奏とカメラ小僧と
『しーんぱーいないからねー。きーみーの、ふんふんふふふん~』
「ご機嫌ですな。相変わらず歌い出してすぐに、歌詞が分からなくなるけど」
『いいの! 邪魔をするでない!』
明日から、二泊三日の旅行を迎える。
鞄に必要な荷物を詰め、二日目以降に着る洋服を、何にしようか悩んでいる奏。
着替えては鏡の前に立ち、首を傾げては着替えをしてを繰り返す。
僕はすでに全ての準備を終え、ベッドの上でうつ伏せになり、そんな奏の観察をしていた。
『秋ですよ、ひとさん。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋・・・』
「最後のは君に関係ないけどね」
『やっと夏が終わったんだよ、私は幸せだよ』
「溶ける心配なくなったもんね」
『本当だよぉ、今年も暑すぎて困りました・・・困ります。困りマス。困りマスオ!』
「思い出したように言うなよぉ」
『いいからやって!』
「カツオ君っ!」
嬉そうに笑い出す奏。
何がそんなに面白くて楽しいのか分からない。けれど、マスオさんの真似をして、カツオの名前を驚いたように叫ぶこの僕を、なぜかずっと気に入っている。
『もっ回やって! もっ回!』
「・・・」
『困りマスオ!』
「カツオ君っ!」
『アハハハハハ』
なんだこの二人は・・・
まぁ、奏の機嫌が良いなら、僕はそれで問題ないんだけどね。
それはそうと、明日の天気が気になる。携帯で早速確認してみたところ、結果はため息ものだった。
「明日、雨ってなってるぞ」
『まじかっ!』
「明日はねぇ遠足なんだ。明日はねぇバーベキューなんだ。明日はねぇユニバに行くんだ。明日はねぇ、明日はねぇ、明日はねぇ。出かける度に雨、雨、雨」
『むぅ・・・』
「明日は、太平洋側から非常に発達した大月奏前線が北上してくる影響により、西日本から東北にかけて広い範囲で雨の一日となる見込みです。また、雨や風が瞬間的に強くなる可能性もありますので、十分な注意が必要です。お出掛けの際はお気をつけ下さい」
『んにゃ!』
「怒ってる?」
『怒ってる! 私、最近晴れ女だもん!』
「んん、まぁ確かに」
『それに、ひとさんが一緒だと、いつも晴れにしてくれるでしょ』
「まぁね」
『この服、どうですか?』
可愛いなぁ・・・
やっぱり僕は、何気ない奏の笑顔や仕草に見惚れてしまう。幸せだわ。
「うん、それに一枚、何か羽織っていけば?」
『なるほど! あっ! 明日は何時起きですか?』
「明日は9時半に出ます」
『・・・』
「不満ですって顔に書いてありますけど?」
『・・・・・・』
返事がない。ただの屍のようだ。
「じゃ、30分遅らせます」
『・・・』
「まだ不満ですか?」
『大丈夫です。駄目そうなら10時半に出発します』
「寝坊する気、満々じゃねぇかっ!」
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