第25話

「私はその繋がった異世界から来たからだよ」

「っ!?」

「私の居た世界はビンドハイムと呼ばれていた。私はそこから来た。そこでは日々戦争に明け暮れ、足りない兵士たちを行き過ぎた科学技術を使って培養槽で作り出して兵士として使役している世界だ。私もその培養槽で育った者の一人だ。そこで兵士として戦いに明け暮れていたいたが、攻撃を受けて気を失った時にこちらの世界にやって来ていた。最初は驚いたさ、何が起こったのか分からなかったし、ここが今まで居た世界と違うという結論に至るまでかなりの時間を要したのだから」

「……その話が仮に本当だとすると、貴方は異世界から来た人間になるのか?」

「そうだと言っている。そして私以外の超越者、神と呼ばれる存在は皆そこから来た者達だ」

「っ!?」

 その言葉にシャーリー達は驚きを隠せなかった。

「だという証拠は?信憑性に欠けるんだが?」

「『神』と呼ばれる者達は、培養槽で作られる過程で毒素に強くなる様にされていて、こちらの世界の不治の病であるクロリトイド症候群に罹ることはまずない。筋力や持久力も高く作られていて威力の高い魔術を使う事も出来る。こちらの理とは違う理を元にして使う魔術を。その上長く戦えるようにと寿命が長く設定されている。私はこれでも先の大戦の集結頃にこちらに来た、そしてまだ生き続けている。それからある事をすると私や他の神の様に背中に翼が生え、空を飛び回れる様になる。何故そんな事が出来るかと問われれば、そういう風に作られているからだとしか答えようがないな」

 シャーリーはハウスマンをじっと見つめる。嘘を言っているのか違うのかを見極めている様だった。そうして質問を続ける。

「どうしてこの世界に来たんだ?」

「偶然さ、私自身どうやって来たかも覚えていない。けれど元の世界に帰りたいとは思わない。あんな殺し合いばかりの世界には」

 寂しそうな声音で呟くように続けるハウスマンにシャーリーは、違う質問を投げかけた。

「他の『神』もそうだと言ったが、どうしてそうだと言える?」

「簡単さ、私と同じ特徴を持っていると聞いたからさ。人の噂というのは思ったよりも早く伝わるものだから。それにやろうと思えばこちらの人々に神だと分からない姿になることもできるからね、たまに街へと出て食料や情報を集めたりしているのさ」

「ペントランド神が死んだ事は知っているのか?」

「ああ、知っているさ。会いに行った事があるけれど、あまり良い性格とは言えなかったからね、そうなっても仕方ないと私は思っているよ」

「眼の前にそれをやった奴が居るけど、何か感想は?」

 そうしてハウスマンはイネスに視線を向けると、憐れむような顔をして、

「よく殺せたものだと感心しているよ。一つ聞くが、どうやって殺したんだ?」

「…………翼をもいで、首を切り落とした」

 とバンデンブラン達には話さなかったとどめの方法を告げると、ハウスマンは、

「やはりか。私達は首を切り落とさない限り死なないように作られているからね、翼も再生可能なのをペントランドは知らなかったのか?……まぁ、私が人生を終わらせたい時には頼むかもしれないな」

「…………」

 それに無言でじっと見つめ返すだけのイネスに、ハウスマンは視線をシャーリーに戻すと、

「他に聞きたいことがあれば答えるが?」

「簡単に説明するなら貴方達は何なんだ?」

「異世界で作られた人工生命体さ、寿命もいじられているから果たしてどれくらい生きるのかも分からない。実際私は二百歳を超えるからね」

「貴方達の体を調べて病気や寿命の研究をしようとする輩が出てくると思われるが、どう思う?」

「無駄な事だ、世界大戦中ならいざ知らず、今のこの世界と我々の居た世界とでは技術力が違いすぎる。調べるのは自由だが解析不能な事ばかりだろう」

「貴方達は互いに連絡を取り合ったりしているのか?協力関係にあったりするのか?」

「いいや、居場所は人間の流す噂を頼りに特定して会いに行くといった感じだ。我々は今まで強制的に複数人で行動させられていたからね、その反動で一人で居たいんだよ。一人で考える時間すら無かったからね、今は第二の人生を謳歌していると言っていい。だからこちらの人間に挑発的な態度を取る輩が居て困っているのだがね」

「個人的に『ユージアル教』について思うことは?」

「物好きな連中だ、と言いたいところだが己と違いかけ離れた存在にはそういう感情を抱くのも人間だ。だからそれ以上の事は思わないね、私は。他の連中ならば『当然の事だ』とか『そうするのが当たり前だ』と言うかもしれないがね」

