第17話

 エリザと一緒に温室を出ると、エリザの案内で騎士団の詰め所へと向かう。王城の隅に近衛騎士団の詰め所があり、そこから外の騎士団の稽古場や宿舎へと繋がっているようだった。詰め所の扉をノックして扉を開けると、

「こんにちわ」

 と言ってエリザは礼をする。それに近衛騎士の一人が慌てて立ち上がると、

「エリザ様っ!?何故この様な場所に……」

「今日は姉様が稽古に出てるって聞きました、ので神殺しさんと見学したいなと思いまして」

「そう、ですが……そちらが、例の?」

「はい、そうです」

 エリザがそう言うと、騎士達の視線がイネスに集中する。それに居心地が悪いのかマフラーを正して視線を逸らすと、

「神殺し……一度手合わせ願いたいと思っていました。こちらへ」

 そう案内されるがまま、詰め所の中を通って隣り合う稽古場へとやって来た。

 そこでは重い甲冑を着て木剣を手に模擬戦闘を何人もが行っていた。

 その奥、革鎧を着たシャーリーが木剣を手に騎士団員相手に稽古をしていた。その眼差しは真剣そのもので、その姿を見た途端イネスは顔が熱くなるのが分かった。

「神殺しさん、熱でもあるんですか?」

「い、いえ、なんでもないので、お気になさらず」

 そう言っていると、イネスとエリザの存在に気付いたシャーリーが、稽古を中断して、汗を拭きながらやって来た。

「何だ?二人揃って見学か?」

「姉様の稽古が見たくって」

「ははっ、見ていてもつまらないだろう?」

「いえ、格好いいです」

 そう言うエリザの言葉にイネスは頷きながら、他の騎士達も稽古の手を止めて二人を見やる。そうしているとその内の一人がイネス達に近づいてきた。茶色い髪に緑の瞳をした背の高い騎士だった。

「おーおー、あんたが神殺しって奴かい?だったらちょっと俺の相手をしてくれないか?」

「え?手合わせですか?」

「おうよ、安心しろ木剣でやり合うだけだから」

 と言われてその騎士が持っていた木剣を手渡されると、その軽さに少々眉をひそめるイネス。

「どうしたんだ?」

 そう聞いてくる騎士に、イネスは思ったままを答えた。

「いえ、木剣は軽すぎてすぐに折ってしまいそうで……他に何か重い武器はありませんか?」

「言うねぇ……なら、こっちだ」

 イネスは言われるがまま騎士の後を付いて行き、壁に掛けられた大きな斧を目にした。

「これは三代前の騎士団長が使っていた武器だ。他に使いこなせる奴が居ないからこうして飾られたままなんだが……そんな小さい体で使えるのか?」

 騎士の言葉に少々ムッとしたイネスは、その斧を手にすると軽々と持ち上げ肩に担いだ。

「……丁度いいですね」

 それに驚きながらも、調子を変えない騎士は、

「……ならこちらも木剣じゃなく本物の剣でやらせてもらっていいか?」

「どうぞ、ご自由に」

 そうして二人は稽古場へと戻ってくると、他の騎士たちは二人の戦いを観戦する様に壁際に下がっていた。騎士の内の数人がイネスが大斧を手にしている姿を見て声を上げた。

「それじゃ、行かせてもらうぜ」

「いつでもどうぞ」

 本物の剣を手にした騎士が素早く踏み込んでくると、イネスはそれを半歩下がって躱し、大斧を振るい容赦なく首を狙う。それにしゃがみこんで避けると騎士は剣をイネスの顎めがけて突き立ててきた。

 それをまた半歩下がって避けると、大斧を振るう。次は胴をめがけて振るえば、騎士は胴に重い一撃を受けてよろける。そこを遠心力を使って斧の勢いを消さないままもう一度騎士めがけて斧を振るう。けれど、騎士は素早く反転してイネスの首めがけて一撃を入れようとする。

 それを勢いを無理やり止めて持ち上げた大斧で防ぐと、それを突き立てる様に落とし、刃ではなく斧の持ち手の先端を下にして騎士の足にのしかからせる。

 騎士は思ってもみなかった攻撃を受けると咄嗟に距離をとった。けれど次はイネスが大斧を持ったまま素早く、騎士の首めがけて突きを繰り出す。それを躱されると、イネスは癖の様に「シプリン!」と光の魔術を詠唱省略して唱えると、まばゆい光に包まれ相手の視界を数秒奪うと、背中に回り込んで、背中側から斧を首元に当ててピタリと止まる。

