第18話 町の宿1
やっぱりごまかせ無かったか。
タイラーは笑うのを止めるとじっと私を見た。
「魔術師だったのか、だがなぜ今更魔術を使った?隠したかったんじゃないのか?」
「お互い詮索はしないって言いましたよね。」
パフを抱えながらタイラーを見ていた。もし私を捕まえようとするならパフに攻撃させるしかない。
「クークー」(コイツは…勇者タイラー!なぜ今ここいるのだ。)
パフがもがきながら私の手から逃れようとしている。
「やっぱり勇者タイラーなのね。」
何故パフがタイラーの事を知っているのか分からないがこれはいつもの事だ。この子は色々な事を知っていて教えてくれる。
「詮索されて困る事はもう知られたようだ。だったらそっちも教えてもらおうか、何故こんな所に魔術師がいる?貴族ってことだろ、回復の魔術を使うなんて。それも優秀なら高位のはずだ。」
どうしよう、勇者なら話して城まで連れて行ってもらう方がいいのかもしれない。だけどそれだと父に魔術が使える事を知られてしまう。
そうなれば父はもう少し私を大事にしてくれるだろうか?閉じ込めたりせずにキチンとした貴族の令嬢として扱ってくれるのか。
でもきっと、都合の良い駒の一つである事に変わり無いだろう。それじゃ今までと変わらない。
「私は…ローズマリー・ゾルガーです。」
名を言った途端タイラーは顔をピクリとさせレーンは驚き急に片膝をついて礼をとった。
「知らぬ事とはいえ無礼をお許し下さい。タイラー、早く。」
慌てて彼にも礼を取らせようとした。
「隠していたんだしもう一緒だろ。それに何か他にも秘密があるようだし。」
ニヤリと笑うタイラーをじっと見つめた。
どうしよう…
「クークー、クー」(ロージー!離せ、私がすぐに仕留めてやる!)
パフが一層暴れて私の手から逃れた。
「駄目よ勇者なのよ、皆がこの人の事を待ってる!」
バタバタと飛び回りパフは私に攻撃の許しを出すよう急かす。
「クークー!」(コイツがエドワードに言えばお前はどうなるかわからんぞ。それでもいいのか?)
「私はいてもいなくても誰も何も思わないわ。この人とは違う。」
パフは私の元に戻って来ると肩に止まった。
「ポーポー」(だったらここで別れてもう城へ戻るのを止めることだ。ロージーひとりくらい私がなんとかしてやる。)
「ありがとう…でももう一度だけ戻ってみる。このままじゃラウリス様にご迷惑がかかる気がするから。」
護衛としてついてきていたのだ。私が帰らなければ対立している父との派閥問題にまで発展しそうだ。勿論父は心配などでは無くチャンスだと思って責任を追求するだろう。
「鳩との話はすんだのか?だったらこっちと話してもらおう。ゾルガーの娘が回復の魔術師だとは聞いたことが無い。もしそうなら奴はもっと勢力を広げているんじゃないか?」
タイラーはじっと私を見据えている。レーンが彼を抑えようとしているがきかないようだ。
「父は私を『
パフがいなければ魔術なんて使えない。
「何故そんな…『無能者』だと思っているならラッテンリット国内じゃ相当酷い扱いを受けるでしょう。」
レーンは同情したのか気の毒そうな顔をした。タイラーは何か考え込むと馬車の方へ向かいだした。
「長くなりそうだな、とにかく出発しよう。話は道中で聞かせてもらう。」
一度は帰ると決めたのだ、タイラーに付いていくと馬車に乗り込み荷台に座った。
「行くぞ。」
二人は御者台に座りコソコソとなにか話している。
しばらくして手綱をレーンに任せるとタイラーは荷台にいる私の前に座った。
揺れる馬車の中でパフを膝に乗せフワフワの首元を指でなぞり自分を落ち着かせていた。
「それで?何故エドワード・ゾルガーは知らないんだ?」
「それは、私は召喚士だと言われて。『魔術開花の儀式』で出て来たのがこの子だったの。それを見てただの鳩だと落胆されて…こんなに綺麗なのに…ねぇ。」
羽に手を滑らしツルツルした感触を確かめる。
「それがただの鳩じゃなかったのか。」
「そう、賢くて優しい子なの。だけど亡くなった伯母が秘密にしておく方がいいって、その方が穏やかに暮らせるからって。」
「なるほど、そんな事だったのか…だったら黙っていてやっても良いぞ。」
タイラーはヘラっと笑う。
「ありがたいけど、その代わり何があるの?」
タダじゃすまないことは確かだ。そんなに世間は甘くない事くらいわかってる。
「理解が早くて助かる。だが今は言わない、後でジックリと考えて返してもらうさ。まず手始めにお前を連れて帰ってゾルガーに恩でも売っておく。」
「ご期待に添えなくて申し訳ないけど父は私を連れ帰っても恩義は感じないわ。
どちらかと言うと騎士団副長のラウリス様が多少ホッとなさるでしょうね。失点が少しでも緩和されて。」
タイラーは冷めた目で私を見た。
「可愛気がないな。貴族の娘はもっと淑やかな淑女じゃなかったか?髪を上げた。」
そう言って御者台へ戻った。
ふわぁ!髪の事を忘れてた!
