勝利の2Pクロス(16)

 劇的。痛快。それら大見出しが似合うほど、ソソミとババアの対戦は大詰めの〈大逆転〉によって幕を閉じた。別斗たちですらソソミの敗戦を覚悟していた最中での逆転劇は、別斗陣営に驚きと興奮をもたらし、ソソミという人物の底知れぬ奥深さをまざまざと見せつけられる結果にもなったわけだが。

 さて。

 帰宅の途につくリムジン内。ちいかわのシャンメリーで別斗とソソミの勝利を祝う面々は、思い思いの発言で場を盛り上げている。


「おばさんの泣きそうな顔ったらなかったね~。ソソミ先輩にカマかけられたおばさんのテンパり具合い、インスタにあげたいくらいだよ~」

「バーロウさんの〈愚者の黒霧ブラックアウト〉って、今までの相手で一番厄介だったんじゃないか? だとしたら、上Qゲー民のランカーってどんだけ強いんだろうな」


 すでにボトル3本空けたジャレ子&あすくは上機嫌、事の発端である剣崎マケンジと牟田瓦ショウの散財などとうに忘れて、ただただ今回の勝利に酔いしれている。

 そんな2人を尻目に別斗、ついさっきまでのソソミの熱戦を思い返していた。

 あの絶体絶命の状況でコントローラーをチェンジするという奇策をものにしたソソミの大物ぶりはさすがだが、もし失敗していたらどうしていただろう。どうしていたもなにも、負けてそのままババアの軍門に降っていたはずだが、そのとき自分はどうしていただろうか。

 桜花との経緯を辿る。『あなたには途中でゲーム対戦を中断させる真似はできない』、と彼女は云い放った。この言葉が別斗の胸中で幾度となく再生され、堪え難いしこりとなっていた。

 陽の落ちた御美玉の車窓を眺めるだけではどうにも吹っ切れず、別斗は当時の葛藤をソソミと共有する。


「先輩、実はババアとの対戦の終盤、桜花さんがおれにこんな提案を持ちかけてきたんすよ」


 桜花からもたらされた救済案。ゲーム機を破壊して対戦をご破算させる行為への忌避感。まるでソソミよりゲームを重んじているかのような自身の逡巡を、正直にソソミへ打ち明ける。

 ソソミは告白のあらましを聞いても特に感慨もなく顎に手を当て、やがてフッと小さく微笑した。


「ごめんなさい。あまりにストレートな白状をするものだから、思わず笑ってしまったの」

「申し訳ないっす、おれは先輩に助けられてばかりなのに」

「なぜ謝るの? わたくしはあなたらしくていいと思うわ」

「おれらしい?」

「善くも悪くも、それはあなたがゲームを愛している証拠じゃないかしら。それに――」


 やや緊張した別斗の横で、ソソミは優雅にシャンメリーで口を潤した。


「あなたがもしそんなことをしたら、わたくしはかえってガッカリしたかもしれないわね」

「なんでっすか?」

「だって、あなたにそんな心苦しい真似をさせてまで助けられる自分なんて、情けないじゃない?」

「先輩……」

「安心して、自分の身くらい自分で守れるわ。あなたの心遣いは、わたくしが本当の窮地に陥ったときまで取っておいてほしいわね」


 勝負のときとは一転して、柔らかい眼差しを向けるソソミ。つい今まで凝り固まっていた別斗のわだかまりを氷解させるには、その優しさに満ちた瞳だけで充分だった。


「しかし別斗、意外だったなあ」


 ソソミとの〈関係〉が一段落すると、あすくが眼鏡をクイッとしながら、


「あの桜花さんってひと、ぼくたちの肩を持つような真似するなんて」

「まあな。星野先生ェのこともあるし、『2Pカラー』は洗脳的なカルトじゃねえのは間違いなさそうだな」


 別斗の発言に、そうねと肯くソソミ。


「でも、強引さや身勝手さは目に余るものがあるわ。引き続きわたくしたちの前に立ち塞がる敵であることに変わりはないわね」

「ま、そのときはおれがぶっ潰してやりますよ。やつらがニャンテンドーへの妨害を諦めるまで、おれは戦い続けるっす」


 ソソミが本当の窮地とやらに陥ってしまう日は来るのだろうか。もしそんなXデイが降りかかろうとも、全力で守護することを改めて決意する別斗だった。

 クライスラー・リムジンは銭湯で身も心もツヤツヤになった勅使河原によって、御美玉のネオン街を軽快に疾駆していく。

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