「……ははは、参った。魔術が使えるんだな」

「まぁ、傭兵をやっているので」

「魔術剣士は強いと聞くからな、戦えてよかったよ。今後、魔術を使う者を相手にした時の事も考えていかなきゃいけないって分かったしな」

 騎士はそう言うと、下がって行った。

 それを見ていた他の騎士たちがイネスの元に集まり「次は俺だ!」「俺と勝負してくれ!」等と言ってきて、イネスはどうしたらいいのか分からず慌てるばかりだ。

「いいじゃないか、勝負してやれば。腕がなまらない様にするのに丁度いいだろう?」

 等とシャーリーは笑いながら言うのだった。

「はぁ……皆さん僕と戦って楽しいんですか?」

「そりゃ神殺しと戦うってのは好奇心が勝つんだろうな、しかも魔術剣士男はそう居るもんじゃないし、男ってのはそういうものじゃないのか?」

「いや~……僕には分かりかねます」

 と言いながらマフラーを正すイネス。

 結局それから騎士団員と一騎打ちを十数回しては、騎士団員数人相手の勝負を十数回したりしていく内にイネスは牢獄の中で過ごしていた時間分の訓練が出来ているのに気が付いた。

 ザイベリーでペントランド神を殺した頃に近い感覚になりつつあった。

 やはりこういうものは体を動かして勘を取り戻すしか無いのかと、妙に納得するイネス。

 そうして今日何回目かになる騎士の首への攻撃を避けると、闇の魔術を使って相手の目から己の姿を消すと、斧を担ぎ上げて素早く複数人居る騎士の一人の懐に素早く入ると横殴りにふっ飛ばした。飛ばされた騎士は壁に激突し気絶したようだった。

 また同じ様に大斧を担ぐと、先程と同じ攻撃が来るのか?と焦る騎士達をよそにイネスは一番手前にいる騎士の懐に素早く入ると、その胴を突いてその勢いのまま他の騎士達に次々と騎士の体を激突させていくと、衝撃でクラクラとする騎士たちが山の様に折り重なって倒れ込んだ。

「凄いじゃないか」

 シャーリーの声が聞こえたかと思うと、腰に差していたサーベルを抜いてイネスの元へとやって来る。

「え?本気ですか?」

「そうとも、一応ここの騎士団に所属しているからな、怖いもの見たさで戦いたいんだよ、神殺しと」

「僕は手加減なんて出来ませんよ」

「必要ないさ」

 それにイネスはため息を吐くと、大斧を担いだ。

 シャーリーは剣を構えじっとイネスを見つめてくる。それが何だか恥ずかしくて目線を逸らすとシャーリーが切りかかって来た。

 イネスはそれを斧の持ち手で受けると、思い切り弾いた。それから横薙ぎの一閃を繰り出してくるシャーリーのサーベルに向かって思い切り斧を振るう。

 パキンと高い音を立ててシャーリーのサーベルは真っ二つに折れた。

 それを見て諦めた様な笑い声を上げると、シャーリーはサーベルを見やる。

「ははは、凄いな、見事だ。腕のいい職人の物なんだが、その一撃には耐えられないか」

 と大斧を見ながら呟くと、サーベルの持ち手を捨てて、

「さて、それじゃそろそろ夕食の時間だ、今日はここまでにしよう。で、いいかな?騎士団長殿」

「そうですね、皆良い経験になったと思います。できれば次も是非にとお願いしたいところですね」

「だってさ、イネス」

 そう話をふられてイネスは慌てながら、

「いえ、そんな風に言われても困ります」

「でも感覚を取り戻すのには丁度良かっただろう?対パラテルルに向けてここで勘を取り戻して欲しいところだ」

「はぁ……そう、ですね……そういう事でしたらまたやってもいいかもしれません」

 イネスがそう言えば、騎士達はやる気を出す者、顔を青ざめさせる者等色々居たが、ここでパラテルル神に対抗するだけの鍛錬をするには良いかもしれないと思い、ペコリと頭を下げて、

「また、お願いします」

 と言うのだった。

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