勝利の2Pクロス(4)

 そこはまさに時代色の際立つ、異質な空気に満ち満ちている。灰色の瓦屋根に焦げ茶色の薄板格子の外壁、コカ・コーラの金属看板ぶら下がる入口は、木枠にガラスのはめられた引き戸があって。その頭上、エグい角度のトタンの庇には白いペンキの塗られた板が掲げられ、黒字で『商店馬場上しょうてんばばがみ』と書かれている。中を覗けば壁棚やキリンレモンと書かれたケースひっくり返してベニヤ板を敷いた即席の台に、所狭しと陳列された駄菓子類が整然と、ときに雑多に並べられ、奥の上がり口前にはもんじゃ焼き用だろうちっちゃな鉄板が安いパイプ丸イスとセットで設えられている。広さにして6帖ほどであろうか、床は靴跡著しい薄汚れた土間になっていた。

 風の塔の向かい、玉常プレイランドにも駄菓子屋レイアウトを模した売店コーナーがあったが、これほどの再現性は発揮されてはいなかった。ともすればこの商店馬場上、創業ン十年のホンモノの老舗駄菓子屋なのではなかろうかと、昭和を知らない別斗は安易に考えていた。

 それはともかく。


「ねえ、これじゃな~い? マケンジくん達が云ってた『先割れ! 男軸』とかいうガチャガチャ~」


 いまは空想に浸っている場合ではない。マケンジたちの飲まされた煮え湯がいかほどか検証しなければならないのだ。

 ――やれやれ、やっぱりあすくの頼みはろくなもんじゃねえなあ。

 あまり気乗りはしないが、金の無心をされた立場であるソソミが意外にも上機嫌なものだから、別斗も重い腰上げざるを得なかった。

 視線を駄菓子屋の中から外へと戻す。『アイスクリーム』と赤で印字された業務用冷凍庫のわきに、ご存知ガチャガチャのマシンが4台設置してある。ひと組二段になっていて、話題のガチャガチャは上の段にあった。ジャレ子の指摘した通り、正面には『先割れ! 男軸』のクセツヨな大きいフォントが躍っている。


「え~っと、なになに……。キャラクター数は全部で18種類だって~。けっこう多めだね~」

「なるほど、これは『絶頂五輪編』の登録キャラ数だね」


 と横からガチャガチャの中身を観察していたあすく、なにかを発見して「これは!」と感嘆符つきの声をあげた。


「どうした、あすく?」


 別斗の問いかけに苦笑いを浮かべるあすく、


「このガチャガチャ、中身がパンパンに詰まってるぞ。昨日マケンジたちが6千円もつぎ込んだのに、もう補充されてる」

「マジかよ。ちょっとタチ悪いな」

「このカプセルは48㎜タイプだから通常マシンなら100個入りなんだけど、それ以上あるように思えるな」

「……特注か?」


 あすくが深く肯いたことで、ことさら面倒くさくなった別斗。これを一手に引き受ける〈被害者〉となったソソミを慮り、


「ってことらしいっすよ先輩。全部買うなんてアホらしいっす。10個くらいやって、おんなじキャラしか出ないならやめましょう」

「私もそれに賛成だな~。あっくんの企みは面白いけど、さすがに目の前での実害は遠慮したいかも~」


 一票、と別斗の進言にジャレ子も手を挙げる。冷静に考えて、それは正論だろう。ガチャガチャの景品に偏向を覚え、全部買い占めてその〈悪行〉を正したとして、いったいなんの得があろうか。単純に金銭の無駄である。動画を回しているならまだしも、放課後に学生がやるにはなんの意味もない。

 しかしこの提案に、ソソミはサイドの髪を手ぐしして耳を出すと、剛情とも思える声音で、


「なにを云っているのかしら、ふたりとも。『伊達帯人』(人気1位キャラ)が出るまでぶん回すわよ」


 この予想の斜め上をゆくソソミの告白に『し、知っているのか、ソソミ先輩!』と漫画内でお馴染みのツッコミを入れる3人だった。

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