第53話 語り部不在の部屋にて④~消された真実~ 4

 やぁ、いらっしゃい。

 ふふっ。

 不思議だな、あなたに会うとなんだか僕まで笑顔になってしまうよ。

 もしかするとあなたは、レーヌ嬢やヴォルムに近しい存在なのかもしれないね。

 穢れの無い、どこか危なっかしい、愛すべき存在。

 ん?

 ヴォルム?

 ヴォルムはあれで、ものすごく愛らしい所があるんだよ。みんな彼を怖がるのだけど、何故だろうね?

 そのヴォルムからの差し入れだよ。是非あなたにって、ハーブティーを。

 はい、どうぞ。

 よっぽどあなたを気に入ったようだね、僕は彼から差し入れなんて一度も貰ったこと、無いんだけどな。

 じゃ、今日はそのハーブティーを飲みながら、聞いてくれるかな。

 話の、続きを。



 ※※※※※※※※※※


 カーク王子が、コント王国のオディール王女と婚約をした、という話はしたね。

 カーク王子はまだ9歳。オディール王女もまだ11歳だ。でも、王家の婚約なんて、結構子供の頃に決まってしまうものだからね。

 スウィーティー姫なんて、生まれてすぐにカーク王子との婚約が決まったくらいだし。そう驚く事でもないんだよ。

 さて、カーク王子とオディール王女の婚約によって、ギャグ王家とコント王家は姻族になる訳だ。だから当然、お互いの危機にはお互いを助けることになる。

 コント王国守護神は、これを利用しようとした。

 他の国へ争いをしかけて、国の危機だと偽ってカーク王子やマイケル国王の火の精霊の力を利用し、一気に守護する領土を拡大しようと。一度火の精霊の力を大々的に使ってしまえば、その力は間違いなく他の国からも狙われることになる。そうしたら今度は、自分が両王国を守ってやるという名目で、両王国を丸ごと手に入れる算段だったんだ。

 カーク王子はね、あの通り、まっすぐ過ぎる性格でしょ。まだまだ子供でもあったし。それに、オディール王女の事もとても大切に思っていたから、オディール王女の祖国であるコント王国を守るためならばと、やる気満々だったんだ。

 だけど、オディール王女は聡明な人でね。気づいてしまったんだよ、国の謀に。


 オディール王女は、祖国に戻って父親にこの婚約の破棄を申し出るつもりだった。この謀の首謀者が父である国王ではない事にも気づいていた。首謀者は、大臣だったんだよ。コント王国の守護神にとって、扱いやすかったのは王国民を第一に思う国王ではなく、野心に囚われた大臣だったんだろうね。だけど、帰国の途中でオディール王女は大臣の手先によって殺されてしまったんだ。表向きは盗賊に襲われたことになっているけれど。

 聡明なオディール王女は帰国の前に、自分の身に何かあったら読んでほしいと、マイケル国王宛の手紙を残していた。危険察知能力も高かったんだろうね、オディール王女は。

 それから、信頼していた兄のヨーデル宛にも他愛のない日常を記した手紙を送っていたんだ。内容は、ユウ王子は本当の弟みたいで可愛いとか、ヨーデルとも仲良くなれるんじゃないかとか、そんなことだよ。大臣に読まれてしまった時の事を考えたんだろうね。だけど、その最後はこう締めくくられていたんだ。

『ヨーデル。私がいないからって、コント王国をおかしな国にしたら、許さないからね!』

 ヨーデルなら、気づいてくれると思ったんだろうね。コント王国がおかしな方向に進み始めているという事に。


 オディール王女の死を知ったマイケル国王は自分宛ての手紙の存在に気づいて、すぐにロマンス王国に一報を入れて、ラスティ国王とチェルシー王妃を呼び寄せた。

 あぁ、これは9年前の話だからね、ギャグ王国のリアラ王妃も、ロマンス王国のラスティ国王もご健在だったんだよ。

 マイケル国王、リアラ王妃、ラスティ国王、チェルシー王妃の4人は話し合いを重ねた。この先この両王国をどのように守り進めて行くか、ということについて。

 でも、それだけじゃなかった。

 さすが、聡明寛大と謳われる国王だけあるよね。マイケル国王は、身の危険を冒してまで両王国を救おうとした若きオディール王女を、どうしても助けたかったんだ。一方、起爆装置とも謳われるチェルシー王妃の怒りは凄まじかったようだよ。5精霊全ての力を使って、コント王国を殲滅すべし、なんて発言もあったみたいだから。まぁ、その時はラスティ国王とリアラ王妃がなんとか宥めてくれたようだけど。

