奏と田中と その4
「串カツゥ追加しよー」
「李ぃ、二度付けしたら久保っちに怒られるからな」
そう言いながら二度付けを敢行する宮田さん。おそらくこのあと、久保さんの雷が落ちるはずだ。
「大月さん、串カツ食べた?」
『はい。しっかり頂いてます。あ、このうずら美味しかったですよ、松岡さん食べますか?』
「いただきィ!」
『あっ!』
李っちゃん!
時間を止めるなら今かもしれない。右隣からスッと伸びてきたお箸の先に、激辛唐辛子を挟んでやりたい気分だった。
ただ、彼女のなんでも許せてしまう可愛さは無敵だ。
飲み会の時は、必ずと言っていいほど食い専門に回るミニオンズ1号。この小さな体のどこにそんなに入るんだろうか?
膨らんだほっぺが可愛すぎる。フードファイターを連想させる食べっぷりは、いつ見ても見事だ。
『松岡さん、ビールどうですか』
「今日は烏龍茶でいいんだ」
松岡さんが私の隣にいるなんて、くーーー!
はぁ、楽しいなぁ。やっぱり女子会はこうでなくっちゃ。松岡さんの登場で、仕事の話が
一方で久保さんは、向かいの奥に陣取ってしまったことも災いしてるのだろうか。ベテラン二人のペースに、完全に巻き込まれてしまっているようで、変わらず仕事の話を続行中だった。
「上の人は、うちは他の現場より給料が良いって言ってましたけど」
「パートのヘルパーはね。問題は社員なんだよ」
「宮田さん、それ三度付け!」
二度目は目を瞑ったのか。笑。
拠点とするメイン事務所を中心に、区内四方八方へ事業を展開するうちの会社は、高給取りになる社員を削減して、現場をなるべくパートのヘルパーで回せたらと考えているそうだ。
そのため、各部所に配属される社員は極小でしかなく、その分負担が半端ないといった負の連鎖に、私たちは巻き込まれていた。
「うちの会社、財源はあるわけですよね?」
「まぁ、らしいとしか言えないけど」
「俺、もう少し出してくれって談判したのに無視され続けたんすよ。ようこの半年もったと思ってます」
「うん、確かにね。で、田中はどれくらい欲しいの?」
「10万くらい上乗せしてくれな割に合わないし、そしたらもう半年くらいは頑張れるかな」
「10万?」「半年ィ?」
ミニオンズの呼吸はピッタリだった。
「それ以上は無理。新入社員が入ってこないうちは、人員削減のままやて言われたしな」
「入ってきたって、現実と向き合ったら辞めてくのにねぇ」
「だからこそ、ヘルパーの時給は上げてるんでしょうねぇ」
おーい、どこ見てるんですかー!と手を振りたくなるくらいに、宮田さんと久保さんが、ななめ45度を見上げながら、溜め息混じりに言葉を吐き捨てている。
口に目一杯の料理を頬張り、いつ「お前らチップとデールかっ!」と、ツッコまれてもおかしくない私と李っちゃんは、そんなお箸が進んでいない二人に、唐揚げと手羽先と焼き鳥を取り分けたお皿を差し出した。
「鶏ばっかやん」
田中。お前の分はない。
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