第2話 火計じゃなくて火葬
あれから一ヶ月が経過した。
重傷で戦えなくなった兵は二人だけだけど、軽傷者はもう数え切れない。とはいえ、戦力は意外と落ちておらず、普通に戦えている。
しかし困っていることがある。
戦いが長引く中、我々は善戦こそしているが、その結果として砦周りのゴブリンの死体が増えた。それらを踏み台にして砦の防壁を踏み越えてゴブリンたちが攻めてこようとしており、当初よりも苦戦するようになっている。小柄で防壁を越える道具も知能もないゴブリンが、労せずして砦の防壁を越えるためのスロープを手に入れたようなものだからな。なんとかしたいが、砦の外に出て死体を片付けるわけにもいかないから悩ましいところだ。
「燃やすか」
「はっ?」
「いや、こいつらゴブリンの死体だよ。あいつら、これらを積み上げて踏み台にしてきているから、我々の防壁の高さというメリットが減らされているだろ?まだなんとかなっているが、我々の疲労は溜まる一方で、死体が溜まれば防壁までの高さも減る。そう考えれば、戦力差は縮まる一方だからな。ちと臭いだろうが、油を撒いて燃やそう。砦内にある油は大した量じゃないから全部は燃やしきれないだろうが、多少はマシになるはずだ」
「そうかもしれませんな。動けるうちにやる。ですか」
「そうだ。よし、そうと決めたらやるぞ。休憩中のやつらに準備させろ。魔の森側である砦の西側に油を撒いて燃やすぞ。粘土を塗っているから大丈夫だと思うが、壁を燃やさないように注意しながらだ」
「かしこまりました!」
指示を受けた兵が砦内に戻って伝えていく。途端に砦内は騒がしくなり、兵たちがいそいそと準備を始める。すると半分くらい油が入った大甕が西の防壁の上にあげられた。
「よし、やれ!」
「うおおおおっ、まとめて燃えやがれ!」
俺の指示により士気の高い兵たちが、ゴブリンの攻撃を捌きつつ油を撒いて火を付けていく。ガリガリのゴブリンの死体はよく燃えたし、こういった防衛に関わる行動には、守備隊長スキルのお陰で行動や効果に大きなボーナスが付くのが嬉しいところだ。この世界にいると普通だと思ってしまうが、日本人の記憶から考えれば、何がどういう理屈で油で燃やす効果や効率が大きくなるのか意味が分からないが。
まぁメリットはもらっておこう。
「ぎゃああああ、くせえええええええ!」
火がついてゴブリンの死体が燃え始めると兵たちが次々と叫んだ。
魔物の中には食えるやつも結構いるし、そこらの家畜より美味なやつもいるくらいだ。しかし、ゴブリンは食えない魔物として有名だ。煮ても焼いても、苦いしえぐいしでとても食べられたものではないらしい。それと関係あるか分からないが、ゴブリンは燃やすと悪臭が酷いようだ。
俺も思わず鼻をつまんでしまったが、作業している部下たちは両手が塞がっているので、鼻をつまむことはできない。隣の兵にうらめしそうに見られてしまったが、スマン無理だ。鼻はつまませてくれ。
「隊長、それはずるい!」
俺はさっと視線を逸らした。
次第に砦の西側から大きな火があがる。砦に延焼しないように、貴重な水を壁に撒きながら作業に当たらせた。
お陰で燃えている間、西側からの攻撃がなくなったのはいいことだろう。西側に隣接する南北の一部も避けてゴブリンどもは攻撃してきたので、必要な守備兵は半分で済み、兵たちを少し休ませることができたのは思わぬ副産物だろうか。
とっくに油も尽きており、次第に火は勢いを弱め、そして消えた。西側のゴブリンの死体は耐え難い悪臭を残しつつ粗方焼失した。これでまた有利に戦えると思ったのも束の間、くすぶる火種から上がる煙の向こう側、遠い魔の森付近でホブゴブリンの群れが見えたのだった。
ホブゴブリンはゴブリンの変異種と言われている。その最大の特徴は、ゴブリンは人間でいえば少年くらいの大きさなのに対して、ホブゴブリンは一般的な成人男性よりも少し大きく、成人男性を遥かに凌駕するパワーがあることで知られている。
もちろんゴブリンとは逆に、1対1なら並の兵士より遥かに強い。
まだ距離があるとはいえ、それらが数匹確認されているのだ。
……マズイかもな。
守備隊長というスキルのせいでいつも劣勢な最前線送りですが、それでもなんとかやっていけてます 崖淵 @puti
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