第21話

「そう……だったんですか」

 イネスは王女が外交関係の仕事をしているのを聞いたのは初めてだった為、そんな理由があったのかと納得した。

「とはいえ、外交関係は面倒なやり取りが多いからな、心労が溜まるよ」

「それは、その……お疲れさまです」

 そうペコリと頭を下げながらイネスが言えば、シャーリーは茶を飲みながら心労なんて感じさせない様に笑うと、

「本当に私がやって良かったと思っているよ、外交は腹の探り合いだからな、気力がいる。兄さんは国内の事だけで手一杯だから……ああ、そうだ兄さんの事なんだが聞いてくれないか?」

 突然話が変わったのにイネスはコクリと頷くと、

「兄さんの婚約者が駆け落ちしてな、正直結婚はどうなるのか心配で仕方がないんだ」

「駆け落ち……ですか?」

「そう、駆け落ち。そんな相手が居るなんて聞いていなかったから、報告を受けたときは驚いたよ」

 それは驚くだろうと思うイネスだったが、頷いて続きを促した。

「兄さんはもう三十歳前、いい加減相手を決めて早いところ結婚して貰いたいんだが、なかなかうまくいかなくてな……どう思う?」

 なにやらイネスにアドバイスを求められた事に驚きながらも、国王のバンデンブランとはイネスとはほぼ同い年だということが分かり、そんな年頃の男からのアドバイスをと考えるが、出てきたのは、

「その……国王陛下はどちらかというと王というよりは学者に近い印象を受けました。年上好きの学者肌の女性を探してみてはどうでしょうか?」

「学者で年上好き……か、なるほど。まぁ、兄さんの趣味は歴史文献を読み漁ったり、そこから論文を書いたりだからな……そういう方向で見合い相手を探してみるか。ありがとう、参考になった」

「いえ、思ったままを言っただけです」

 思いがけない感謝の言葉にイネスは顔が赤くなるのが分かった。

「それより、シャーリー様はどうするんですか?例の『神』に婚約者を……」

「私はどうにでもなるだろう、行き場がなければここで外交の仕事を続けるだけさ」

「は、はぁ……」

 自分の事はあまり心配していない様子のシャーリーを見て、イネスは曖昧に答えるしか無かった。

 シャーリーは茶を飲み、菓子を摘んで、またゆっくりと茶を飲んだ。

「他に聞きたいことがあるなら答えるが?」

「……エリザ様にも婚約者は居るんですか?」

「一応ゼノタイム国の王子と婚約関係にあるよ、何度か顔を合わせているし、クロシドライトの王女なら嫌がるところは無いだろう。私と違って淑女だしな」

「本当に自分の心配はしないんですね」

 呆れたようにイネスがそう言えば、シャーリーは笑うだけだ。

 そうしていると温室の扉が開いた。扉の方を見ればエリザが立っていた。

「あの、その……神殺しさん、遅くなってごめんなさい」

 そう言ってゆっくり温室の中へと入ってくると、空いている席に腰掛けるエリザ。

「話は聞いています、ので気にしないでください」

「そうそう、私が色々と話しをしてたからな、暇つぶしには良かったぞ」

 シャーリーはそう言いながらゆっくり茶を飲む。

「姉様はどうしてここに?」

「仕事が一段落して暇になったからイネスに話を聞きにな?でも、私の話の方が多かったな」

「色々と知れて良かったですよ」

 イネスは茶を飲んでそう言うと、エリザの方を向いて、

「今からお話しますか?」

「おねがいします!」

 と言うエリザに、シャーリーは嬉しそうにエリザの頭を撫でると立ち上がって、

「新しい茶と菓子を用意してもらうとしよう。私はそろそろ仕事に戻るよ、いい気分転換になった」

「それは良かったです」

 イネスの言葉に満足気に頷くと、シャーリーは温室の扉を開いて、ゆっくりとした足取りで出ていくのだった。

 暫くすると使用人達がやって来て、先程まで飲んでいた茶器や菓子を新しい物へと換えると礼をしてそそくさと立ち去った。

「……神殺しさん、姉様と二人きりでどうでした?」

「どうって……その話ができたのは嬉しかったですけど、それだけですよ」

「好きだとか言わなかったんですか?」

 すばりと聞いてくるエリザにイネスは茶を喉に詰まらせて咳をしながら、

「そういう雰囲気にはならなかったので……無理でしたね」

「ふーん……それで、どんな話をしてたんです?」

 イネスの正面に座り直したエリザは興味深げに聞いてきた。

「その……お二人のお父上とお母上について教えてもらいました。それと国王陛下の婚約者の話とか……」

「姉様、兄様の事心配しすぎです。自分の事をもっと考えて欲しいです」

「それは僕も思いました」

「ですよね」

 そうふたりは頷き合うと、

「それじゃ、今日は何の話をしましょうか?」

 と随分と遅くなった、毎日のやり取りを始める二人だった。

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