第30話
「……イネス!」
イネスの背中から黒い翼が生えたかと思うと、己の血にまみれたマフラーを投げ捨て、首が露わになるとパラテルル神から首の左側の文字が見えた。
そこにはもう一人の『神』が居た。
「なっ!?まさか!!」
イネスの体がゆらりと揺れたと思うと、姿が消えパラテルル神の顔に思い切り拳で殴りかかっていた。その衝撃でシャーリーの腕を掴んでいた手が離れ、よろけるシャーリーを支えるイネス。
「くそっ、聞いていないぞ!覚醒前の超越者が居るとはっ!」
そう言って翼を動かして空高く飛び上がるパラテルル神に、イネスはシャーリーに夕焼け色の瞳で笑いかけると不器用に翼を動かしてその後を追う。黒い翼を何度も羽ばたかせ、コツを掴むとパラテルル神に向かい合った。
「貴様っ!等級は何だ!答えろ!」
「生憎、知らないんでね」
そうイネスは正直に答えれば「―たつまき―」とパラテルル神は呟いて巨大な竜巻を発生させてイネスをそこに巻き込ませる。
けれどイネスはその手に大気中のマナを集め練り上げると「―なぎ―」という、何故か頭に浮かんでくる神が使う魔術の呪文を唱えれば、その竜巻はそよ風になって消えていった。
イネスのマフラーの無くなった首元の赤く光る文字に目をやるパラテルル神は驚いた様に目を見開いた。
「特級!?そんなもの存在するはずはっ!」
「それが何か?」
「くそっ!!」
それに焦った様子を見せるパラテルル神に、また大気中のマナを手に集め練り上げるとイネスは頭の中に浮かんでくる呪文をまた唱える。
「―こくえん―」
そう呟いた瞬間、黒い炎がパラテルル神を包んだ。
「あがっ!ああっ!くそっ、―いずみ―」
すると水の膜がパラテルル神の体を包み込み、黒い炎は消えた。あれだけ攻撃しても傷付けることが出来なかったパラテルル神の体が、ひどい火傷を負うと悔しそうにイネスを睨みつけてくる。
イネスはパラテルル神に急接近するとその首を掴んで、地面に向かって急降下していく。そしてその勢いのままパラテルル神を地面に叩きつけた。その勢いは凄まじく、地面がクレーター状にひび割れる。
そしてイネスはパラテルル神の翼に手をかけると、思い切り引っ張り始めた。
「翼をもぐ気かっ!離せっ!」
「お前はどれだけの罪のない人を殺したんだ?」
そう静かに問うイネスの言葉に、パラテルル神は答えられなかった。いや、答えを持ち合わせていなかったと言うべきか。
その様子を見て、イネスは更に翼に力を込める。
そして力任せに引き千切る様にパラテルル神の片方の翼をもぎ取った。
「ぐぁぁぁあああ!!」
「それくらい苦しい思いをした人がいるんだ、忘れるな」
そうして頭に浮かんできた呪文を唱えようとすると、パラテルル神が、
「やめろっ、俺は、死にたくなっ」
「お前は死ぬべきだよ」
イネスは静かにそう告げると「―かまいたち―」と頭に浮かんだ呪文を唱え、風の刃を首に当てて苦しみ悶えるパラテルル神の首を切り落とした。
ごろりと転がったそれを、無感動に見つめながら、イネスは自分を呼ぶ声に気がついた。
「イネース!」
大きな声を上げてシャーリーがイネスに向かって駆けてくる。
そうして思い切り抱きついてきた。
イネスは少し身長の高いシャーリーの肩口に顔を埋めて驚きの声を上げる。
「ちょっ、えっ!?止めてください!僕、血だらけでっ!!」
「いい、気にしない」
「いいから離れてください」
そしてシャーリーは渋々イネスから体を離すと、パラテルル神だったものをじっと見つめた。
「やってくれたんだな……」
「……僕自身何が起こったのか全く分からないんですけれど」
「…………黒い翼、綺麗じゃないか」
その言葉に、背中の翼を見るイネス。そうしてゆっくりどうやったのか自分でも分からないが体の中に収めるように翼をしまうと、己の血で血まみれの己を見てどうしたものかと考えるのだった。
「イネス、見ろ、綺麗だな」
背後を見れば、分厚い雲に覆われたこの世界ではめったにお目にかかれない真っ赤な夕焼けに、その夕焼け色の瞳でぼんやりと夕焼けを見つめ、イネスはため息を吐くのだった。
そしてイネスはその出血からだろうそのまま気を失い、その場にドサリと倒れたのだった。
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