奏と笑顔と太陽と その4
各馬、外回り第3コーナーから第4コーナーのカーブへ向かいます!
先頭はサイレンスブライアン!
サイレンスブライアン、依然として5馬身のリード!
最内を突いてロゼッタストーン!
外からシシーリア!
間を割ってミヤノカリオストロ!
直後にオイチョットマテが
オクターヴはまだ後ろ!
この手応えはどうなんだ!?
さぁ、ここから直線コース!
サイレンスブライアン、これはセーフティーリードか!
サイレンスブライアン!
サイレンスブライアンが先頭!
二番手は混線!
外に出してオイチョットマテ!
ラチ沿いをロゼッタストーン!
そして来た来たーーーーー!
大外を飛んでくるオクターヴ!
オクターヴ凄い脚!!!
やはり最後はこの2頭!
残り200!
石田の鞭が入る!
届くのか!? 届くのか!?
オクターヴだ、オクターヴがかわす!
内からサイレンス! 内からサイレンス!
オクターヴ並ぶ! サイレンス粘る!
サイレンスか!
オクターヴか!
サイレンスか!
オクターヴか!
オクターーヴーーーーーー!!!
オクターヴです!
恐ろしすぎる末脚ぃぃぃ!!!
西日に照らされた緑色に輝くターフ。
激闘を終えたばかりのサラブレッドたち。
荒ぶる鼻息を鳴らし、躍動感溢れる地響きを鳴り響かせながら、1コーナーから2コーナーへと芝を蹴り上げ、走り抜けて行く。
数十メートル数百メートル先で繰り広げられた、ラスト30秒ほどの熱い闘い。
それらを目の当たりにした競馬ファンたちが、超満員のスタンドから、驚きと感動の二重奏を奏でていた。
アドレナリンを抑え切れず歓喜に溢れ、馬上で雄叫びを上げている騎手。
毎朝の調教はもちろんのこと、デビュー戦から今日に至るまで、一度たりとも背中を譲らず、
横からスーッと並ぶように馬体を寄せて来た、サイレンスブライアン騎乗の神谷夕貴。彼に右手を伸ばされ、左手で応える。
硬い表情ながらも、その伸ばされた右手には、祝福の二文字が籠められていた。
頭の上げ下げ、いや、最後は半馬身近く差をつけられ敗北した。悔しいが完敗。完璧なレース運びだった。
全てを出し切ってくれた黄金色に輝く愛馬に、優しく
『ひとさん・・・』
「ん?」
『凄いね。人も凄いけど』
「ッハハ、どうだった?」
『オイチョットマテ、何位?』
「そこな。ッハハハ」
奏は、右手で僕のアウターの裾をギュッと握ったまま、興奮冷めやらぬといった雰囲気。頬が少し高揚している。
『どっちが勝ったの?』
「たぶん外」
『ちょっと、言葉になりません』
「うん、今日は当たり。奏が行こって誘ってくれなかったら、こんな体験できなかった」
『そうでしょ』
「これ、帰れるかな・・・」
眼下に広がる群衆はもちろん、右へ視線を送れば、お弁当を食べた広場のほうまで。振り向けば後ろも人、人、人。
イ・シ・ダ!
イ・シ・ダ!
イ・シ・ダ!
オクターヴが1コーナーまで戻ってきて、正面スタンド前に差し掛かる頃には、スタンドからの二重奏は、勝利を称える合唱へと変わっていた。
奏も合唱に合わせて、目の前の手すりでリズムをとっている。
左腕を大きく力強く掲げ大歓声に応える一方で、ハミをしっかりと噛み直し、ツル
一歩一歩力強く踏み込みながら「俺の名前も呼べよ」とばかりに悠然と歩く。
とんでもない群衆で埋め尽くされている正面スタンド。端から端までこの視界に入る人たちが皆、彼とオクターヴに注目している。
「んん、今のうちに電車に乗ったほうがいいんだけど、どうする?」
『乗ります!』
「これ多分、10分帰るの遅らせるだけで、駅で待ちぼうけだと思うな」
『帰ります!』
僕たちは、お互いにしっかりと手を握り、まだまだ勝者たちから視線を外さない人混みを掻き分け、帰路へと向かう。
『録画してきた?』
「うん」
『帰ったら続き見せて』
「僕たち映ってるかもよ」
『まじかっ!』
「米粒やけどね」
『あ、マスコットいるよ!』
お昼を過ぎてからは、ずっと立たせたままだった。疲れさせたかな・・・
「大丈夫?」
『うむ。甘いもの食べたい』
「なんか食べて帰る?」
『ううん、買って帰って家でゆっくりする』
「んじゃ、ケーキ屋さん行こっか」
『いいですな』
「どこにしよっかぁ、帰る途中に行ったことないケーキ屋さんあったりするのかな・・・」
『駅まで競争!』
「え? 何でよ?」
『よーい』
「やめときなって」
『ドンッ!』
わくわくしている時の奏の瞳。口角が上がりきったその表情。前後や左右に小さく揺れる体の揺れ。同じ空間にいるだけで、そんな奏を見ているだけで幸せに包まれてしまう。
珍しく感化されてる。
またマンボウになるぞ、おい・・・
『ひとさん、早くーーー!』
「おい、ちょっと待て!」
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