奏と田中と
朝の通勤路。
乗用車一台が通れるくらいの、河川敷へと続く少し細い路地。
お母さんに連れられて、幼稚園へ送迎される園児たちや、あの青信号で十字路を渡ってしまいたいと、必死な形相で走ってくる学生さん。黒髪が綺麗に整えられ、携帯に集中しながら歩いている20代後半くらいのイケメンお坊さん・・・
ん?
なんだあのイケメン?
思わず二度見。
お袈裟、着てたよね?
最近の坊主は坊主じゃないのか・・・
と、それなりに賑やかで楽しい面々が顔を揃える。だが、今朝はそうでもない。
小さな左カーブに差し掛かった辺りで、鮮明なオレンジ色の絨毯が、路地の右端を明るく彩ってくれていた。
昨夜から降り続いている雨に打たれて、落ちた金木犀の花びらたちだ。
満開に咲き誇る芝桜のようで癒されはしたが、毎日通り過ぎる度に胸一杯に吸っていた大好きな香りも、冷たく感じるようになった雨粒と一緒に、流れ落ちてしまっていた。
職場がある地域は、いつも雨脚が強い。
河川敷に出て、職場の方角に目を向けると、明らかに向こうは土砂降りだなってくらい、真っ白で建物が見えなくなっている。
きっと大魔王の根城があるに違いない!
駅を出た頃は降ってなかったのに、このまま降らないでくれぇ! と鉛色の空に願ったところで、濡れなかったことは一度だってなかった。
ただ、今朝の私は珍しく合羽を着ている。
常備しているのに、リュックの底から取り出すのが面倒だ。雨に濡れるのは酷じゃないし、なんなら濡れたほうが気持ちいい!
そんな理由で、いつも怒られてばかりいる私がだ。帰ったら、ひとさんに褒めてもらおう。
今朝の天気予報も、お昼頃には上がると言っていた。今日は、夕方から楽しみな女子会が控えている。それなら濡れずに済まそうじゃないか。
「この時季、濡れたまんまだとさすがに寒くなって風邪ひくぞ」
『ひかないもん』
昨夜はまた、こんな小競り合いをしてたけどね。
私、最近は雨女じゃなくなってきたのですよ。
数日前からずっと楽しみにしていたり、当日、楽しんじゃうメーターが最高潮に達すると雨が降り出すなんてジンクスは、もう私には存在しないのだ。
よっ! 晴れ女!
ふふん!
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