君がゾンビになっても、愛してます以上の言葉を贈りたい。 その5

『松岡さん、親知らず抜きました?』

「んん、抜いてない・・・いや抜いた。うん、抜いた抜いた」

「あれは凄いで。何を使って抜いてるんか分からんけど、麻酔してもらってんのに、明らかに力一杯引き抜いてるってのが分かるからな」

「おいっ!」

 視線が落ちていく奏を見て、松岡さんが田中さんを一蹴する。

『やだよ、行きたくないよ。なんとかして抜かないでって頼める方法ないかな』

「そんなに怖いんだ・・・」

『ちゃんと磨いてるんです。歯医者さんで貰ったアドバイス通りに歯間ブラシしたり、小さいヘッドが良いよって言われたら、ひとさんが買ってきてくれたし、歯磨き粉も変えて、フッ素コートジェルってのも毎晩してますし』

「ほぉ・・・」

 松岡さんの視線を感じる・・・

 広い松並木の一本道まで歩いてきたところで、露店が両サイドに並び賑やかになりだした。

 それでも、思いのほか人手の少ない初詣。もっと混み合っていて、歩いてるだけで疲れるかもと想像していたから、人混みが苦手な僕たちには丁度良かった。

「あき、そろそろ」

 ぽつんと、独りになっている僕を見兼ねてなのかは分からないけれど、そう田中さんが声を掛けると、ここからは別々に行動をとることになった。

「無事に産まれたら、抱きにきてあげてね」

『うわぁぁぁ、いいんですかっ?』

「もちろん!」

 二人は真っ直ぐ行かずに、左折した所にも立ち並ぶ露店のほうへ歩いて行った。また遭遇してしまいそうな気はするけれど、奏は少し寂しそうだ。

「思ってたより良い人そうだね」

『そうでしょー』

「田中さん」

『えっ!?』

 ずっと先の方までダーーーッと立ち並んだ露店。見て歩いているだけでも気分が上がるのに、数分並んだだけで購入できるとなると、自然と財布の紐も緩んでしまう。

『ひとさん、あのお兄さん、かっこいいよぉ』

「なんか雰囲気の好い人だね」

 間違いなくお兄さんの耳に届いたようだ。

「お姉ちゃん、べっぴんさんやなぁ。学生さんか?」

『いえ、もう二十六になります』

「どれくらいサービスしよ?」

『え?』

「こんなもんか?」

『え?』

「これくらいか?」

 パックの蓋が閉まらなくて、こぼれ落ちるほど超特盛サービスをしてもらった焼きそば。

 嬉しそうに頬張る奏と、その横でイカの串焼きにかぶりつく僕。

 午後からは、奏のご両親と合流して、お寿司を御馳走していただく予定なのに、昨日から完全に正月太りまっしぐらな二人。

『素敵なお兄さんの愛情が乗っかった焼きそば。残す訳にはいきません』

 すると、松岡さんと田中さんが、口の中一杯に焼きそばを放り込み、頬がリスみたいにパンパンになった奮闘姿を見付け、爆笑しながら横切っていく。

『んんんんん!!!』

 お腹を抱えながら写真を撮る田中さんと、それに応える僕。

『んんんんんんんん!!!』

 小さく手を振る松岡さん。と・・・

 泣き出しそうな奏。笑。

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