奏とカメラ小僧と その2

 本日は快晴なり。

 奏が、晴れ女っぷりを見事に発揮した二泊三日の旅行初日。

 フッ、完全に油断した寝顔をしてやがる。

 口は半開き。僕から奪った掛布団をお腹にだけ乗せて、下半身はまさに飼い慣らされ過ぎた猫状態。股をおっぴろげて、今朝もベッドの4分の3を支配している。

 僕が起き上がった時のベッドの揺れで「これから何をするのか」うっすらと目を開けて気付いてるはずなのに、起きようとは絶対にしない。

 トイレに立ったとしても、戻ってきたらベッドにそのまま即二度寝式ブレーンバスターが綺麗に決まる。獣神サンダーライガーも褒めてくれるレベルだ。

 付き合い始めた頃は、朝ご飯のために早起きしてくれたし、お弁当まで作ってくれていた。それがこの有様。

 私の朝ご飯は、放任して寝ていてくれて大丈夫です。ひとさんも寝て下さい。と最近は言うくらいだから、もうすっかり自分が起きる気もなければ、作る気もないんだろうな。

 本っ当この股下からのアングルで写真を撮ってやろうか。でも、この幸せそうな安心しきった寝顔と寝相が、寝返りをうった僕の視界に、いつもいてくれるから心から安心する。



 8時40分。

 朝はしっかり食べるんです。いつもそう言って6枚切りの食パンを二枚ペロリと完食する奏。

 今朝はスクランブルエッグを乗せたトースト一枚と、甘めのホットコーヒーを、せっせと消毒してくれているテーブルの上へ運んでいく。

 ん? 少なくない?

 と不思議そうな顔をするも

 あ、そうか!

 と、このあと出掛ける先で楽しみが待っていることを、思い出す。

 奏の主婦と僕の主夫。比較するまでもなく後者の割合が断然高く、奏も確信犯で甘えている。こう言うと、私が何もしない女みたいじゃないか!と怒られてしまいそうなので、今更ながらにフォローもしておく。

 そもそも「いいよ、やってあげるよ」と優しい言葉を掛けて先に動いてしまうから、こんなバランスになっている。

『そうだ、そうだ』

 ただし、これで天秤がどちらかに傾くことはなく、水平を保っているのだから問題は一切ない。

無問題モウマンタイだね』

「・・・」

 僕が留守の間に、台所の拭き上げや、フローリングの掃除機。ゴミ出しなど家事をしてくれているし、休日に夕飯を作って待ってくれているのも、楽しみで仕方ない。

『そうでしょ』

 ・・・

「さっきからうるせぇな! 回想に入ってくんな!」

『アハハハ』

「えっと、どこまで話したっけ・・・」

『私のご飯が楽しみだってとこまで』

「あぁ・・・」

 えぇぇ、たとえ料理のレパートリーが5種類くらいだったり、私が料理してあげるよって言う度にカレーだったとしても、家路を急ぐ自転車は、向かい風にも負けず、どんどん加速していく。幸せなり、奏と過ごす二人の時間。

「あれ? 親指の爪、まだ内出血してる?」

 数日前から、職場で怪我をしたと言って絆創膏を貼っていた、右足親指の爪。

 トーストをかじり、落ちたパンの欠片を掃おうと視線を落とした先で、真っ黒に変色しているのが見えた。

『あぁこれ? バンドエイド』

「ん?」

『剥がしたんだけど取れなくて』

 剥がしたは剥がしたんだろうけど、絆創膏を剥がした時に、くっついてる粘着質を剥がす努力をしていない事実。

 靴下を履くんだからいいじゃんと言う26歳女子。わんぱく盛りの小学生かお前は・・・

 そんな本日の奏さんだが、左手薬指には、指輪が輝いていた。

 奏も僕も、普段から装飾品を身に付けることを嫌う。身に付けても伊達眼鏡やサングラスくらいかな。

 イヤリングやピアス、ネックレス、指輪?

 時折、笑っちゃうくらいピッタリなユニゾンを見せる僕たちは、

『いらない』「いらない」

 第七使徒イスラフェルも真っ青のシンクロ率100%でそう答える。

 だが、一緒に旅行など遠出する時。そんな時だけは、お互いに贈りあった指輪を、薬指に身に付けている。

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