リュカの領主

 ドルマルク男爵の屋敷は本人の趣味なのか装飾が華美だった。とにかく高価なものを寄せ集めたように見えるのでまとまりがなく逆に品がなかった。それは応接室も同じで、部屋の大きさに似つかわしくないシャンデリアや絵画などの美術品が並んでいた。

「王都からリュカまではさほど離れていないとはいえお疲れでございましょう。すぐにお食事をご用意いたします」

「男爵のお心遣いはありがたいのですが、昼食はこちらでご用意する予定となっております。厨房をお貸しいただけますか?」

そう言ったのは護衛として王についてきたライルだった。ユリアの護衛であるジル、キースの護衛であるギルバート、そしてカイルの護衛の青年も応接室についてきていた。

「厨房をお貸しするのはかまいませんが、わざわざこれから作らずとも、こちらでもご用意できますが?」

「いえ、本当なら到着は午後の予定でした。早く着きすぎてしまったのは私の落ち度。昼食の用意に時間をいただくことは陛下にもお許しいただいております」

「わかりました。そうおっしゃるのなら。厨房は好きに使っていただいてかまいません」

男爵の言葉にライルは礼を言い、侍女に厨房を使わせてもらうように言いつけた。

「陛下、私の家族を紹介してもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。たしか、男爵には娘が何人かいたのだったな?」

「はい。これ、入っておいで」

男爵がにんまりと笑って声をかけると、3人の娘と男爵の妻らしき女性が入ってきた。

「これは私の妻のマーサです。そして娘のサリナ、アンナ、ルイナです」

男爵に紹介されてそれぞれが優雅に挨拶する。長女のサリナはユリアと同じくらいの年、末のルイナはカイルと同じくらいの年に見えた。

「サリナはユリア様のひとつ上の歳になります。貴族の淑女として恥ずかしくない教育をしたつもりでございます」

父親の言葉にサリナが頬を染める。サリナは母親に似て面長で黒髪を縦に巻いていた。

「末のルイナはカイル様と同じ歳です。お話し相手にちょうどいいかと存じます」

「よろしくお願いします」

ルイナはカイルを見つめてにっこり笑う。その笑顔は父親そっくりだった。

「前回リュカの祭りにきたのは3年前か。前はまだ愛らしい子どもと思っていたが、美しい淑女に育ったものだな」

王の言葉に男爵が満面の笑みでうなずいた。

「ありがとうございます。陛下やお妃様がよろしければ、サリナにお世話をさせますが、いかがでしょう?」

「いや、そこまで手を煩わせるつもりはない。男爵、部屋の用意は済んでいるだろうか?ユリアは今回が初めての外出でな。祭りの前に休ませてやりたい」

さりげなく娘がそばに侍ることを拒んだ王がユリアを部屋で休ませたいと言う。男爵は笑顔を張り付けたままうなずいた。

「はい。お部屋のご用意はできております。只今ご案内いたします」

男爵の言葉に部屋の隅に控えていた執事がそばにやってきた。


 執事に案内されたのは日当たりのいい主賓室だった。王とユリアがその部屋を使い、キースとカイルが隣の部屋を使う。だが、今は昼食前ということもあって全員が主賓室にきていた。

「なんというか、派手なお部屋ですね」

「どれも高価なものだが、これだけ無造作に並べられていると品がないな」

高価な調度品が並ぶ部屋にキースが苦笑し王がうなずく。ユリアとカイルは暖炉の上に並べられたガラス人形を一緒に眺めていた。

「可愛らしいですね」

「リュカはガラス細工が名産品なんですよ」

「あら、そうなのですか?カイル様は色々なことをご存知なのですね」

ユリアとカイルが仲良く会話している様子に王とキースは目を細めた。

「兄上、男爵の娘にお気をつけください」

「お前もな。長女を私の妃に、末の娘をカイルの妻にと狙っているぞ?」

王の言葉にキースは苦笑しながらうなずいた。

「わかっております。カイルにはあまり幼い女性に意地の悪いことはしないようにとは言ってありますが」

「心配するのは息子より政略結婚を狙う娘のほうか?」

「娘のほうが返り討ちにあうのは目に見えていますから。カイルのせいで心を病んでしまわれては大変ですから」

キースの言葉に王は思わず声をあげて笑った。その声にユリアとカイルが驚いたように振り向く。ふたりはソファに戻ると首をかしげてた尋ねた。

「陛下、何か楽しいお話をなさっているのですか?」

「父上、どうせ僕の悪口でしょう?」

カイルは父をじとっと見つめて尋ねる。キースは苦笑すると肩をすくめた。

「悪口ではないよ。ただ、お前が容赦なく幼い女性を返り討ちにしないか心配だと話しただけだ」

「僕だってそのへんはちゃんとわかってますよ」

心外だと言いたげにカイルが頬を膨らませる。王はそんなカイルの頭を優しく撫でた。

「お前がそのへんの配慮がちゃんとできることはわかっているよ。ただ、どうにもできなくなったらちゃんと相談するんだぞ?」

「はい。わかっています」

カイルがにこりと笑ってうなずいた。

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