第51話 語り部不在の部屋にて④~消された真実~ 2
やぁ、いらっしゃい。
綺麗な髪が乱れてるよ? 僕に会いたくて走ってきてくれたのかな。
ふふっ、冗談だよ。
僕の話を聞きに来てくれたんだよね。あなたは優しいから、みんなのことが、王国のことが気になっていたんでしょう?
え?
ほんとうに、僕に会いたいって思ってくれてたの?
嬉しいな。僕ね、あなたが来てくれるのを、心待ちにしていたんだ。……王国のお話語りは抜きにして。
だって、あなたは本当に素敵だから。
じゃあ、さっそく続きを聞いてもらおうかな、あなたに。
あぁ、そんなに緊張しないで。ゆったりくつろいで聞いて欲しい。
あなたを疲れさせたくはないから、ね?
※※※※※※※※※※
エトの部屋の中央。
円を描くようにして配置した椅子にそれぞれが腰を掛けるのを待って、僕はヴォルムに合図を出した。
ヴォルムは円の中央に瞬時に移動し、サッと右手をあげる。その手から微かに発せられた光が、エト、ユウ、ヨーデル、ブルームの額に吸い込まれていく。
最初に声を発したのは、ヨーデルだった。
「なっ……なんだこれは」
その顔は、苦悩に歪んでいた。
僕はヴォルムに、操作された彼らの時間を正してもらったんだ。ヴォルムが僕にしてくれたように。彼らの持つ時間の記憶と僕の持つ時間の記憶が一致していないと、僕の計画は実行に移せないからね。
だけど、ヨーデルにとってこれは、酷な事だったかもしれない。
「おいヒスイ、これは一体どういうことだ?」
険しい顔で僕に詰め寄ろうとするヨーデルをよそに、ユウもブルームもエトも、みな混乱しているようだった。
「え……あれ? なんで僕ずっと、レーヌ嬢の事こんなに忘れてたの?」
「確かに。僕もレーヌ嬢の事は今の今まですっかり忘れていた。なんで?」
「ボクも……」
ヴォルムは既に姿を消していた。あとは僕に、僕たちに任せた、とでも言うように。
神々のルールでは、神が直接人間の世界に手を下してはいけないらしいからね。
「今、あなた達が持っている記憶。それが正しい時間の流れなんだ。僕たちはみな、時間の一部を操作されていたんだよ。それを今、ヴォルムに正して貰ったんだ」
僕の言葉に、ヨーデルの顔の険しさが増す。
無理もない事かもしれない。
時間を流れを正して貰った事によって、ヨーデルの大切な妹、オディールは二度亡くなっている事になってしまったから。
「正しい時間の流れ? でもまって、これおかしいよ。だって、兄さんの婚約者はスーちゃんだよ? ディーさんじゃないし……僕がヨーデルに初めて会ったのは、ついこの間なはずなのに、これじゃまるで」
ユウの頭の中も、だいぶ混乱しているようだ。
エトとブルームは、割と落ち着いて受け入れてくれたようで助かったけどね。
「もしかして、この国と関係国の一部は、ある一定期間の時間が繰り返された、ってことかな?」
「そうだよ、ブルーム。正しくは、繰り返された、ではなく、やり直された、だけどね」
「ふっ……」
ガタンと音を立てて椅子から立ち上がると、ヨーデルは怒りをぶちまけるようにして叫んだ。
「ふざけるなっ! そんな事が許されるとでも」
「原因を作ったのは、あなたの国だよ、ヨーデル」
努めて冷静に、僕はヨーデルに伝えた。
「あぁっ?」
「あぁ、正確には、あなたの国、コント王国を守護していた守護神、になるかな」
「なんだと?」
「これから全部話すから、とりあえず座って。それとも、ずっと立ったまま聞くつもり? それならそれでも僕は構わないけど。長くなるから、疲れると思うけどね」
「ねぇ、ヒスイ。兄さんの事も、話してくれる?」
「もちろんだよ、ユウ」
僕を睨みつけながらもヨーデルが椅子に座ってくれた事を確認し、僕はみなに向けて話し始めた。
「これから僕が話す事は、3大精霊が語ってくれた、歴史から消された真実だよ。この話を聞いて、僕の計画に賛同するかどうか、教えて欲しい。もし賛同できないという場合は、記憶は元に戻すから安心して」
みな、僕を見て小さく頷く。
まぁ、この場合、僕の提案を受け入れるしか選択肢は無いとは思うんだけど。
「今から8年前。『両王国に途方もない厄災が降りかかる危機』が起こって、その危機から両王国を守るために、多くの術師たちが犠牲となったと僕たちは聞かされてきた。その厄災が一体なんのかは、教えられてはいないよね。おかしなことに、僕も含めて誰も疑問にも思っていなかった訳だけど。その厄災って実は、隣国――コント王国の侵略だったんだ」
僕の視界の端で、ヨーデルが苦し気に顔を顰めたのが見えた。
※※※※※※※※※※
あぁ、ごめんね。
くつろいで聞けるような話じゃ、なくなってしまって。
でも、心配はいらないよ。だって、あなたも知っているでしょう?
ヨーデルは、強い人だから。あの毒舌だけはいただけないけど。
疲れさせてしまったみたいだね。レーヌ嬢に知られたら、怒られてしまうな。
レーヌ嬢は、本当にあなたのことを大切に思っているから。……もちろん、僕もだけどね。
今日はもう、帰ってゆっくり休んだほうがいい。
大丈夫だよ。僕はここで待っているから、あなたのことを。
じゃあ、また。
気を付けて帰るんだよ。
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