第29話
ハウスマン神から聞いた、首が急所だけあって少々のダメージは与えられたようだが、それでは足りない様なのでイネスは懐から短剣を取り出してパラテルル神の目に向かって短剣を突き立てようとするのだが、それは寸でのところで防がれてしまう。
「貴様……何者だ?」
「…………傭兵」
「名乗らんのか、興の冷める奴め」
イネスはこのままでは接近戦を許してしまうと判断したのか、再度「アレガニー!」と炎の魔術を繰り出すと、爆風に乗ってその場を離れた。
そうして地面に立つと、はぁーと息を吐いた。
その様子を遠くから見ているしか出来ないシャーリーは、どうしたものかと考えていた。そして己の下げていたサーベルを抜くと、
「おい!お前の狙いは私だろう!」
「…………そうだったな」
パラテルル神は岩の上から翼を羽ばたかせて地面に下りると、ゆっくりとシャーリーに向かって歩いてくる。
その後ろから恐ろしい速さで近付くと「ストレング!」と水の魔法を繰り出すイネス。それはパラテルル神の頭をすっぽり覆う球状の水の塊だった。ゴポリと息をする術をなくしたパラテルル神はその場に蹲る。
そのスキを狙ってイネスはその翼に狙いを定めると、大剣でもぎ取ろうとした時だ、パラテルル神の低い声が「―おおあな―」と聞こえたかと思うと、パラテルル神の手に黒い穴が空きそこに顔にまとわりついていた水が吸い込まれていく。
「貴様……やるなぁ!」
イネスは急いで距離取ると、嬉々として戦闘を楽しみだしたらしいパラテルル神に向かって大剣を構える。
「貴様、名は?」
「…………」
「答えんか、まぁいい。それも一興よ」
そう言うとパラテルル神は「―いかづち―」と雷を発生させた。イネスめがけて落ちてくる音よりも早いその紫電に、イネスは咄嗟に大剣を地面に挿して後ろへと飛び退った。稲妻はイネスの大剣に吸い込まれるように地面に消えて、それがおさまるとイネスは走って大剣を手にすると「エトリング!」と風の刃を繰り出してパラテルル神に攻撃をかける。けれどもそれは簡単に弾かれてしまった。
この程度か?と思っていたパラテルル神の懐に、先程の風の魔法をおとりにして入り込むと、下段から思い切り首を狙って大剣を突き上げた。
「チィッ!」
イネスの首への攻撃が鬱陶しいのか、再度「―ほむらー」と炎を爆発させると、それに吹き飛ばされるイネス。
けれども、イネスは攻撃の手を止めない。再度大剣を冓え直すと「リチオフェル」と呟いてまばゆい光を発生させると「ゲイリュサック」と呟いて影の中に入り込むと、パラテルル神に向かって、黒焦げになった騎士達の亡骸の影の中を移動していく。そしてパラテルル神の背後に回り込むと、思い切り翼に大剣の刃を立てた。
「ぐぅっ!」
思ってもみなかった方向からの攻撃に、パラテルル神は驚きを隠せなかった。けれど翼の付け根に刃を当てるのだが一向に切る事が出来なくて、イネスは焦る。
そうしているとパラテルル神は鬱陶しいとばかりに裏拳をイネスめがけてかけてきた。それを寸でのところで避けたのだが、肩を負傷しマフラーの一部が千切れた。イネスは咄嗟にパラテルル神と距離を取る。
何度攻撃してもこの大剣では傷一つ付けれない、肩を庇いながら大剣を冓え、次はどうしたものかとはぁーとため息を吐いて考えていた時だった。
「鬱陶しい奴め」
そう言うと、一瞬パラテルル神の姿が消えた。
そして次の瞬間、気がついた時にはパラテルル神の腕がイネスの胸を貫通していた。
神の本気の一撃にイネスは反応することが出来なかった。
それにシャーリーは息を飲んだ。
そして勢いよく腕を引き抜かれ、イネスは膝をついて、その場に倒れ込んだ。そこから大量の血が地面に広がっては染み込んでいく。
「そんなものか?もっと骨がある奴だと思ったのだがな?」
パラテルル神の笑う声が遠くに聞こえながら、イネスは意識を失った。
「さて娘、来い」
「そう簡単に行くわけ無いだろう!」
シャーリーはイネスの方をチラチラと見ながら、迫りくるパラテルル神にサーベルを構える。
「ほう?そんなにアレが気になるか?」
「五月蝿い!近付くな!」
そうして近付いてきたパラテルル神にサーベルで何度も切りかかるが、傷一つ付けることが出来なかった。そうしてサーベルを持つ手を捕まれ、骨が折れるのではないかという程の力で腕を握り締められサーベルが手から滑り落ちる。
「さて、行くぞ」
「行かない!行かないぞ!私は絶対に行かない!」
そんな悲痛を含んだ声がイネスの耳には届いていた。
貫かれたはずの胸は段々と塞がり、どくんどくんと心臓が五月蝿いほど鳴ったかと思うと背中が異様に熱かった。千切れたマフラーの間から首の左に刻まれている文字が赤く光りだした。
そうして気がついた時にはゆっくりと起き上がり、
「…………その人に、触るな」
「なにっ!?」
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