慌てて手櫛でまとめると後ろで一つにまとめてくるりと丸めた。
もう最悪、恥ずかしい。
馬車に揺られながらパフを撫でていた。
「ホーホー」(これからは私を手元に置いておけ。一体どれほど探したか。)
「ごめんね、心配かけて。」
私は薬で眠らされ三日も意識がなかったようだ。途中で薄っすら気配は感じたらしいので目覚めかけては眠らされていたのかもしれない。
「ホントに鳩と話しているのか。」
レーンがちょっと変なものを見る目をしている。
「他で話すなよ、変な貴族が変な鳩と話してるなんて誰が信じる。お前が変人扱いされるぞ。」
タイラーがからかいながらも口止めした。誰にも言わないって本当みたいだ。
「どうして勇者タイラーが二人だけでこんな所にいるの?正式な帰還命令が出ているはずよ。」
王がすぐに呼び寄せて勇者らしく凱旋させると言っていた。
「先行での知らせを受け取って即二人で旧ウギマを出た。その方が早く動けるし自由がきく。トロい騎士達を引き連れて帰還してたらまた余計なことに巻き込まれそうだからな。」
勇者と呼ばれて三年、帰還させるには確かに遅すぎだ。
「どうして帰還命令が出てると知っているんだ?お前が王都からさらわれた頃にはまだ発表されていないだろ?」
「命令が下された時に聞いていたからよ。私は王の秘書だから。」
流石にこれは予想外過ぎたようで私が魔術師だとわかった時よりタイラーは驚いていた。
「お前が秘書…」
「タイラー、ローズマリー様をお前呼ばわりするな。」
レーンが注意したがこれまで通りかわすかと思っていたら違った。
「思っていたより面倒な事になりそうだな。屋敷に閉じ込めていたんじゃないのか?」
「人手不足で仕方がなかったのよ。秘書と言っても下っ端の雑用、使用人よりマシだったんでしょ。」
「誰に攫われてきたんだ?」
「知らない。」
「チッ、捕まえとけばよかったか…」
タイラーは何か考え込みそこから町に着くまで口を閉ざしていた。
少し薄暗くなった頃、小さな町に着くと宿を探し泊まることになった。
こじんまりした宿で夫婦二人と娘が一人で経営しているらしく食堂も兼ねている様だった。
「部屋は三つ、食事も頼む。」
レーンが宿の主人に鍵をもらって私に一つ渡してくれた。
「ここでは貴族とわからない方がいいですから。ご不快かもしれませんがしばらくお許し下さい。」
小声でそう言われ頷いた。
宿の主人が二階へ案内してくれる。
「一番奥の部屋と、後は離れているがここに並んで二部屋。食事は一階で食べてくれ。シャワーは二つ、左の奥にある、共同だからキレイに早く使ってくれよ。」
そう言って主人は忙しそうに降りていった。
シャワーがキョウドウ…って?
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