守備隊長というスキルのせいでいつも劣勢な最前線送りですが、それでもなんとかやっていけてます

崖淵

第1話 最前線の守備隊長

――ウワァーウワァー!

――グギャグギャグギャー!


ここは王国最前線の城塞都市……のさらにその前に設置された砦。

周囲では兵たちの怒号と魔物たちの雄叫び、そして矢が飛び交う戦場である。

その防壁の上で俺は両腕を組み、戦場を見守っていた。


俺は30人ほどの部下を率いているこの砦の守備隊長だ。なんでそんなのをやっているかといえば、守備隊長というそのまんまな名前のスキルを持っているからだ。こういう陣地を防御するのに向いているスキルだな。効果についてはおいおい話していくとして、まず今回の敵は地上を埋め尽くすゴブリンの群れである。いわゆるゴブリンの大氾濫スタンピードというやつだ。

この砦の母体である城塞都市メケレンブルグとの連絡はとうに途絶え、遠目に見えるメケレンブルグもゴブリンの大氾濫に包囲されているのがよくわかる。

無論、我が砦も絶賛包囲中である。

援軍は期待できないし、こうなるとゴブリンの群れを突破して本城に逃げ込むこともできない。とはいえそれは職場放棄にあたるので、その手段を選ぶのは時と場合によるけどね。


とりあえずはこの砦にゴブリンを常時千以上は引きつけているはずなので、砦を落とされなければ仕事をしている事になるだろう。見た感じで軽く数万以上のゴブリンがいそうなので、その包囲の中心であるメケレンブルグから見れば焼け石に水かもしれないけど。


メケレンブルグは城塞都市だけあって城壁は高く石造りである。ゴブリン如きではまず落とされないだろう。……多分。

ゴブリンだと攻城兵器とかないから大丈夫だと思うけど、数が半端ないからなぁ。

メケレンブルグが生きている限りは、そのうち王都からの騎士団が現れて蹴散らしてくれるはず。だからそれまで耐えられれば勝ちだ。

……ゴブリンとはいえこれだけいると騎士団も大変だと思うけど、まぁそこは頑張ってほしい。



ところで、うちの砦はどれくらいの防御性能なんだって?

木材で組み立てて表面に耐火用に粘土塗ってあるだけだよ?本当に簡易的な前線の砦だね。

まぁそれでも高さは3mくらいはあるから、ゴブリンが簡単に乗り越えられる高さではないけど。


砦は元々メケレンブルグのちょっと1kmくらい先の小高い丘の上にあったほんの小さな岩山の上に見張り台を作ったのが始まりだった。

いつしかその岩山に付随して見張り台用の宿舎が建って倉庫が建って、取り囲むように柵ができて、それが防壁になって砦に昇格した。


城塞都市メケレンブルグは、魔物が多く存在する魔の森に接し、かつ東の帝国領と接する前線の一つである。

他の国境線はここ十数年で帝国の侵攻によりだいぶ後退してしまったが、メケレンブルグだけは健在だった。

帝国としても補給線の関係上メケレンブルグを無視してのこれ以上の侵攻は難しく、これから先の帝国との主な戦場はメケレンブルグになるだろうと、この城塞都市にさらなる強化が施されている最中だったのは不幸中の幸いだっただろう。


話を戻そう。

ゴブリンだ、魔の森から現れたゴブリンの大軍だ。

ゴブリンの氾濫の情報が王都に届くまでに一週間、兵を集めるのに二週間、騎士団がこの地に辿り着くまで一か月。二カ月くらい耐えればいけるんじゃないかと思うんだけど、どうだろうか。食糧は半年はもつ。水は井戸があるから、枯れない限りは持つと思う。……割と乾燥してる高台だから少し不安だけど、近くが森だし多分大丈夫だろう。


その他の物資だけど矢はすぐに尽きそうだな。そうなると防壁の上から攻撃する手段に乏しい――魔法が使える兵もいるがあいつらの魔法攻撃は、専門職じゃないから威力も大したことないし、一日に何発も撃てないからな。あってないようなもんだ。

防壁の上に上がってこようとするゴブリンを叩き落とす。まぁこれがメインの防衛手段だね。ゴブリンどもは手先は器用らしいけど、小柄で大した道具もないから3mの壁をロクに登れないのがまだ救いだな。じゃなかったら先が見えないほど包囲されている小さな砦が落ちないわけないし。


「よし、休んでいる部隊と交代だ!ゴブリンを叩き落とせ!」


「おおーっ!」


俺は守備兵に交代を告げた。休憩していた比較的フレッシュな兵が交代で前に出る。

直径約十メートルの円形の砦であるここには約30人ほどの守備兵が詰めている。30人を10人ずつの三班に分けて三交代。10人の防衛兵が3m間隔程度で、防壁の上によじ登ろうとするゴブリンを槍で突き刺し叩き落とすのがお仕事だ。

三交代って言っても、睡眠以外は割と防衛に駆り出されるわけだが。八時間ぶっ続けでは戦えないからな。休憩と戦闘を二人一組で交互にとるという、どちらかというと八時間労働の三交代ではなく、実態は十六時間労働・八時間休憩の三交代だ。

ああ、防衛任務はなんてブラックなんだ。


「隊長も休んでくださいよ?」


「ああ、俺はあくまで全体を見ながらフォロー的な立場だからな、休み休みやってるさ」


そんなやり取りを部下たちとしながら、先程まで戦っていた隊員が砦内に引き揚げていく。

普通の守備隊だと昼間は全員で守って、一部(毎回指揮官が適当に決める)を残して夜はみんなで休むって感じだけど。ゴブリンの厄介なのはあいつら夜目が利くから昼程ではないとはいえ、夜も攻めてくるんだよ。それに全員で付き合っていると絶対に体力がもたないから、ここは俺が三交代というルールにした。


今のところは好評である。夜勤が分かりやすく計算できるって。

ああ、ちなみに話してる内容からわかるだろうけど、俺は元日本人だ。気付いたらこの世界のこの人間だった。いや、違うな。ある日突然、日本人だった男の記憶が急にポンと入ってきた。なので俺の主意識はこの世界の住人だ。

だから、日本では不思議なスキルというこの世界の住人に与えられる要素も自然に使えている。日本の記憶を思えばとても不思議な仕組みだけどな。


「よし、お前ら。気合い入れていくぞ!」


「おおーっ!」


隊員たちのやる気が上がるのが手に取るように分かる。

守備隊長として一番お世話になる鼓舞というスキルだ。守備兵の士気が上がるってやつだな。疲労が溜まると効果が薄くなるから、交代直後の元気な今のうちに使った方がいい。

やる気があれば、身体も動く。身体が動けば、相手より先を取れる。そしてミスも減る。地味な効果だけど、デメリットもないし一番お世話になるスキルだな。


おし、士気が上がった隊員たちは、元気にゴブリンを撃退している。

俺たちはまだまだ戦えるぞ。


とはいえ、さっきは二カ月くらい耐えれば大丈夫って計算したけど、それで本当に大丈夫な保証が全然ないのは正直キツイところだ。とはいえ、このままゴブリンだけならなんとかなりそうだが、はてさて……

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