 結果的に話し合いの中で決まったのは、時間師の力を使って時を戻す事。

 ギャグ王国のリアラ妃のお姉さま、ライラ様は記憶師、夫のディーン様は時間師だからね。

 力を使うにはある程度の犠牲は伴ってしまうのだけれど、両王国とコント王国に範囲を限定すれば、犠牲も軽減される……まぁ、僕はこの件にはヴォルムも力を貸したんじゃないかと、推測しているのだけれども。ヴォルムもね、なんとかレーヌ嬢の力になりたいと思っていたようだし、この両王国を気に入ってくれているからね。


 という訳で、僕たちの両王国とコント王国の時間と記憶は、コント王国の王女オディールと、ギャグ王国の第一王子カークの婚約の話が出る前まで巻き戻されたんだ。あぁ、両王国の国王、王妃の記憶はそのままに、ね。国王も王妃も身構えてはいたのだけれど、おかしな事にオディール王女とカーク王子の婚約については、話しにも上がらなかった。時間や記憶の操作は、守護神には通用しないのかもしれないね。

 あとは、みんなの記憶のとおりだよ。

 性懲りもなく、コント王国の守護神は自分が守護するべき王国民をけしかけて内乱を起こし、再び両王国への侵略を試みたんだ。それを、8年前のあの日、両王国の王族、王国民が全力で、多くの犠牲を払って守り切り、現在に至る、ってわけ。


 ねぇ。

 ここまで聞いて、このまま何もしないでいてもいいって、思う人いる?

 僕はね、レーヌ嬢を守護神に戻したい。そして、この両王国をあるべき姿に戻したいって思っている。

 そしてもし可能なら、コント王国の守護神にも罪を償わせたいと思っているよ。

 結界に守られて外界から隔絶されている、そんな今の両王国の状態は不自然だしあるべき姿ではないと思う。

 ……分かってる。ただの人間にすぎない僕には、大それた望みなんだってことは。だけど僕は本気だよ。

 もし僕に賛同してくれるのなら、僕はヴォルムの力を使って、もう一度時間を戻したいと思っているんだ。レーヌ嬢が、神の力を人間に分け与えてしまう前まで、ね。

 でも、その前に確認すべきことがいくつかあるとも思っている。そのためには、ここにいるみんなの協力が必要なんだ。


 どうかな。

 今すぐに、とは言わない。

 よく考えて、みんなの意見を聞かせてほしい。



 ※※※※※※※※※※


 大丈夫? 疲れていない?

 ごめんね、今回も長くて重い話になってしまって。

 ねぇ。あなたは、どう思った?

 僕の考えは、僕の望みは、間違っているのかな。何物でもないただのひとりの人間としては、大それた事を考えているという自覚は、あるのだけれどもね。

 でも、それでも僕はどうしても、レーヌ嬢を守護神に、この国をあるべき姿に戻すことが最善だと、考えてしまうんだよ。

 ……その結果、たとえ僕の存在が、この世界から消えて無くなってしまうとしても。

 もしよかったら、あなたも少し考えてみてもらえると嬉しいな。

 ん? みんなの考えはどうかって?

 それは……あぁ、もう外の時間はだいぶ過ぎてしまっているようだね、暗くなると危ないから、あなたはもう帰った方がいい。続きはまたこの次に。

 あぁそうだ。残念だけど、僕はまたしばらくの間ここへは来られそうにないんだ。だから、ヴォルムにお願いしておくよ。

 あなたへの進捗の報告を。

 僕に会えないからといって、寂しがってはいけないよ?

 僕はもちろん、レーヌ嬢だって、いつでもあなたを想っているのだから。ね?

 じゃあ、またね。

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二王国物語~不思議な力を与えられし王国民達の愉快な日常。そして彼らが下した決断の物語~ 平 遊 @taira_yuu

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