第20話
それから数日経ったある日、イネスはエリザに話を聞かせる為に温室へと入った。
けれどいつもは先に来て待っている筈のエリザの姿が無かった。用事か何かで遅れているのか?と思い椅子に腰掛け、テーブルの上に用意されていたティーポットからカップに茶を注ぐとゆっくりと飲む。
そうして菓子に手を伸ばし待っているのだが、一向に姿を見せないエリザに、
「体調が悪い……とかじゃ、無いといいんだけど」
と呟くのだった。
茶を飲み菓子を頬張って待つこと数十分、温室の扉が開いた。
「遅かったですね、何か用事でもあったんですか?」
とエリザに語るように扉の方を見れば、立っていたのはエリザではなくシャーリーだった。赤毛をポニーテールに結い上げ、深い緑のパンツスーツを身に纏ったシャーリーを見てイネスは慌てて席を立つ。
「ど、どうしたんですか!?何か急用ですか!?」
「いや、別に用はないんだが、少しばかり時間が空いてしまってね、話でもしようかと思ってきたんだが」
「そうですか……って、エリザ様はどうしたんですか?待っていても来ないので少し心配で……」
イネスがそう言うと、シャーリーは困ったように、
「家庭教師に昨日のテストの成績が悪くて、補習授業を急遽受けることになった。連絡が遅れてしまってすまない」
「そう……でしたか。体調が悪いとかでなくてよかったです」
そんな風にやり取りしながらシャーリーはイネスの正面、いつもエリザが座っている席に着くと、随分と濃くなってしまった茶をカップに注いで飲んでは顔をしかめる。
「新しいお茶を頼みましょうか?」
「いや、いい。大丈夫だ」
そうして濃い茶を飲みながらシャーリーは、
「今日はエリザの代わりに私に話を聞かせてくれないか?」
「それは、構いませんが……」
赤くなる顔をマフラーで隠しながら、イネスはそう答えると、何から話をしたものかと考えるのだが何も出てこない。うーんと考え込む様子のイネスを見て、シャーリーは、
「なら、私から話をしようか」
「シャーリー様が、ですか?」
「興味は無いのか?」
「あ、あります、聞きたいことが色々と……」
シャーリーはその言葉に軽くウインクをすると、
「さて、何が聞きたいんだ?」
「その……不躾な質問になるのですが、シャーリー様の兄君、国王陛下とエリザ様お二人とシャーリー様はあまり似ていないなと思ったのですが……聞いても大丈夫でしょうか?」
「なんだ、そんな事か。簡単だ、私は妾の子だからだ」
なんでもないように答えるシャーリーに、そんなにあっさりと答えられて少々呆然とする。
「妾の……ですか」
「ああ、私を産んですぐに病気で亡くなったと聞いている。だから私は母親の事を覚えていないんだ。伝え聞いたことは赤毛の美女だったという事くらいか?」
あまりにもあっさりと答えるシャーリーに、親を知らないという事実に聞いていいのか迷ったが、
「寂しいとか……無かったんですか?」
「いや、実の母親は覚えていないが母様……兄さんとエリザの母親が私を我が子の様に育ててくれてな、とても感謝している。兄さんは生まれつき体が弱いし、昔の怪我で足を悪くしてな……二人揃って母様に世話になったよ」
「エリザ様は……年が離れていると聞いていますが」
「ああ、母様はエリザを産んですぐにクロト病に罹ってな、私は何もできなかったよ。けれど母様は私に妹を、エリザを頼むと言ってくれてな……母親を知らないエリザにとって私は姉であって母親代わりでもあるんだ」
そんな事を淡々と話すシャーリーに、聞いてもいいのか迷ったがイネスは意を決して、
「お父上は……先代陛下は、やはりご病気で?」
「ああ、母様と同じ頃にクロト病で……それで兄さんが十六歳の時に王座に就いた。その前から摂政として公務をしていたから引き継ぎはスムーズだったよ。兄さんも私の事を妹として可愛がってくれてな、何か力になれないかと思って、私は体の弱い兄さんに変わって外交を引き受けることにしたんだ」
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