「嫌いな奴は居るか?」

「私は隠遁生活を望んでいるのでね、他の連中と積極的に関わろうとしない。だからそんな感情を抱く暇があるなら、少しでも生活しやすくする努力をする方に力を入れたいね」

「……こうやって話していて思ったのだが、貴方は他の『神』と比べて友好的であると考えていいのか?」

「そう判断してくれるなら嬉しいが、あまり関わろうとしないで欲しいな。先程言っただろう隠遁生活が楽しいのだよ、だから私の生活圏に入らないで貰いたいな」

 シャーリーはそれだけ聞くと、はぁとため息をついて、

「……この事を全てヘルツェンベルグ統治機構に報告しても?」

「構わないよ、ただ私を退治しないで貰いたいな、山奥で静かに隠遁生活をしているだけで、他の連中の様に世の中に迷惑は掛けていないと思っているのでね」

「分かった、貴方の所在については語らない様にしよう」

「それはありがたい」

 会話が終わりに近づいて、イネスは慌てて、

「あのっ、貴方は何の為に来たんです?自分の生い立ちを語りたいだけなんですか?」

 それに思い出したかのように、ハウスマンは、

「ああ、忘れていた。お嬢さん、パラテルルに迷惑を掛けられているのだろう?」

「……知っているのか」

「勿論、パラテルルが直接私のところにやって来ては、得意げに話して行ったからね」

 それを聞いてシャーリーは複雑な表情を浮かべると、ハウスマンに尋ねる、

「アレを殺すことは可能か?」

「勿論、我々は不死身ではない、ただ私は戦いたくないね、パラテルルとは」

「それは、どういう……?」

 ハウスマンは爬虫類の皮膚の手で、同じく爬虫類のそれになってしまっている首の左側を指しながら、

「我々は生まれつき順位が付けられているのさ、下級、中級、上級とね。戦争において弱い者はおとりに、強いものは敵の殲滅に、そう使う為に生み出された存在だからね。パラテルルは上級、私は下級、そもそも勝てない様になっているのさ。……ここにナンバリングされているんだが……私のはもう見えなくなってしまったがね」

 それにイネスはマフラーを引き上げた。

「生まれつきどう生きるかが決まっているのか……」

「それは貴女方二人には変わらないと思うのだがね、違うかい?」

「まぁ……確かに。けれどこの先何が起こるか分からないのが人生なのだと思っているんだけれどな」

 それにハウスマンはハハハッと笑って、

「お嬢さん、前向きなんだね。私には無い感情だ。羨ましいよ」

「で、パラテルルの弱点でも教えてくれたっていいんじゃないか?」

 ハウスマンは穏やかな表情を浮かべると、

「奴は慢心している、この世界で自分より強い者はいないと思っている、そこを突くのがいいだろう」

 そうしてチラリとイネスを見て、

「やつの天狗になった鼻をへし折ってやって欲しい、正直アレが私は苦手でね。頼むよ神殺し君」

「……勿論そのつもりですよ」

 マフラーに顔を埋めてそう呟くイネスは、何かを決意したかの様な夕焼け色の瞳をハウスマンに向ける。

「…………さて、私はそろそろ行くとしよう。騎士団が騒ぎだしたようだ」

 見れば王城裏門に騎士達が集まっているのが遠くから見えた。

 ハウスマンは立ち上がると、コウモリの様な羽を広げてゆっくりと羽ばたかせて宙に浮くと、

「それでは、お邪魔したね」

「いや、貴重な話が聞けた。こちらこそ感謝を」

「そうかい?なら良かったよ」

 それだけ言うと、ハウスマンは天に上り小さな点になるまで上昇すると北へ向かって飛んでいった。

「…………はぁ~緊張した~」

「……姉様大丈夫?」

「パラテルル以外の神と話をしたことがなかったからな、あんな穏やかな神も居るんだな……この事をヘルツェンベルグ統治機構に報告書を書かなければいけないな」

 そう言いながらぐったりとしているシャーリーは、じっとハウスマンが消えた北の方角を見ているイネスに、

「パラテルル、強いってさ?勝てる?」

「…………僕は、僕のやるべきことをやるだけです」

 そう言うとイネスは振り返ってその夕焼け色の瞳でシャーリーを見つめた。

「さて、騒ぎになっているようだから帰るとするか……どう説明したものかな」

 岩から立ち上がると、ゆっくり王城へと向かって歩き始めるシャーリー。それを追う様にエリザとイネスも続く。

「気分転換の散歩がこんなことになるとは思わなかったな……」

「…………」

「おーい、イネスどうかしたか?」

 ぼんやりとしているイネスにシャーリーが声をかければ、慌てた様に、

「は、はい!なんでしょうか?」

「ハハッ、考え事か?」

「ま、まぁ……」

 慌てて返事をすれば、シャーリーが笑顔を向ける。

「緊張したんですよね、神殺しさんも」

「それは、エリザ様は緊張したってことですね」

「私も緊張したよ、『神』とは未知の存在だったが、そういう理由があったとは……」

 それにイネスは小さく笑みを浮かべて、

「そうですね、やっぱり緊張しちゃいますね」

「あーこれからこの事の報告書書きかーめんどくさい」

 そう言いながら王城へと戻ると、騎士達が心配そうに声をかけてきたが、

「攻撃はされていない、話をしただけだ。私はそれの報告書を書かなければいけないので先に失礼する」

 そう騎士達に言って三人は自室へと戻っていった。

 イネスは使用人ノソーマスの案内で自室へと戻ってくると、大剣をソファに立て掛けマフラーはそのままに分厚いコートを脱いでソファに引っ掛けると、ゴロリとソファに寝転がった。そしてじっと天井を見つめる。何かを決意したかのように。

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