第6話
斧を振り上げて襲ってきた男には、イネスはサラリとその一撃を避けると、背中に回り込みその首めがけて横一線に剣を振るう。男は断末魔を上げ雪の上に赤い血を流しながら倒れた。
その脇を狙って短刀を持った男が切りかかってきたが、それを避けてその勢いのまま大剣を振るうが、相手の男は軽業師の様に素早く避ける。何度もその男に切りかかっていたが大剣を突きの体勢に構えると、地面を思い切り蹴ってその男はまた避けて男の脇を通り抜ける。が急ブレーキをかけるように立ち止まると避けて安心しきっている男の後頭部めがけて大剣を振るう。
そうしていると他の男が二人して襲いかかってきて、その二撃を大剣で受けると素早くしゃがみこんで男二人の足に向かって剣を振るい転ばせた後、二人に向けて「ギロル!」とまた炎の魔術を放ち、ふたりはそれをまともに受けてその場にジタバタと暴れた。
そうして十人をあっという間に戦闘不能にさせると、残った男達数人は、半分は襲いかかってきて、半分は逃げ出した。
襲いかかって来た数人相手に「アンブリゴ!」と先程よりも威力の強い炎の魔術を放てば全員が火だるまになり、声にならない声を上げてその場に転げ回るのだった。
周辺にうずくまり、倒れ伏した男達を無視してマフラーを整えて馬車にゆっくりとした足取りで戻れば、シャーリーが扉を開けて、
「へぇ、やるじゃないか」
「これでも傭兵としてやってきたので、牢に入れられて腕が鈍っていないかの確認ができて丁度良かったです」
「ふーん、なるほどな」
そう言って馬車へと入れば、シャーリーが御者の男性に「片付いた、進んでくれ」と小窓から伝える。すると馬車は再び入りだし、盗賊の男たちを寒空の下置いたまま進んでいくのだった。
そうしてその日は夕暮れをむかえる前に近くの大きな街に馬車を走らせ街を守る石壁の中へと入っていく。勿論検問が行われるがクロシドライトの王室専用車である事が分かると、そう時間もかからずに中へと通す。
その街で一番高級な宿に馬車を止めると、先にイネスが大剣を持って馬車を降りた。その後シャーリーが馬車を降りると、
「あ、すみません。エスコートとかした方がよかったですか??」
「いや、いい。そういうのは苦手でな、無い方が助かる」
「そう……ですか」
と言って宿へと入っていくシャーリーを追ってイネスも宿へと入る。そこはイネスが普段使っている様な宿ではなく、豪邸の様なそこに驚きを隠せなかった。
御者の男が宿での手続きを終えると、係の者が案内に付いた。一番豪勢な一等客室にはシャーリーが、次に豪勢な二等客室にはイネスが通された。御者の男がシャーリーの荷物を一等客室に置くと、下がって当人は三等客室に泊まるのだと、聞いたイネスに答えるのだった。
夕食はシャーリーの部屋で取ると聞いて、何故か緊張してしまうイネス。担いでいた荷物を宛がわれた部屋に下ろすと、昨日まで泊まっていた王城の一室に負けずとも劣らないその部屋でイネスは夕食の用意が整うまでソファに腰かけて待つ。
すると扉がノックされた。
出てみればそこに居たのはシャーリーで、
「夕食の用意で部屋が騒がしくてな、避難させてくれ」
等と言ってくるのだ。
イネスは了承するしかなく、部屋へシャーリーを通すと、
「へぇ、二等はこんな感じなのか」
と興味深そうに見て回るのだった。それにイネスは、
「……ソファ使ってください」
「ああ、すまない」
そう言って優雅な仕草でソファに腰かけると、じっと部屋を見ている。
「そんなに珍しいんですか?」
「立場上一等以外に泊まれないんでな、他の部屋がどういうものか余り知らないんだ」
「はぁ……そういうものですか」
イネスはというと、柔らかいベッドに腰掛けシャーリーと向かい合う形になった。
「それで、いいんですか?女性が男性の部屋に上がり込んで」
「ん?何か問題があるのか?」
イネスはため息を一つ吐いて、
「何か問題が起こっても文句言えませんよ」
「問題を起こす様な相手では無いと判断して来たのだが、何かする気か?」
その言葉に顔を赤くしながらイネスはもう一度ため息を吐いて、
「どうやら信用されている様で、ありがたいようなそうでないような複雑な気持ちになるのですが」
そうしていると部屋の扉がノックされた。出てみれば御者の男が立っていて、食事の用意が整ったのかと伝えに来た。部屋の中にシャーリーが居るのを見て驚いた様にシャーリーに詰め寄り「男の部屋にはいるなんて女性として問題があります」と言ってシャーリーを連れ出した。
イネスはその後を付いて部屋を出ると鍵を掛け、シャーリーの部屋、一等客室へと向かう。
そこはイネスの部屋よりも広く豪華で、大きなテーブルには二人分の食事の用意が整っていた。
イネスはシャーリーの正面の席に着くと、料理が運ばれてきた。
昨日ザイベリーの王城で食べた料理に負けない豪華で美味しい料理に驚くばかりのイネス。今日も「テーブルマナーは気にするな」というシャーリーの言葉に甘えて適当なフォークやナイフを使って食べるのだが、イネスは内心『これからクロシドライトの王城へと向かうのだからテーブルマナーは覚えなくてはいけないな』と心の底から思うのだった。
そうして夕食を取り終わると、明日も早い事もあってイネスはシャーリーの部屋を後にした。宛がわれた部屋へ鍵を開いて中へ入ると、ソファに寝転んだ。
昨日まで牢獄に囚われてた身の自分が、こんな豪勢な部屋を与えられ、豪華な食事をさせて貰えるなんて思ってもみなかった事に、現実感が無かった。これは牢獄で見ている夢なのではと何度も頬をつねったが、痛みを感じ現実であることを教えられる。
満腹感が落ち着くと備え付けられている風呂へと入り、熱いシャワーを浴びて寝巻きに着替えると、明日も早い事もあり早々に眠ってしまうのだった。
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