第19話

 そうイネスがため息まじりに答えると、エリザは続ける。

「基本的に一皿につきカトラリーは一組ずつ使います。食べ終わった後はお皿に乗せたままにして一緒に片付けて貰います」

「そうなんですね、なんとなく分かってきた気がします」

「ここでは前菜、スープ、魚料理、肉料理、デザートという順で出てきます。あ、パンは好きな時に食べて貰って大丈夫ですよ」

 それにイネスは何度もうんうんと頷く。

「……料理を全部食べ終わった後にも決まりとかありますか?」

「これと言ってありませんけど……あ、ナプキンは綺麗に折り畳まないで雑に椅子に置いて貰ってだいじょうぶです」

「え、ポイって置いていいんですか?はぁ~知りませんでした」

「こんなところでしょうか?後は実践あるのみですよ、神殺しさん」

「が、がんばります……あの話は変わるんですけど、別の相談をしてもいいですか?」

 エリザが首を傾げながら頷くのを見ると、イネスは顔を赤くしながら、

「……僕、シャーリー様を見ると顔が赤くなって心臓がバクバクとして落ち着かなくなるんですが、何かの病気でしょうか?」

「本当に突然話が変わりますね」

「いいじゃないですか、大の大人が恥を忍んで質問しているんです、適当に答えないでくださいよ!」

 慌てるように早口でまくしたてるイネスに、エリザはくすくすと笑いながら、

「わかりました、ちゃんと聞きますから。それでどうなるんですか?」

「さっき言ったじゃないですか!?」

「すみません急だったので聞きそびれました」

 イネスは更に顔を赤くしながら大きくため息を吐くと、先程の言葉をもう一度エリザに伝える。するとエリザはキョトンとした後、ボソリと呟く。

「…………これが、例の」

 そうしてイネスの隣の席に座った、何かキラキラとした目で見つめてくるエリザに、イネスは、

「……あの、何か知っているなら教えて貰えませんか?」

「ズバリ言います、それは恋です」

「……は?」

 思ってもみなかった言葉に固まるイネス。

「好きだから顔を見るだけで照れてしまう、好きだから心臓がうるさくなる、好きだから落ち着かなくなる。私の読んできた恋愛小説の中にはそういうのがいっぱいありましたよ」

「…………恋?僕が?」

「だからそうだと言っているんです」

「相手は……シャーリー様……」

 そうぼんやりと中を見つめると、更に顔を真っ赤にした。

「あわわわ、バ、バレているでしょうか!?」

「姉様は観察力が鋭いから多分気付いていると思います」

 それに頭を抱えるイネスに、エリザは、

「もしかして初恋とかですか?」

「こ、恋なんて自分には遠い存在だと思っていたので、こんな体験したことありません……初恋、になるんですね……シャーリー様、綺麗な方だなぁと思ってはいましたけれどそこまでなんて思ってもみませんでした」

「お何歳でしたっけ?」

「二十九歳です」

「……随分と遅い初恋ですね」

「じ、自覚はありますよ、こんな年になるまでそういう事に縁が無かったって」

 頭を抱えたままのイネスに、エリザは、

「……告白しに行きます?」

 それに思い切り首を振って、マフラーがそれに合わせて揺れる。

「なら、ご自分のしたい時にすると言いですよ。急いじゃ駄目って、小説には書いてありましたから」

 エリザは更にキラキラした目でイネスを見つめる。

「そう……なんですか……まあ、まずはシャーリー様を見ても顔が赤くなったりしないようにならなきゃいけませんね」

 それにエリザは嬉しそうに微笑むと、

「頑張ってくださいね、それとどうなったのかの報告もしてください」

「ええ!?報告しなきゃ駄目ですか?」

「相談してきたのは神殺しさんからですよ?アドバイスしたのですからどうなったのかくらい教えて下さい」

 エリザの言う事はもっともだったので、イネスは仕方なく了承すると、ぼんやりとした目で遠くを眺めるのだった。きっとシャーリーを思い出しているのだろうとエリザは思った。

 それから昼食になったが、バンデンブランもシャーリーも公務が忙しいらしく、イネスは先程教えてもらったマナーに気を使いながらエリザと二人で昼食を取った。

 その後は腹ごなしも兼ねて騎士団へと赴き、そこで来たるべき日に備えて剣技に磨きをかけるのだった。

 そうして夕食になると、バンデンブランとシャーリーも一緒にエリザに教えて貰った通りにカトラリーを使い、少々緊張しながら食事を取るのだった。バンデンブランやシャーリーの目にどう映ったかは分からないが、食事終わりにエリザが笑顔だったところを見ると、粗相は無かっただろう事が伺えた。

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