話

 パラテルル神との戦いの後イネスは自室へと運ばれ、泥の様に眠り続けた。

 そうして三日が経った時、ようやく目を覚ますとぼんやりとした視線を天井に向け、ここはどこだっただろうかと考えるのだった。そうして起き上がると、パラテルル神と相対した事以外何がどうなったのかよく覚えていなかった。

 使用人のソーマスが部屋へ入ってくると、驚いた様にすぐに部屋を出ていった。

 それを見て『ああ、ここはクロシドライトの王都の……』とようやく思い出すのだった。

 そしてパラテルル神を亡き者にした時の事を思い出すと、己がどうなったのかを思い出した。

 暫くするとソーマスがシャーリーとエリザを連れて戻ってきた。

「イネス!大丈夫か!」

「神殺しさん、体平気?」

 そう血相を変えて尋ねてくる二人に、淡く微笑むと、

「……よく寝た気がします」

「気じゃない!三日も眠ったままだったんだぞ!どれだけ心配したか!」

「良かった、元気そう……姉様落ち着いて」

 そうエリザに言われてシャーリーは落ち着きを取り戻すと、はぁーと深くため息を吐いた。

「……兄さんが呼んでる。立てるか?」

 そう言われてイネスはベッドから下りると、少々ふらついた。

「大丈夫か!?」

「いえ、大丈夫です。寝すぎた所為かもしれませんね」

 そう言って問題ないと答えると、いつの間にか着替えられていた寝間着から着替えを済ませると、シャーリーとエリザに連れられてバンデンブランのところへと向かうため、自室を出た。

 そうしてバンデンブランの書斎へとやって来ると、シャーリーがノックをして「兄さん、連れてきたよ」と伝えれば中から「ああ、分かった」と声が聞こえてきた。

 そうして書斎へと入ると、バンデンブランは執務作業をしていた。その正面に立つとバンデンブランが首元の文字を眺めながら一言、

「まさか『神』だったとはな」

 それに沈黙するしか無いイネス。

「その可能性を隠していたんだな、君は」

「それは……すみません」

「構わないさ、隠し事があると知っていて君に問い詰めなかったのだから」

 そう頭を下げれば、バンデンブランは困った様なため息を吐いた。

「だが、この事をヘルツェンベルグ統治機構に報告するかどうか迷っている。今君は我々の恩人だ、それが神となったとなるとどういう経緯でそうなったのかという質問が返ってくるだろう……さて、どうしたものかな」

「僕はここには居られないという事ですか」

 それにバンデンブランは無言で頷いた。

「分かりました、この城を出ます。それからは自由に報告してくださって構いません」

「すまないな、君が『神』と分かってから怯える者も少なくないんだ」

「……当然、ですね」

 それに頷くイネスに、シャーリーは、

「兄さん、イネスは私の恩人だ。何かお礼がしたいんだ、頼むから追い出すような事はしないで欲しい」

「……姉様」

 そんな事を言うシャーリーにバンデンブランは、

「もう決めたことだ、彼も了承している」

「そんな……」

 シャーリーは力なくそう呟くと、イネスの方を見た。

「いいんです、色々隠していたのは事実ですし『神』を恐ろしく思うのは分かるので……僕はここを出ます。シャーリー様に命を助けて頂いた恩返しができましたし」

「せ、せめて礼をさせてくれ!何でも良いから!」

 慌てたように言うシャーリーにイネスは、夕焼けの様な瞳を向け小さく微笑むと、

「それじゃ、お願いが一つ」

「なんでも良い、叶えてみせる!」

「お茶、一緒にしませんか?あの温室で」

 と穏やかに告げるのだった。

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