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 物珍しいような素振りを見せる私に、関崎は文句一つ漏らすことなく私の傍らに寄り添っていた。

 覚束ない足取りで階段を降りると、階下には広いリビングがあった。

 そこにぽつんと置かれていたグランドピアノ。赤い布がかけられていても、私にはその向こう側を見通しているが如く、はっきりとした存在を感じられていたのだった。

 かつてはこの場所で、父が作曲した曲を私がピアノで弾き、兄がバイオリンで合わせ、母が歌っていたはずだ。

 関崎が私の名を呼ぶ。それからハンカチで私の目元を拭った。私は泣いていたのだと、彼の行動で知った。

「……弾いてくれないか」

 私は言った。均等感覚を失った床が、私の視界に広がる。

 彼が何かを言った。私は再び「私の代わりに、弾いてくれないか」と口にした。

 傍らにあった人の気配が消え、滞った空気が私の横側を過ぎさる。

 しゅるっという音が聞こえ、布が外されたと分かる。

 私は一拍おいた後、やっとのことで顔を上げた。

 大窓から差し込んだ日射しを浴びた、艶やかな漆黒の胴体。光沢を帯びたそれは、触れることの叶わない神聖なる楽器だった。

「きちんと管理されているようですね」

 関崎が蓋を開き、一通りチェックしてから言った。

 それから手を乗せて、ドから順番に確かめるように指を動かす。

 三年ぶりに聞いたピアノの音色に、私は全身を痙攣させた。震える肩を抱きながら、私は発せられた音を受け入れようと悶えた。

「やっぱりやめましょうか」

 音が止み、関崎の声で私は我に返った。

「いや……弾いてくれ」

「何を弾きましょうか」

「君が弾けるものでいい」

 私はそう言ってから額の汗を拭い、ダイニングの椅子に腰掛けた。

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