第5話

 次の日になると、早朝からシャーリーが無遠慮にイネスの部屋に入ってきて、

「起きろ、出立する」

 と言って起こしに来たのだった。

 イネスは驚きながら顔のすぐ近くにある、そのアイスブルーの瞳に見つめられ、少々動けなくなった。頬が紅潮し、何度もぱちくりと瞬きを繰り返す。

「あの、顔が……近いです」

 そうして起きたのを確認すると、シャーリーは顔を離して、

「そうか?まぁいい、用意を整え欲しい。すぐにでも出立したい」

 というシャーリーの言葉に頷いて、

「わかりました、用意します」

 そう答えればシャーリーは「早めに頼む」と言って部屋から出ていった。

 久しぶりの安眠を妨害され寝たり無さを感じながらも、大きな欠伸をして黄色を基調とした冒険者服に着替えて、使い慣れたコートを着、瞳の色と同じ夕焼け色の長いマフラーを巻いて首元の文字を隠すと昨日用意を済ませておいた荷物を担ぐいで、内側から扉をノックして外に居るだろう使用人に扉の施錠を解いて貰う。それから忘れ物がないかと確認をしてから、シャーリーの部屋へと使用人の案内で向かった。

 シャーリーの部屋へと入れば、昨日とは違うデザインの紺のパンツスーツに軍靴を履いて分厚い軍用コートを身に纏い腰にサーベルを差して、髪をポニーテールに結い凛々しい姿で立っていた。

 その姿に思わずそれに見惚れてしまうイネス。

 イネスの様子を見て、

「用意はできたか?」

「あ、すみません……用意はできました、はい」

「朝食は馬車の中で取る、早くクロシドライトに向かいたいのでな」

「分かりました」

 そう答えると、シャーリーは部屋を出た。玄関口まで案内の者に付いて行く。イネスもそれに続く。

 シャーリーの荷物である大きなトランク一つを使用人が玄関口まで運び、クロシドライト王族専用馬車へと積み込んでいく。イネスの荷物も積み込んで貰うが、何かあった時の為に大剣は身につけたまま馬車へと乗り込んだ。

「……ずいぶん大きな剣だな」

「ええ、これがないと戦えませんので。道中何があるか分かりません」

 シャーリーはサーベルを腰に下げたまま乗り込み、使用人から朝食を受け取ると、馬車はザイベリーの王城から出立した。

 今日は比較的天候がよく、心なしか温かい様な気がした。そん中を馬車は進んでいく。

 先の大戦で荒廃した大地を、道が悪いのかガタガタと馬車は揺れながら、先の大戦で使われた茶色くなった金属の塊を大きくカーブを描いて避けながら通ると、その近くにはまた違った形の大戦で使われた金属の塊が鎮座していた。

 それを避けながら、馬車は進んでいくのだった。

 そうしていると天候が変わったらしく、雪が降り始めた。シャーリーは軍用コートを掻き寄せて寒さをしのぐ。

 深々と降り積もる雪の中それらは茶色い大地と共に雪の白く覆われていくのだった。

 イネスは馬車内にシャーリーと二人きりだという事実に気付いてあわあわと顔を赤くさせながら、じっとシャーリーのその整った顔を見つめてしまう。それにシャーリーが「なんだ?」と尋ねてくると「なんでも無いですっ」と慌てて目線をそらし外の風景を見るのだった。

