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 当の本人である関崎はもっと驚き、恐縮していた。

 だが、それも数日の間だけであって、それからは当たり前のようにテーブルのセッティングを終えると、私の前に腰を据えるようになった。

「君は……どうして、ここに来たんだ」

 しばらくして、私は最初の時の無愛想が嘘のように、思わず聞いてしまっていた。しまったと思ったが、口に出したものを今更引っ込めるわけにもいかない。

 仕方なく向かいに座る彼の目を見た。彼は少しだけ逡巡した後、フォークを皿に置いた。

「実は私はピアニストを目指していました」

 彼の口から出た突飛な言葉に、私は危うくフォークを落としかけていた。かちりと皿に落下しただけで済んだが、鼓動は嫌な音を立てていた。

「……目指していたとは」

 彼は手を膝に置いたまま、視線はテーブルの上に落としていた。その物憂げな表情は、諦念が滲んでいた。

「父が会社を経営していたのですが、私が高校に上がる前に他界してしまいまして……嘆いた母は自殺し、私は親戚に引き取られたんです」

 突如始まった生い立ち話に、私は複雑な想いもしたが、黙って傾聴した。

「何不自由なく暮らしていた生活を失い、私は親戚の家で肩身の狭い暮らしをしていました。高校は出させて貰いましたが、さすがに音楽大学に行きたいなど口にするのは憚れました。ましてや留学だなんて……夢の又夢でしょう」

 彼は小さく息を吐いた。

「なので私は、高校卒業と同時に印刷工場で働き始めました。そこで新聞に奇病の流行が取りだたされているのを目にし、私はいてもたってもいられなくなったのです。それから私は苦心の末に、ここに辿り着いた次第です」

 彼はそこで言葉を切った。私の顔色を窺うような視線には、不安が混じっているように見えた。

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