十一之五 宙に挑む神木船
ほぼまっすぐ空に向かいそそり立った
滝のような水に打たれ、しがみつく俺も引き剥がされそうになる。結わえた綱に腰を強く引かれかろうじて
水の中は
四方から押し寄せる流れに耐えながらの息堪えは、とてつもなく長く感じた。
長い。
長い。
まだ水から抜けられない。
木花は海に丸呑みにされ、遥か水底まで沈みつつあるのかもしれない。
そう思い女神に祈った
木花は、
繰り返し暴れ続ける稲光を受け、遥か下の水面が、白く泡立っている。
あそこに落ちて行くのか――。そう思った。恐れではない。むしろ激しい
「来い。悪鬼よ、冥府の使いよ。俺も船人も、逃げ隠れはせん。神木船を叩き壊す気で戦いに来い。俺達は全て受け止め、なんとしてでも打ち勝ってみせる」
その
耳も割れそうな轟きが響くと、体を床に叩き付けられた。木花が、空から海へと戻ったのだ。転がされた体を追って、海の流れとも雨ともわからぬ水が、滝のように強く俺を叩く。恐ろしい勢いで、あちらこちらへと転がされた。結わえた綱で強く腰を引かれ、あまりの痛みに
大揺れに揺れ、
皆、皆は無事か――。
足下に倒れた源内が、起きようとしていた。
もう一度舳先に目を移す。あれほどの大波はもう見えない。ただ荒れ海は、まだ果てしなく続いている。空からは稲妻があちこちの水面を襲い、強い光を放っている。空から勢い良く落ちたあおりで、船は大きく
「立て直せ。今のうちだ」
手をぐるぐる回して叫ぶ。舳先で大綿が手を振って応え、先帆を強く張った。先帆の動きを見て、夜儀もまた、木花帆を凧のように操り出した。
「勝ったぞっ」
常ならざることに、夜儀──鼠小僧次郎吉ともあろう食わせ物が涙を流し、叫んでいる。
「後を頼む」
頷く源内を残し、舳先に進んだ。左の筈緒に絡まれ苦しんでいるアサルを解き放つ。側でおろおろする写楽を殴った。
「馬鹿者っ」
写楽が倒れ、樽に体をぶつける。
「お前はアサルと代わって綱を操れ」
目を伏せ黙ったまま、写楽が左に飛び付いた。大綿が早速細かく指示を出し、筈緒を引かせ始めた。
「よくやった、アサル」
俺の腕の中で、奴隷は荒い息をついている。
「死ぬかと……思った……ぞ」
なんとか微笑んでみせた。
「水の中で、鳥……居に立った女神が見えた。白い衣で、船を護るように手を拡げ……」
「幻を見たのだ」
「いや幻ではない。あれは……」
口を開いて、もごもごなにか言おうとする。
「いいから来い」
手を引き、転ばぬように気を配りながら潮見の間に戻った。
「どう見る」
入るなり叫ぶと、源内は、空と波、風の気色を探った。
「波は荒い。だがあれほどの大波は来まい。あれは幾つもの波が遠くから来たる
「よし」
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