第17話 連れ去り2
馬車は川にさしかかると予定通り休憩する為に止まった。
私も荷台から降りると伸びをした。縛られていた事と緊張から体が縮こまり全身が痛い。首を回し乱れた髪を手で直すと道から一段下がった川へ近づいて行った。
橋がかかっているがそれほど川幅は広くなく水量も少ない。
川原は石が転がり歩きにくく、ヨタヨタとしながら何とか進みしゃがむと水に手をつけた。
冷たくて気持ちがいい…
汚れた手を洗いポケットからハンカチを取り出すと水に浸し顔を拭いた。
「けっこう出血してたんだ。」
血は止まっているがハンカチは赤く染まりそれをまた川で洗っていた。
「落ちるなよ。」
突然後ろから声をかけられ驚いて川へ落ちそうになった。
「わぁ!び、びっくりした。」
タイラーに腕を掴まれ支えられて何とか立ち上がった。
「ハハ、すまん。危なっかしくて。」
そのまま腕を引っ張られ川から離された。
心配してくれたのか。
身なりは冒険者風で薄汚れている。それはレーンも同じだが持っている剣は高価そうだ。
「冒険者なんですか?」
そう聞くとニヤリと笑った。
「商人だと言っても信じないだろう。お互い詮索はしない方がいいんじゃないか?」
勿論、商人には見えないが確かに知らない方が良いようだ。
また馬車に乗り込み進みだした。
日が傾いた頃、馬車を止めるとレーンは石で竈を作り火をつけて鍋で湯を沸かしスープを作った。具材はあまり無く、干し肉と川べりで積んでいた野草を入れただけの簡単な物だが温かい物が有り難かった。
「ロージーは良いとこの娘さんぽいから口に合わないかもしれないね。」
服装のせいかレーンが気遣ってくれたが空腹だった私にはとても美味しく感じられた。
「いえ、とても美味しいです。」
「それ食ったら早く寝ろ。荷台は狭いがオレたちも交代で隣で休むからな。」
え!?男と同じ空間で寝るの?
顔が引きつってしまいレーンが困った顔をした。
「気休めかも知れないけど間に何か置くよ。オレたちまだ先が長いから出来るだけ休める時に休みたいんだ。」
助けてもらったんだし、何かされる気配は今の所ない。仕方ないか…
「だ、大丈夫です。」
何とか微笑みスープを飲みほした。
すぐに暗くなり馬車へ戻ると荷台は真ん中に小さな木箱が置かれ二つに分けられ、布袋を下に敷き詰め毛布が用意されていた。
思っていたより距離は近いが木箱があるから大丈夫と自分に言い聞かせて左の空間に寝転んだ。割と広く余裕がある。
緊張していた気持ちも温かい食事のせいか緩んだ。すぐに横になろうとしてふと髪が気になった。
キレイに結い上げられていた編み込みも乱れ汚れてグチャグチャだ。だけど貴族の淑女は寝所以外で髪を解く事ははしたないとされている。まして夫以外の男性に髪を解いているところを見せる事はない。でもこのまま休むのも気持ちが悪い。
二人はまだ火の前で何か話し合っているようだし、毛布を被ってしまえばほとんど見えないだろう。思い切って髪を解くと開放感にホッとした。手櫛で梳いて整え毛布をかぶり横になった。
「レーン先に休むぞ、後で起こせよ。」
声がしてタイラーが来ると反対側に横向きに寝転んだ。木箱の隙間から見ると体格の良い彼には少し狭そうだ。
「あの、もう少しこちらに木箱を押してそちら側を広く取って下さい。私の方はまだ余裕がありますから。」
なんだか気の毒でそう声をかけた。
「そうか、じゃあそうする。」
タイラーは起き上がりグッと木箱は押され私の方が少し狭くなった。敷いていた布袋も押されたので少し身を起こし直していた。
「狭すぎないか?」
そう声をかけられ顔を上げるとすぐ側に彼の顔があった。
「キャ!」
あまりの近さに咄嗟に声を上げてしまう。
「あぁ、すまん。別に何もしないって。」
タイラーは何ともないという感じですぐに自分の場所に戻った。
か、髪をおろしているのを見られた…
ちょっと恥ずかしかったが向こうは気にしていないようだ。
確か平民にはそんな習慣はなかったはずだから、大丈夫だろう。
ひとりで勝手にドキドキしながら、毛布を被った。
隣からイビキが聞こえ気になるがよく眠っている証拠だと自分に言い聞かせて何とか眠った。
眠りは浅くて途中でタイラーとレーンが交代する時も気がついた。
そこからもウトウトしただけでよく眠れなかったが明け方、パフの気配がして起き上がった。
そっと寝床を出ると荷台の後ろからゆっくりと降りた。タイラーは火の側に座り俯いている。彼がいるのと反対へ足音を立てないように行き少し離れた所でパフを呼んだ。
「ここよ。」
木々の間の空間に立っていると朝靄の中バタバタと羽音がした。
「パフ!」
「ポッポ」(ロージー!無事か!?)
