第21話 村の食事

 宿を後にし馬車に乗ると今度は整地された街道を走っていた。ここからは大体どの道を走ってもかかる時間は同じらしい。

 

 何事も無く進み昼をすぎる頃、脇道に入り少し狭い道をしばらく進み小さな村についた。

 

「ここで休憩だ。」

 

 それだけ言ってタイラーはひとりで村の奥へ入って行き、私とレーンは二人だけで村に一軒だけの食料品店兼食堂へ行った。ここも売り場に品物はほとんど無く、卵と野菜が少し置いてあるだけだ。

 

 店先のテーブルに付くとすぐに注文していなくても店主が皿を持って来た。

 温かいスープとふかふかのパンのような皮に肉と野菜をはさんだそれを手掴みで食べる物だった。出来立ての熱々にかぶりつくと中からあふれ出た肉汁で舌をヤケドした。

 

「熱い…でも美味しい。」

 

 残りはふぅふぅ冷ましながら食べるとお腹いっぱいになった。

 

「ロージーはやっぱり変わってるな。」

 

 レーンが感心したように言った。

 

「そうですか?」

 

「普通は、ロージーの家の人はこんな物食べないだろう?」

 

「王都のお屋敷で食事に出た事は無いですね。」

 

「出ても食べないだろう。」

 

 笑った後、レーンも熱々をハフハフしながら食べていた。

 

 辺境に住んでいた頃に何度か年の近い使用人とお屋敷を抜け出した事がある。後で思えばエルロイ伯母の指図だったような気がするが彼女と一緒に町を歩き一緒に買い食いしたりした。

 すぐに屋敷に戻ったがエルロイ伯母は何も言わなかったので気付いていないのだと思っていたがそんな事無いだろう。二人切りの暮らしだったのだから。

 

「タイラーは何をしているのですか?」

 

 なかなか戻って来ない彼が気になった。

 

「あ〜、まぁ、色々と。」

 

「誰かに会ってるんですか?」

 

 ここには物は何もないのだから考えればわかる。

 

「知らなければ関わった事にはならないから。」

 

 レーンはそう笑って何も話してくれなかった。

 

 もしかして昨日の町でも誰かに会ってたんだろうか?だからレーンと二人だけで強行して帰還しているのかな。

 

 

 

 なかなか帰って来ないタイラーを待つ間、村の入口付近に止めてある馬車の側にいた。

 

 レーンは私に付いているつもりなのか、馬車の荷台で寝転びながらも時々コチラを見ている。

 誰かが私に近づきそうになると起き上がりその人をジッと見た。ほとんどの男はそれで近づかず、一人だけどんどん近寄って来たのはどうもレーンの知り合いの様だった。

 

 馬車から少し離れた所にいた私に気付いて近寄って来たがレーンが声をかけた。

 

「ヤンじゃないか?」

 

「よう、久しぶり!まさか王都へ行くのか?」

 

 ヤンと呼ばれた男はレーンと話しながら私にどんどん近づいて来る。

 

「こんにちは、オレはヤンだ。まさかレーンやタイラーの女じゃ無いよな?」

 

 ニッコリ笑いながらとても失礼な事をいう。

 

「こんにちは、ロージーです。まさかそんな事、とんでも無いです。」

 

 うまく笑えたか分からないがニッコリした。

 

「ヤン、その人に構うな。こっちへ来い。」

 

「嫌だ、むさ苦しい奴に囲まれ続けてやっと現れた花をオレは愛でたい。」

 

「それは触れちゃイケナイ花なんだ。ぶっ飛ばされるぞ。」

 

「誰にだ?まさかタイラーじゃないだろうな。」

 

「そのまさかだ。わかったらコッチに来い。」

 

 信じられない物を見たという目で見られヤンはレーンの所へ行った。

 

「なんでアイツがいまさら女のコに構う?」

 

「そんなんじゃない。大事な客なんだ。」

 

「客?なんだよそれ。」

 

「詳しくは言えない。」

 

 そこからは声を潜めだし話はもう聞こえなくなった。

 

 木の側へ行くとパフが低い枝に止まった。

 

「タイラーは何してるの?」

 

「ポッポ」(何人か集まって情報交換だな。昨日の街でも夜にどこかへ消えてた。)

 

「撒かれたの?」

 

「ポッポ」(奴は鋭い上に私の存在を知っておるからな、チッ。)

 

 鳩なのに舌打ちしてる。

 

「情報って?」

 

「ポッポ」(大まかはこれから帰還してどう国が動いて行くか、だな。)

 

「どうしてタイラーがそんな事気にするの?決めるのは陛下でしょう?」

 

