第23話

「なんだイネス?兄さんと話していたんじゃなかったのか?」

「いや、あの……その……」

「私の話には付き合えんらしい」

 とバンデンブランが言うのが聞こえて、イネスは慌てて、

「いえ、そのですね、色々ありましてっ!」

「兄さんまた女の好みの話とかしたんでしょ、そういうの人によるから気をつけた方がいいっていつも言ってるじゃん」

「ああ、神殺し殿はそういった話は苦手らしい」

「それで出ていかれそうになったんだ、ほら、イネス、私も同席するから兄さんの話に付き合ってやってくれないか?前々から同年代の男の話し相手が欲しいって言っていたんだ」

 そうシャーリーに言われたのでは断れる筈もなく、イネスは先程座っていた席に戻るのだった。

「で、どういう話になったの?」

「見合いの相手は妥協しろと」

「それ私も言ってたよ」

「やはり同年代の男に言われた方が説得力があるな」

 そんな先程までのやり取りをぶり返されて、イネスは大きくため息を吐く。

「やはり知的美人を最優先事項にするとして、そういった相手に心当たりは?」

「うーん、送られてくる見合いの話は沢山あるからな、覚えきれてないや」

「机に山積みにしているのを一つずつ確認するのか……はぁ、面倒くさいな」

 どうやら山の様に送られてくる見合いの話に、やはり大国の国王になると規模が違うのだとイネスは実感する。

「そんなに送られて来るんですか?」

「そりゃクロシドライトと太いパイプが欲しい輩は山の様に居るからな」

「はぁ……大変ですね」

「公務に支障が出ない程度に確認はしているんだが、量が多くてな、正直困っている。黒髪眼鏡の知的美人なら即採用なんだが……」

「居ないから迷っているんですか?」

「そうなんだ、どうしたらいいと思う?」

 イネスはもう呆れながらバンデンブランの話を聞いていた。相手を選び放題の中から自分の好みが居ないという贅沢な悩みに、イネスははぁーとため息を吐く。

「兄さん、妥協してって、見た目じゃなくて大切なのは相性だって」

「分かっている、だが多少のこだわりくらい構わないだろう?」

 等と言いながら妥協しないバンデンブランに、イネスは深くため息を吐くしか無かった。

「陛下、妥協してないですよ。好みはもっと絞りましょう?」

「知的眼鏡までなら妥協するか……」

「いえ、眼鏡もナシでいきましょう、知的なところだけで後は会ってみての相性で考えましょう?」

「そうだよ、兄さんそれでいこう。私にとっては姉になるんだから性格美人の方がいいよ」

「そう……だな、相性か……あまり考えていなかったな」

 イネスはもう本気で心配になり始めた。こんなに見た目にこだわりがあるのに、内面の方は一切気にしていなかったという点で、色々と気になってしまっていた。

 同じ男として見た目にこだわりがあるのは分かるが、やはり性格を重視したいイネスにとっては、シャーリーの淑女のそれとは違った堂々とした立ちふるまいが凄く好きで、話をしていても好ましいと思っていた。

 けれどバンデンブランはそうではなく、見た目重視というのは危ういと思うのだった。

「もし王室乗っ取りを考えてるような相手だったらどうするんですか?結婚してからでは遅いんですよ」

「イネスの言う通りだ、兄さん、条件は一つに絞って会って話してみてから相性で考えよう?」

「うーん、やはりそうなるか?」

 それに二人が頷けば、バンデンブランは仕方がないとばかりに、

「それじゃ眼鏡で……」

「いや、その条件は止めた方がいい。性格面の方の条件に絞ろうよ」

 この期に及んで見た目を条件にしようとするバンデンブランにシャーリーはそう言うのだった。

「僕も性格の方から考えるのがいいと思います。陛下ご自身の研究に興味のある方が良いと思います」

「ほらイネスの言う事がもっともだ、知的美人で探そう。本人も何かを研究してるようなそんな人がいいと私は思う」

「そうか……」

 言葉を濁しながらやはり見た目にもこだわりがあるらしいバンデンブランにイネスはもう呆れるしかなかった。いい加減、知的な女性だけに絞って考えて欲しいと思うのに、見た目に対してのこだわりを捨てられないところに同じ男として分かるところはあるが、ここまでくると執着に近いなと思って仕方ないのだった。

 国王としては優秀なのかも知れないが、一人の男としては少々、いやかなり問題のあるバンデンブランにイネスは深くため息を吐くと、

「知的な女性から探しましょう、陛下。もう諦めてください」

「いや、しかしだな……」

「兄さん、いい加減にしてよ、ホントにさ……」

 そうしてシャーリーを交えたバンデンブランとのやり取りは、結局のところ夕食直前まで続いたのだった。

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