奏と笑顔と太陽と その3
4コーナー側。競馬場の端にある大きな広場。お弁当は、ここで食べることにした。
『さっきのレース面白かったぁ』
「バルスいたね」
『ヨツバノトウチャンいたよーーー』
「馬券、本当に買わなくていいの?」
『うん、名前見てるだけで楽しい』
レジャーシートを広げてランチタイム。
今朝は僕より早く起きて、鼻歌を歌いながら作ってくれたお弁当。
最近は、出先で美味しいものを食べに行くって考えばかりが先行してて、この感覚を忘れていたから凄く幸せ。
『ひとさん、インストラクターしてた時って、どんなだったの?』
「いや、どんな・・・どんな・・・うん・・・普通?」
『ひとさんは、絶対そういうの向いてると思います』
「そうかな・・・」
『教えるの上手だもん』
「いやいやぁ、大月座長には敵いませんよ」
『あ、それ当たりだよ』
そう言われて口にしたおにぎりには、僕の大好きなハチミツ南高梅干が、たっぷり入っていた。
「大当たりです」
奏の満面の笑みが、快晴になった青空の下でキラキラと輝く。
『この後、どうすんの?』
「食べ終わったらぁ、場所取りするから、あんまりうろちょろ出来ないかな」
『場所取り?』
「うん、さっきのメインスタンドんとこ。ゴール板辺りんとこね陣取りたいから」
『あそこだけ。あのイベントしてるっぽいとこだけ行きたい』
「なんか賑やかだしね、食べたら行くべ」
『うむ』
「今日は朝から場所取りしてる人で一杯だろうし、せっかくいいとこ見つけても、動いたらすぐ取られちゃうと思うんだよね。せっかく来たし、いいとこで大きなレース見せてあげたい。立ちっぱなしだろうけど」
『いいよ。乗るのは怖いけど、あそこの可愛い馬にも触れたし、天気も良いし満足です。そしてビニールシート持ってきたひとさん、誉めてつかわす!』
「崇め奉って下さい」
奏特製お弁当は、いつも仕事のお昼用にと握ってくれるおにぎりよりも美味しかった。ミートボールとウィンナーと玉子焼き。それに、頬にケチャップをつけてる奏の顔。
なんでだろうな。外出先でご飯を食べてる時の奏の表情は、いつも面白い。
アルバムに、必ず食べてる時の写真をピックアップするけど、もちろんこのレンズの先にいるモデルさんには、不評である。
視線を周りに向けると、本当に沢山の親子連れが目に入る。数メートル先には、競馬場のマスコットが横切っていた。
頑張り続けているマスコット。笑われながら叩かれ殴られ「あ、首が見える!」と言ってはいけないことを口にする無邪気な子供たち。
「少し見ててもらえます?」
と子供を預けられ、何故か子守をするはめになったマスコット。付き添いのお姉さんも困った顔で苦笑いしている。
『あんなことあるの?』
「あるある。僕もされたことあるよ」
託児所代わりに使われて、馬券を買いに走るだなんて何事だと、憤慨してるであろう競馬場の人気者。マスコットも大変だ。いつもお疲れ様です。
お腹が満たされた僕たちは、奏の希望通りイベント会場へと足を運んだ。
『ひとさん舞台やってるよ』
「あれ奏が好きなやつじゃない?」
『おぉ、マジか!』
「ほら」
『オジンジャーズ!』
奏のテンションが一気に上がる。
「なんで、あれ人気なの?」
オジンジャーズ。
中高年のおじちゃんたちが、ひょんなことから街の平和を護ることになる、異色の戦隊ヒーロー作品。
仮面ライダー響は、中年の星だった。本当に格好いい。でもこれは、完全にビールっ腹のおじちゃんたちが、ヒーローである異色中の異色。
警備員のおじちゃんだとか、駅の改札にいる駅員さんだとか、マンションの管理人さんだとか。考えた作者さん凄いと思うわ・・・
「なんでこんなとこでショーしてんの?」
『そりゃ人気があるからだよ』
満足気な奏。
『配役が絶妙で最高だよね』
「でも今日は変身解かないでしょ?」
『アッハハ、解いたら本当におじちゃんだったりするね』
「いや、イケメンの可能性あり」
『それは断固抗議します!』
「ほんとイケメン嫌いな」
『こーゆうイベントでも、おじさんを使ってもらわないと。ほらあんな機敏に動いちゃダメ!』
「ッハハ確かに」
『でしょ!』
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