奏と進撃の責任感と その2

 購入した千円の腕時計が、12時過ぎを指していた。

 今日は、13時からの会議に間に合えば大丈夫。

 朝の二度寝を堪能して、朝食もゆったりと時間を取り、家を出てきた。

 奏は、電車での移動時間が好きだ。

 車内で、ゆっくりと経過していく時間。のんびりと過ごせる時間に、癒しや閃き、思わぬ出会いや体験があると大切にしている。

 通勤時も、なるべく各駅停車を選ぶ。実家へ帰省するような長旅でさえも、最短2時間位で着けるのに、わざわざローカル線を乗り継いで、3時間掛けて目的地へと向かう。

 ひとつ電車を乗り換え、空いている座席に座り、外を眺める。

 そのまま目線を足元に落とし

『この中敷きは本当に良いや』

 ポツリと独り言。

「これ良いよ、ダイソーの珪藻土のやつ」

 と、買っておいてくれた仕事用シューズの中敷き。


 長時間履いていても臭いが気にならないし、ほどよくクッションが効いていて、疲れない気がする。

 いつも何気ないところまで細かく気に掛けてくれて、気を配ってくれる。

 夏場、帰宅して玄関に放ったらかしの靴を、何も言わずベランダへ干しに運んでくれるなんて、きっとこんなことしてくれる男性はこの世には存在しない。

 気を遣われると疲れるけど、配ってくれる優しさ。さすがは舞台スタッフとして絞られてるだけのことはあるな。ふふん。

 中敷きまでチェックされてるのは恥ずかしいけれど、素直に嬉しい。あの人は家政夫さんに向いてるよ。


 目線を上げて、窓の外に広がる景色を眺めると、視線の上部に入り込んでくる黒い影。

 トレッキングハットを卒業して、とうとう買ってしまった通勤用のキャップにも、かなり慣れた。


 最近、一緒に買い物に行くと、気を許してしまう自分がいる。普段なら見繕ってくれたとしても買わないんだけど。

「これどぉ? あれは? ほら似合うよ!」

 っていつも凄く楽しそうにショッピングしてくれてたな。無下に『いらない』って態度ばかりだった私。なんてやつだ・・・

 んん。私も何か買ってあげたいなぁ。

「何も思いつかないや、大丈夫だよ」

 て、いつも逃げられるんだよなぁ。買ってあげたい症候群だぞ珍しいんだぞって時に限って、あっさりしてて気がないんだもん・・・


 と思いふけりながら、ふと仕事用の手帳を手に取り開いた奏。

 次の瞬間。

 ぎょっ! と目を見開いて『えっ?』と腕時計を確認する。

 そこには曜日や日にちを確認出来る便利な機能はなかったが、一瞬にしてパニックに陥った。

『ん!? 今日、何日だ??』

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