君がゾンビになっても、愛してます以上の言葉を贈りたい。 その6

「朱色の神社に来ると初詣に来たって感じするね」

『私はもっと素朴で静かなとこでいいんだよ』

「あ、本日二度目の方向性の違いで解散ですか」

『解散ですな』

「二礼二拍手・・・だっけ?」

『えっと・・・』

 神社やお寺を巡るのが好きな割に、必ず分からなくなる二人のあるある。


 パンッ! パンッ!


『ひと子さんが小姑みたいに小言を言わなくなりますように・・・』

「ん?」

 神様にお願いしちゃいけないんだよ!

 なってやるよ! こうしてやんよって誓いを立てるようなこと言わなきゃダメなんだよ!

 そう僕に語っていた奏が、珍しく願い事をしている?

『洗濯機の水量が、洗濯物の量より少ないから洗濯になってないって言いませんように。お米を研いだザルに、お米が細かく挟まってるってダメ出ししてきませんように。固形バターをもっと上手に綺麗に使え、汚いって言いませんように。また小言を言いやがってチッって舌打ちしなくてすみますように・・・』

「そうか、そうか、そんなこと思ってたか」

 クスッと笑いだす奏。

『ひとさんが、もっと甘やかせてくれますように!』

「後ろで待ってる人の迷惑になるから行くぞ」

 実家に帰ると、こたつで丸くなって動かなくなる奏。夏でも、縁側や大好きな書斎の隅っこから動こうとはしない。

『これはDNAなんです!』

 と言い張るこいつは、毎度毎度お母さんに小言を言われて帰って来る。

「ひとちゃんが全部してくれるから奏は楽でいいねぇ。黙ぁぁぁってたら、家事やってくれるんでしょ。ひとちゃんは料理も得意だからご飯も用意してくれるし。あんたそれで大丈夫なのかねぇ」

 だが実際は、ちゃんと家事をしてくれている。

 お互いに時間がある時に気が付いたことをするっていう暗黙の了解。だから今日まで成り立っている二人なのだ。

 ただ、僕の少し細かい性格は、なんとかしなきゃなぁ・・・

『ひとさんはまた何かお願いしたの?』

「幸せになってみますってぇ・・・お願い?」

『お願いなのそれ?』

「うんまぁ、君がゾンビになっても、愛してます以上の言葉を贈り続けられますようにって」

『いや、そうなったら手早く命を絶って下さい。お願いします』

「出来る訳ねーーーー」

『やだよ、ひと思いにやって下さい』

 一緒にいると、毎日が新鮮で飽きることがなくて、この憎めない愛すべき座敷童との生活は本当に幸せだ。

 二人三脚で横を歩いていたかと思えば、突然真正面に立ち、時に厳しく時に優しく叱咤激励。さらには後ろに回り、今度は背中を押してくれる。

 最近は、デザート作りに力を入れ始めて、眠っていた自分のポテンシャルに、本人すら驚くほどの力を発揮し始めている。

 自信に満ち溢れている時ほど、その表情は間が抜けていて、もちろん期待も裏切らない。

 しっかりしてるんだか危なっかしいんだか、よく分からないけれど、同じ空の下、こんなにもずっと一緒にいたいと感じれる女性は、もうどこを探しても見つからない。

 間違いなく死ぬまで側にいたいと、僕はそう考えている。


『ひとさん、何吉だった?』

「中吉」

『おおおおお!』「おおおおお!」

『え、ひとさん内容も一緒じゃない?』

「んなことある?」

『騒ぐと損?』

「騒ぐと損!」


 新年早々賑やかな二人の笑い声は、神様の耳にも届いているような気がする。


『今夜こそ、初夢見れるといいね』

「唸されなきゃいいんだけど・・・」



 奏。

「幸せ」を教えてくれて、ありがとう。

「愛されることの喜び」を教えてくれて、ありがとう。

 君は僕にとって、なくてはならない特別な存在です。

「愛してます」以上の言葉、浮かばないや。言葉にならない・・・

 大好きです。奏。



 この作品を、筆者が世界一大切にしている女性。誰よりも愛している女性に、捧げます。

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君がゾンビになっても、愛してます以上の言葉を贈りたい。 大河 仁 @doskoitiger

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