「ポッポ」(帰還すればどうしても派閥に関係する。どこに取り込まれるか探ってるのであろ。大隊長で勇者なら当然の事だ、政治的な立場は難しい。平民だから当然後ろ盾も無いゆえな。)

 

 そうなんだ。私の場合、父の機嫌だけ伺っていれば良かった。後はセバスチャンに教えてもらっているだけだったから派閥の事はよく分からない。

 

「どうして派閥なんてあるんだろうね。」

 

「そりゃお前の親父に聞いてくれると助かるよ。」

 

 いつの間にかタイラーが帰って来ていてパフを面白そうに見ている。

 

「何羽出せるんだ?」

 

 タイラーの方に行っていたパフが戻って並んで枝に止まった。やっぱり気づいていたようだ。

 

「内緒よ。可愛いでしょう?」

 

 双子のようにそっくりな姿にキュンとしている私と違いタイラーは冷めた感じだ。

 

「鳩にしては目が鋭い。特にオレを見る目にはゾッとさせられる。」

 

「仕方ないわ。パフあなたがお気に召さないようだから。」

 

「チッ、それ以上鳩に近づくな。ヤンが見てる。」

 

 そろそろ出発するのか馬車へ来るよう促された。

 

 私が馬車へ乗り込もうとするとヤンが近寄って来た。

 

「大事な客ってどれ位大事なんだ?」

 

 タイラーに質問してるが私を見てる。

 

「勝手に触れば首が飛ぶくらい大事だ。死にたく無ければ構うな。」

 

 自分は勝手に触ったクセに何言ってるの?

 

 だけどそんな大層な者じゃない私は訝しんでタイラーを見る。

 

「オレにとっては切り札になりうる。」

 

 荷台へあげられ彼らがコソコソと話したあと馬車は走り出した。

 

 再び広い道へ戻り暗くなるまで進むと街が見えた来た。

 

 今度のは少し大きく、街を囲む壁がある。

 大きな街には入る為の検問がありそこで通行料金を払わなければいけない。

 検問がある門の所には長い列が出来ていて、多くの人が順番を待っていた。

 

 私達が乗っている馬車は少し速度をあげ、街へ入るための行列を無視して兵士がいる所へ直接向かった。馬車を止め御者台からレーンが飛び降りると兵士に駆け寄った。

 

「おい、すぐに責任者に取り次いでくれ!」

 

「何やってる。ちゃんと列に並べ!追い返されたいのか!」

 

 兵士は訳の分からない奴が来たと思ったのか手を振って下がるように言ってきた。

 

「責任者はいないのか?緊急の件だ!故あってこのような格好をしているが私達は騎士団の者だ。」

 

 見た目はただの冒険者にしか見えない二人を兵士が胡散臭そうに見た。門の検問をしているのは平民の兵士で貴族ではない。

 普通、騎士団関係者と聞けば驚いて従う事がほとんどだろうけど、まだ兵士は疑っているようだ。

 

「騎士団関係者が来るとは聞いてない。本物か?」

 

 そう聞かれレーンが腰に差していた彼の剣の柄頭を見せた。そこにはラッテンリット国の象徴の剣と魔法陣が重なった紋章が彫り込んであった。

 

「これは…失礼致しました。すぐに隊長を呼んで参ります。」

 

 兵士はやっと信用したのか門の中へ駆けていった。すぐに隊長らしき人を連れて引き返して来る。

 

「お待たせ致しました。それで緊急の御用とは?」

 

 今度はタイラーが御者台からスッと降りると隊長と向き合った。

 

「私は騎士団所属、辺境部隊大隊長のタイラーだ。」

 

「え?辺境の…タイラーって、勇者タイラーか!?」

 

 門番の隊長が大きな声を出した事でまわりが騒然としだした。

 

「勇者タイラーが帰って来てるのか!?」

 

「本物なの?」

 

 検問に並んでいる人達から歓声のような声がする。

 

「勇者タイラーでしたか!帰って来ていたのですね。」

 

 隊長が少し興奮した口調で嬉しそうに言った。

 

「正確には帰っている途中なのだが、至急王都へ連絡が取りたい。」

 

「何なりと仰って下さい。」

 

 タイラーは馬車に戻って来ると私を荷台から降ろし外へ連れ出した。

 

「何も話さなくていいから少し我慢しろ。貴族らしくしてろよ。」

 

 小声で囁かれた後、門の隊長の前に私を連れて行った。

 

「連れ去られていたゾルガー家のお嬢様、ローズマリー様をお連れした。至急王都へ連絡しご無事を知らせて欲しい。」

 

「ゾルガーの…」

 

 名を聞いた隊長は一瞬で顔を引きつらせた。

 

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