パフは私の胸に飛び込んでくるとその小さな目をパチパチとさせた。
「大丈夫よ。良かった、なかなか来てくれなかったから怖くって。」
「ポッポ」(意識が戻ったなら召喚すれば良かったのだ。)
「それがひとりになる時間がなかなか取れなくて。」
美しい羽をそっと撫でながら気持ちを落ち着かせた。
「ポッポ」(怪我をしているではないか。)
パフはそう言うと回復の魔術を使い私の傷をあっという間に治した。
「あ!もう…治しちゃったのね。」
「ポッポ」(どうした?)
「一緒にいる人に見つかるとマズイでしょ。」
手首の傷は包帯が巻いてあるから見つからないが額の傷は見えるから治ってしまった事がバレるだろう。
「ポッポ」(誰かと一緒なのか?お前を攫った奴等じゃないのか。それなら始末すればいいだけだから問題ない。)
「違う、一応助けてくれた人達なの。」
そう話したところでパフが私の手から飛び立ち後ろへ回った。それにつられ振り返るとタイラーがそこに立っていた。
「誰と話してるのかと思えば鳩?何かの冗談か?」
剣に手を添え油断ない顔で見ている。
「ポッポ」(殺るか?)
「待って、多分大丈夫。」
パフは私の肩に乗ると彼をじっと見た。
「何が大丈夫なんだ?お前なに者だ?」
様子をうかがうようにゆっくりと近づき私をぐるりと回った。
正面に立つと手を伸ばし額の髪を分けた。パフが素早くタイラーに飛びかかりその手を払う。
「クークー」(礼儀を知らん小僧が。許可なくロージーに触れるな。)
「うわっ、何だこの鳩。お前を守ってるつもりか?笑わせるな。」
私はパフを両手で捕まえると一歩下がった。
「大事なお友達なの。」
「お前を追ってきたって言うのか?そいつと額の傷が治ったことと何か関係があるのか?」
「クークー」(ロージー、コイツはここで殺っておくべきだ。許可を出せ。)
「駄目よ、何言ってるの。」
パフは攻撃魔術は私の許可なく使えない。
回復の魔術は私が死にかけてたら許可も出せないので使っても良い事としているが攻撃はヤンチャなこの子の自由にさせると大変な事になるからだ。
私が召喚したので私の指示は絶対だ。普段は割と自由にしているが魔術攻撃だけはキツく言ってある。
「お前鳩と話すのか?」
タイラーはおかしくて仕方がないという感じで笑い出した。その声に気づいたのかレーンもやって来るとタイラーを変な顔して見ている。
「何かあったのか?」
「コイツ鳩と話してる。」
笑いが止まらないタイラーと驚いて目を見開くレーン。これが鳩と話す私を見た人の平均的な反応だ。
時々パフと話してる所を見られるとこうなる。皆が淋しい変な娘を見る目だ。
「そんなに笑うな。」
レーンがあまりに笑うタイラーを止めたが彼はニヤリとした。
「一見この変な取り合わせに皆が騙されるみたいだがこの娘ただもんじゃないぞ。」
私の額を指差しレーンを見た。
「傷が治ってる。跡形も無く。」
「まさか…回復の魔術を使えるのか!」
レーンは驚いて私を見た。
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