賑やかな広場
「ギルバート、助かったよ」
広場におりて王が苦笑しながら言うと、ギルバートは「いえ」と軽く頭を下げた。
「さすがにあそこまで話が通じないと怖いですね」
王に詰め寄るサリナを思い出してキースが言うと、王もうんざりしたようにうなずいた。
「ユリアを蹴落とそうとしているのが見え見えだ。後ろにいるギルバートが彼女の兄だとも知らずに」
「確かに。言ったらどんな顔をしたでしょうね」
苦笑するキースにギルバートは困ったような顔をした。
「妹が広場におりてからで安心しました」
「まったくだ。色々聞いてきたとはいえ、ユリアに嫌な思いはさせたくない」
王の言葉にギルバートがうなずく。キースは「男爵にも困ったものですね」とため息をついた。
店を見てまわっていたユリアとカイルは気に入ったものをいくつか購入していた。
「ユリア、カイル、楽しんでいるか?」
そばにやってきた王が声をかけるとユリアとカイルは無邪気な笑顔で「はい!」と答えた。
「ガラス細工がとても綺麗で、いくつか買ってしまいました」
「僕も弟に買いました」
「そうか。楽しんでいるならよかった。私たちも一緒に見てまわっていいか?」
「もちろんです」
ユリアがにっこり笑うと王はユリアとともに、カイルはキースとともに広場の店を眺めながら歩いた。
王はゆっくり歩きながら時おり民に声をかける。声をかけられた民は老若男女問わず皆嬉しそうだった。
「髪飾りか」
王が足を止めたのは装飾品を売っている店だった。髪飾りやネックレス、イヤリングなど、美しい装飾品が並べられている。王はその中から花の形の髪飾りを手にとった。
「これをもらおう」
「は、はい!ありがとうございます!」
王が直接購入したとあって店主の男はまるでブリキの人形のようにぎこちない動きで頭を下げた。
王はそんな店主の様子など気にもとめず、買ったばかりの髪飾りをユリアの髪につけた。
「ああ、よく似合う」
「え?まさか私に?」
驚くユリアに王はクスクス笑った。
「当たり前だよ。それはユリアにプレゼントだ」
「ありがとうございます」
王の言葉にユリアは頬を染めて嬉しそうに礼を言った。王は他にもネックレスやブレスレットなどを王妃や妃たちの土産にと購入した。
やがて、広場の中央に楽器を持った演奏家たちが集まる。彼らが賑やかな曲を奏で始めると、人々は演奏家たちを囲むように輪になって踊り始めた。
「まあ、すごい」
席に戻った王たちが人々が踊る様子を眺める。目を輝かせたユリアの呟きにサリナがにこりと笑った。
「このダンスで祭りは終わりですわ。楽しんでいただけましたか?」
「ええ。とても楽しかったです。皆さんとても親切で、とても素敵でした。父の領地の祭りも素敵ですけど、ここまで華やかではありませんでしたもの」
「あら、そうなのですか?ユリア様のお父様は質素な方なのですね」
少し小馬鹿にしたような言い方に王の眉間に皺が寄る。だが、ユリアはまるで気付かないかのようににっこり笑った。
「ええ、父は領地の皆さんが楽しければいいと言って。昼間はたくさんお店も出て賑やかですけど、夜は家族で楽しく過ごす人が多いんです。だから夜の祭りがこんなに華やかで綺麗なことに驚きました」
「お褒めいただいて光栄ですわ」
ユリアの言葉にサリナが苦笑しながら言う。
サリナはその後もユリアを牽制しようと色々と言っていたが、ユリアはどこ吹く風でかわしていた。
日付が変わる頃に王たち一行は屋敷に戻った。町の人々もそれぞれ家に帰っていく。広場に残ったのは朝まで飲み明かす人たちだった。
「皆様、お疲れでございましょう。ゆっくりお休みください」
「ああ、ありがとう。明日は午前中にはここを発つ予定だ」
「おや、そんなに早くですか?もっとゆっくりしていただきたいですが、このまま次の領地へ行かれるのですか?」
「その予定だ。今年はあと2ヶ所行く予定だからな」
王の言葉に男爵は残念そうな顔をしながらうなずいた。
「さようでございますか。ぜひ今度ゆっくり視察においでくださいませ」
男爵の言葉に返事はせず、王はユリアを連れて主賓室に向かった。
「ユリア、疲れただろう?大丈夫か?」
「少し疲れましたけど、楽しかったです。大丈夫ですわ」
にこりと笑ったユリアは部屋に入ると王が脱いだ上着を受け取った。
王の侍従が湯浴みの用意ができていることを告げる。王はうなずくと先に湯浴みに行くことにした。
王が湯浴みのために出ていくとメイがそばにやってきた。
「ユリア様、おかえりなさいませ」
「ただいま、メイ。紅茶をいれてくれる?」
ユリアの言葉にメイはうなずいてすぐに紅茶の用意を始めた。
「お祭りのほうはいかがでしたか?」
「とても楽しかったわ」
そう言ってユリアは買ってきたものの中から小さな猫のガラス人形を取り出した。
「可愛らしいガラス人形ですね」
「うふふ、これはメイにお土産よ」
「えっ!?私にですか?」
何気なくユリアの手にあるガラス人形を見て言ったメイはユリアの言葉に驚いて危うくティーポットを落としそうになった。
「あらあら、大丈夫?そんなに驚くことかしら?」
「申し訳ありません。しかし、私などがお土産などいただいてよろしいのでしょうか?」
「メイはいつも私のために色々頑張ってくれるもの。これはそのお礼よ。よかったらもらってほしいわ」
ユリアが微笑みながら猫のガラス人形を差し出すと、メイは目に涙を浮かべてそっと受け取り、大切そうに胸に抱いた。
「ありがとうございます。大切にします」
「メイ、これからもよろしくね?」
「はい!」
ユリアの言葉にメイはにっこり笑ってうなずいた。
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