第52話 語り部不在の部屋にて④~消された真実~ 3

 やぁ、いらっしゃい。

 疲れはとれたかな?

 あなたには、目の下のクマなんて、似合わないからね。

 うん、元気そうで良かった。

 え? 僕はこの通り元気だけど?

 心配してくれているの? ありがとう。優しい人。

 じゃあ、早速続きを話そうか。


 ※※※※※※※※※※


「質問はあとで受け付ける。だから、まずは僕の話を最後まで聞いて。いいね?」


 そう念を押してから、僕はみなの知らない「消された真実」の話を始めた。

 ……念押ししておかないと、ユウもヨーデルも、平気で話の腰を折りそうだからね。まぁ、無理もない事だとは思うけど。



 レーヌ嬢が両王国の民に神の力、それから当時契約していた時の精霊の力を分け与えた時期は、僕たちが生まれるよりずっと前の話。

 レーヌ嬢が両王国の守護神だった、というのは知っているよね。

 レーヌ嬢は本当に、僕たちのこの両王国を愛して慈しんでくれていたんだ。守護神の鏡だと、僕は思う。なぜなら、守護神とは名ばかりの神がこの世には存在しているということを、僕は知ってしまったから。


 守護神って、愛情に満ち溢れていて、清く正しく美しく、なイメージがあるでしょ? だって、レーヌ嬢がそうだから。だけど、実際は違うんだよ。レーヌ嬢の方が、守護神としては稀なんだ。守護神の中には、ある意味人間より人間らしい神がいる。自分の守護する国を少しでも大きくしたい、それも、美しく豊かな国を手に入れたいっていう欲を持つ神が。

 中でもコント王国の守護神は、かなりの強欲だったみたい。

 だけど守護神って人間に直接的な影響を及ぼす事は禁じられているみたいなんだよね、掟で。

 ほら、【星になった守護神レーヌ】にも書いてあるでしょ。

『守護神の役目は、守護する国を導き見守ること。

 知恵を授けることはあっても、神の力、人ならざる力を与えてはいけない。

 これが、守護神の掟』

 って。


 美しく豊かな国。

 僕たちの両王国は、レーヌ嬢の愛情のお陰で、みなも知っての通り美しく豊かな国だ。おそらく、他のどこの国よりも。

 だから、欲深いコント王国の守護神に目を付けられてしまったんだよ。

 そんな守護神がどうやって自分の欲を満たそうとしたか。

 簡単なことだよ。レーヌ嬢を守護神の座から追い落そうとしたんだ、わざと掟を破らせて。


 まずは、自分が守護すべきコント王国の王族をけしかけて、内乱を起こさせる。そして、王国民の不満を解消すべく、矛先を他国、つまり僕たちの王国への侵略へと向ける。

 この時点でレーヌ嬢に、『国を守りたいなら、神の力を人間達に与えて守らせるといい』って、掟を破るようそそのかしたんだ。レーヌ嬢は若くて経験不足、守護神としては未熟な部分も多い神だったから、その謀略に乗ってしまったんだよ。

 実はね、未熟すぎるレーヌ嬢を見ていられなくなった時の精霊ヴォルムが、レーヌ嬢と契約を交わして力にはなってくれていたんだけど、でも、その時の守護神会議にはヴォルムの出席は認められなかった。最初からレーヌ嬢を嵌めるつもりだったのだから、当然と言えば当然かな。

 そんな訳で、レーヌ嬢は守護神の座を追われてしまったんだ。


 レーヌ嬢は星になった訳じゃない。掟を破った罰を受け続けているんだ、今でもね。

 選択肢は2つあったんだよ。

 ひとつは、神としての全ての記憶を抹消され、ひとりの人間としてその生を終えること。

 そしてもうひとつは、神としての記憶をすべて持ちながら、全ての力をはく奪され、両王国に干渉することも許されず、ただ両王国の行く末を-己の犯した過ちの行く先を見守り続けること。

 レーヌ嬢はね、迷うことなく後者を選択した。だから、今でも見守ってくれているんだ。

 ねぇ、信じられる?

 神としての力を全て奪われてなお、僕たちの国を見守り続けるなんて。

 レーヌ嬢がそんなに重い罪をひとりで背負っている中、首謀者であるコント王国の守護神が、今ものうのうと守護神の座についているなんて!


 あぁ、ごめんね。僕としたことが少し熱くなりすぎてしまったよ。

 そうそう、ユウとヨーデルの疑問にも答えないとね。なぜ、同時期の異なる記憶が存在するのか、っていう疑問に。


 守護神が不在になってしまった両王国だけど、レーヌ嬢が国を統治する王族に与えてくれた5属性の精霊と契約する力や、国民に与えてくれた結界師、時間師、記憶師の力のお陰で、他国からの侵略は受けずに済んでいたんだ。だけど、コント王国の守護神はどうしても諦めきれなかったんだろうね。方法を変更することにしたんだ。

 つまり。

 侵略ではなく、人ならざる力の略奪。


 今から9年前のことだよ。

 コント王国の王女オディールと、ギャグ王国の第一王子カークの婚約が正式に決まったんだ。

 そう。

 カーク王子はね、ヨーデルの妹、オディール王女と婚約をしていたんだ。


 ※※※※※※※※※※


 少し長くなりそうだから、今回はこの辺にしておこうか。

 みんなの反応?

 そうだね、驚いていたようだよ。当然と言えば当然だけど。

 僕たちの両王国の守護神レーヌが、コント王国の守護神に嵌められて守護神の座を追い落された事も、その罰を未だに受け続けている事も。

 国を見守り導くべき守護神が、国を操り腐敗させていた事も。

 人間の僕らには、知りようもない事だからね。

 え?

 カークの事?

 あぁ、そうだったね。

 うん。この件もあって、僕はカークは仲間に入れるべきじゃないって判断したんだよ。

 時間を戻してやり直すと言う事は、こういう事も起こり得ると言う事。

 だから、両王国の国王、王妃は、この真実を公表することはできなかったんだろうね。

 続きはまたこの次に。あなたはもうお帰り。

 僕はここで待っているから。

 じゃあ、またね。

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