昼食をすませ一休みした一行は日が落ちると領主たちと共に町の広場へ行った。

「リュカの祭りは夜に行われるのですよ。人々が歌い踊る楽しい祭りです。お妃様は初めてでございましょう？ぜひお楽しみください」

「はい。ありがとうございます。父の領主の祭りは昼間だったので、夜の祭りは初めて見ます」

にこりと笑ってユリアが言う。ユリアは王の言葉もあって王のそばにぴたりと寄り添っていた。

　広場はたくさんのランプで飾られ、人々が集まっていた。たくさんの店が並び、賑やかな音楽が奏でられる。そんな祭りの中、王たち一行は広場を見渡せる少し高い位置に作られた席に案内された。

「皆！今年は国王陛下がおいでくださった！今年の祭りも盛大に執り行おう！」

領主である男爵の言葉で広場の賑わいが一気に増す。王は席から立ち上がると民衆の前に立った。

「リュカの人々よ。この祭りは五穀豊穣を大地に感謝するもの。大地に感謝し、祭りを大いに楽しむとしよう」

王の挨拶に民衆から歓声があがる。王が席に戻るとユリアはにこりと笑った。

「陛下、ご挨拶お疲れさまでした」

「これくらいはどうということはないよ。ユリアも今日の祭りを楽しむといい」

王の言葉にユリアはにこりと笑ってうなずいた。

「広場におりてもよろしいのでしょうか？」

「護衛を連れていけばかまわないよ」

王の言葉に控えていたジルがそっとそばにやってくる。

「僕もご一緒していいですか？」

カイルが共に行きたいと言うと、王はそれにもうなずいた。

　ユリアとカイルが広場におりるとリュカの人々は歓迎の言葉を口々にのべてくれた。

「ユリア様、カイル様、何かほしいものがあったらおっしゃってくださいね？」

立ち並ぶ店を目を輝かせて眺めるふたりにジルがそっと声をかける。ユリアはそれに驚いたような顔をした。

「何か買ってもいいのですか？」

「もちろんです」

ジルの返事にユリアとカイルが顔を見合わせて目を輝かせる。ユリアはガラス細工を売っている店を覗くと可愛らしいウサギやクマのガラス人形を手にした。

「お土産に買ってもよろしいでしょうか？」

「かまいませんよ」

ジルがうなずいてユリアが選んだガラス人形を購入する。すると店主の女性がユリアに天使のガラス人形を差し出した。

「お妃様、これは買っていただいたお礼です。どうぞお持ちください」

「まあ！よいのですか？ありがとうございます」

ユリアは渡されたガラスの天使を見つめると嬉しそうに微笑んだ。

「よかったですね。可愛らしい人形です」

嬉しそうなユリアにカイルがにっこり笑う。ユリアはうなずくと大切そうにガラスの天使を胸に抱いた。

「可愛らしい天使様です。大切にしますね」

ユリアの言葉に店主の女性は頬を染めながら「こちらこそありがとうございます」と頭を下げた。

　ユリアとカイルが広場におりるとすぐさま男爵の娘たちが王とキースのそばにやってきた。

「陛下、お楽しみいただけておりますか？」

「ああ。賑やかでよいな」

穏やかに微笑んで答えながらも王の目は娘を見ることはない。王は広場を楽しそうに歩くユリアを見つめていた。

「陛下、ユリア様ばかり見つめていらっしゃいますね？私とはお話してくださらないのですか？」

領主の娘サリナの言葉に王がどうしたものかとため息をつく。サリナはユリアが座っていた椅子に座ると王にしなだれかかった。ユリアとはひとつしか違わないはずなのに、サリナの仕草は男を誘う女のものだった。

「さて、私とどのような話をしたいのかな？」

王の言葉にサリナはにこりと微笑んだ。

「私、陛下のおそばにお仕えしたく思います。私を王都にお連れくださいませんか？」

サリナの直接的な物言いに王は思わず苦笑した。両親の教育の賜物か、サリナは自分が妃として王に召し抱えられることに何の疑問も持っていないようだった。

「私はこれ以上妃を迎えるつもりはない。お前には良い縁談があると思うのだが」

「まあ！陛下のおそばにいることより良い縁談などありましょうか！」

王の言葉にサリナがにこりと笑う。話が通じなさそうな様子に王は困ったようにため息をついた。

　王がサリナに詰め寄られている頃、キースのそばにはアンナとルイナがいた。

「キース様、カイル様には許嫁などいらっしゃるのでしょうか？」

「カイルには妻は自分で見つけるようにと言ってあります。許嫁はおりませんよ」

「そうなのですね。カイル様は何がお好きでしょうか？」

「さて、それはカイルに直接聞いてみると良いですよ」

カイルの言葉にルイナが「わかりました！」とうなずく。アンナは「それよりも！」とキースに詰め寄った。

「キース様は奥方様はおひとりですよね？他に側室を迎えるおつもりはありませんの？」

「私は、妻ひとりで手一杯です。側室を迎える気はありませんよ」

苦笑しながら言うキースにアンナが「まあ、奥方様一筋なのですか？」と尋ねた。

「一筋というか、妻は少々キツい性格なので、側室を迎えたらその者にキツく当たるだろうことがわかっていますからね」

にこりと笑って言うキースにアンナはひきつった笑みを浮かべた。いくら玉の輿に乗りたいとはいえ、キツく当たられるのが嬉しくないのは当たり前だった。

「陛下、キース様も広場におりられてはいかがでしょうか？」

男爵の娘たちの詰め寄りように呆れながらそう声をかけたのはキースの護衛のギルバートだった。

「ああ、そうだな。私たちも少し見てまわるか。ユリアたちのところへ行ってみよう」

「そうですね」

これ幸いと王とキースが立ち上がる。娘たちは一緒に行こうとしたが、ギルバートにひと睨みされてその場に留まった。