 隣国であるザイベリーからすぐにクロシドライトとの国境の関所を通過して、ザイベリーからクロシドライトへと入ると、シャーリーははぁとため息を吐いた。

「どうかしましたか?」

「いや、無事国境を超えれて安心した。ユージアル教の連中が追ってくるんじゃないかと思っていたからな」

「はぁ……クロシドライトではユージアル教はどういった扱いなんですか?」

「ただの一宗教の一つだよ、他にも宗教はあるし宗教を選ぶ自由もある、ユージアル教の過激派は少ない筈だ、どちらかといえば穏健派が多いと思う、多分」

「なるほど」

 シャーリーはまたため息を吐くと、眠た気に目を擦る。

「眠れなかったんですか?」

「いや、朝が弱いだけだ、昼になれば本調子になる筈だ」

「無理せず眠って構いませんよ?」

 それにシャーリーは首を振って、

「これでもクロシドライトの外務大臣、他国出身者に気の緩んだ姿を見せる訳にはいかない」

「そう……ですか」

「それとも寝顔が見たかったのか?」

 それにイネスは顔を紅潮させ、ブンブンと首を振った。

「そんなっ!そう言う意味ではっ!」

「ははっ、大げさだな」

 そう言いながらも馬車は荒廃し焦土と化した大地に、白くなっていく世界を進んで行くのだった。

 けれども馬車は突然、急停車した。御者の男性が狼狽えるように声を上げた。

「どうした?」

 シャーリーが御者の男性に馬車内から連絡用の小窓を開けて見てみれば、盗賊とおぼしき連中がこの馬車を囲んでいるのが見えた。

「……賊か、まぁこんな高級馬車に乗っていれば寄ってくるか」

 そう言って腰を上げるシャーリーを制して、イネスが、

「ここは僕に任せてください、多少なりと恩を返したいので」

「……そうか、なら任せるとしよう」

 シャーリーはそう言って椅子に座ると、大剣を持ったイネスがマフラーをはためかせて馬車から下りて行った。

 扉を閉めれば、相手の数を確認する。馬車を取り囲むように、いかにも荒くれ者らしき風貌の男たちが十数人円を描く様に馬車の周辺に武器を構えていた。

「おいおい、チビが何の様だ?」

「その引きずってる剣で俺らの相手しようってか?」

 そんな風に言ってくる男達を無視してイネスは大剣を担ぐと、

「よっこい、せっ!」

 目にも留まらぬ速さでその内の一人に急接近して思い切り叩きつける様に大剣を振り下ろした。相手はそのスピードと衝撃により雪の積もる大地に吹っ飛んでいった。そして左右に居る二人めがけて体中のマナを練り上げ手に集中させると「ギロル!」と詠唱を省略した呪文を叫び炎の魔術を放つ。男二人はその魔術で腕や足を炎で燃やされながらもんどりを打つのだった。

 強い風にイネスのマフラーがはためく。

「よっと」

 賊の一人がボウガンでイネスめがけて矢を放てば、イネスは大剣の峰にある持ち手を持って小さく回転させてその矢を叩き落とす。そしてその相手に向かって「エトリング!」とまた詠唱省略した魔術で風の刃を放つと、俊敏だった相手には避けられてしまうが、その風の刃を追う様に付いて来ていたイネスの恐ろしい程の速さに驚き、腰に下げたナイフを手に取る間もなく、大剣で肩から袈裟懸けに切られ雪の中に倒れ伏した。

「次にやられたいのは誰だ」

 四人を瞬く間に戦闘不能にしたイネスがそう言えば、あっけに取られていた男達はイネスめがけて攻撃を仕掛けてきた。

 最早馬車を襲うのではなくイネスを倒すことに執着し始めた男達は、連携も何もなくただ勢いのままに襲いかかって来た。

 イネスはそれを大剣で軽くいなすし「リンネ!」と氷の魔術で何本もの氷柱を作り出すと、男達に向かって放った。それは四方八方に飛ぶそれに男達は腕や足を串刺しにされていく。

 またボウガンを持つ男がイネスを狙って矢を何発も放ってくるが、大剣をくるくると回転させて矢を弾いていく。そうしてその男めがけて「ギロル!」と炎の魔術を放てば、避ける暇を与えること無く胴に炎を受けて熱さにその場で転げ回る。

 剣でイネスに襲いかかって来た男は、イネスに大剣で防がれると胴を蹴られたたらを踏んだ瞬間に「エトリング!」と風の刃をまともに受けてその場に倒れた。

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