第18話

 それからイネスはほぼ毎日エリザとの茶をしながらの話を終えると、騎士団との鍛錬を行うようになった。

 自前の大剣を持って騎士団詰め所を尋ねれば、喜ぶ者、逃げる者、と反応は様々だったがイネスは相手をしてくれる騎士には全力を持って挑み、相手にも悔いのない戦いになるようにと努めた。

 イネスが持っている自前の大剣を使っての素早い動きと連携させる魔術に騎士達は驚いていたが、イネスにとってはパラテルルに対抗するために腕を上げなければいけなかったので、そんな事はあまり気にせずただただ騎士達を相手に暴れまわる様に鍛錬を行うのだった。


 そうして数日が経ったある日、いつものように温室でエリザと茶を飲んでいると、イネスはエリザにとある相談を持ちかけた。

「その、聞いて欲しい事があるんですが……」

「旅の話ですか?」

「違います。あのですね……僕にテーブルマナーを教えて欲しいんです。いつも見苦しいところばかり見せてしまって、申し訳ないと思っていまして……」

 二十九歳の男が十三歳の少女に教えを乞うというのは結構な勇気がいるものだ、けれどイネスのその言葉にエリザはキョトンと首を傾げながら、

「テーブルマナーですか……私や兄様姉様は気にしないって言っていますし……」

「いえ、僕が心苦しいんです。お願いですから教えて頂けないでしょうか?」

 それにエリザはカップに入った茶を一口飲むと、

「そこまで言うのでしたら……その、私で良ければ」

「はい!ありがとうございます!」

「では、お茶が終わってからにしましょうね。今日はどんなお話を聞かせてくれるんですか?」

 と言うエリザに、イネスはガクッとしながらも「そ、そうですね……」と苦笑いを浮かべながら、旅の話を始めるのだった。

 そして話と茶が終わると、エリザは使用人に何かを話している様だった。そしてイネスの方を向くと、

「食堂に練習の用意を頼みました、ので食堂へ行きましょう」

「はい、分かりました」

 そう言ってイネスはエリザの後を付いて食堂へと向かうのだった。

 食堂へと来ると、いつもイネスが座っている席に食器とカトラリーが置かれていた。その席に二人近付くと、

「それじゃ座ってください」

「はい、えーとまずは何を?」

 着席すると傍らに立つエリザを見ながら、イネスは何をどうしたものかと手と視線を彷徨わせる。

「まず、テーブルの上のナプキンを広げた後適当な大きさに折って膝に乗せてください」

「これ?ですか?いつもどうしたらいいのか分からないままだったんですけど膝に乗せるんですね」

 イネスは言われるがままナプキンを広げた後適当な大きさに折って膝に乗せた。

「これでいいですか?」

「はい、それで大丈夫です。それでナイフとフォークは基本的に外側から使います」

「そうなんですか……今まで一番内側のを使っていました……それには何か意味があるんですか?」

「運ばれてくるお料理に合ったナイフとフォークなんです、柔らかい物を切るナイフとお肉を切るナイフが一緒だと使いにくいですから」

「……なるほど」

 何度も頷くイネスに、エリザは逆に質問した。

「あの、失礼な聞き方になるんですけど、今まではどうやってお料理を食べてきたんですか?」

「……平民はカトラリーを複数使いません、何を切るのも同じナイフを使いますし、フォークも同じ物を色んな料理で使います。理由は多分ですけど、洗い物が増えるのが嫌なんだと思います。特に大きな街の食堂とかになると」

「……そう、なんですか。今物凄く違いに驚いています」

「…………でしょうね」

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