奏と僕と その3

 奏は、出逢った当初から、直筆の手紙やポストカードをサプライズで渡してくる女性だった。

 冷蔵庫に貼り付けてあるホワイトボードや、普段から持ち歩いているノートも例外ではない。気が付いた時には、思わずにやけてしまうようなメモ書きが残されている。

 僕が、朝ご飯を作ってあげれないほど深い眠りについていた時や、お互いの都合で挨拶もできないまま家を出て数日会えない時。そんな時は決まって、必ずと言っていいほど、メッセージに可愛いイラストを添えて書き残す。

 大丈夫。大丈夫。あなたはきっと大丈夫。

 そう書かれた子猫の寝顔が愛らしいポストカード。

『年明けから少し元気なさそうに感じたので、つい書いてみました』

 そう見出しがある裏面には、小さな細かい文字が隅から隅までビッシリと敷き詰められて

『頭を空っぽにして、甘いものでも食べに行きましょう』

 と、くくられている。

『お菓子作りは全くしないので味に自信はありませんが・・・』

 バレンタインのチョコに添えられた手紙。

『喉が早く治るといいなと思い、ちょっとしたものを贈ります。苦手な味じゃなかったらよいのですが・・・』

 仕事で喉を痛めた時の手紙。

『どうですか小さいスプーンです。プリンとかアイスとか、小さいスプーンで食べたほうが幸福感が倍増する気がするんです。だからこれで、これからも美味しい甘いものを食べましょう!』

 なんか、どれもこれも食べることばっかり書いてある気がする。奏らしいと言えば奏らしい。

 こんな手紙やメッセージカードをいくつ受け取っただろうか。

 偶然、この手紙・・・

 読み上げることに反応するのならと、1つ残らず試してみたが、奏が反応を見せるのは、ただ1つだけだった。

 この最後の手紙を読み上げた時にだけ、左手で折り戸を叩く・・・

 何かのメッセージかもしれない。元の姿に戻せるかもしれない。また笑った姿を見れるかもしれない。そう考えるだけで自然と身体が高揚した。

 もちろん、いつか観た映画のハッピーエンドみたいなこと、あるはずがないとは理解している。

 それでも僕は、毎日この手紙を読み上げ続けることにした・・・

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