第68話、戦場確認(過去の業績)
賢者達のせいで若干空気が微妙になった軍議は、一応問題なく終わった。
実力をブライズが認めていると、会議の場で発言をした事が大きかっただろう。
まるで話を聞いていなかった様に見えて、きっちりと話は聞いていたらしい。
「筆頭殿の実力は本物だ。私など足元にも及ばん。筆頭殿が居なければ今回の策は成立せんだろうが、筆頭殿が居る以上は何も問題無い。あるとすれば、我々が足手纏いという事だろう」
この発言が無ければ本当に大丈夫なのかと、声に出して問う者が居たに違いない。
実績がある者の言葉というだけでなく、老人の性格を皆が良く知るからこその説得力。
その後ある程度作戦を詰めた後、賢者と青年は陣の最前線に立っていた。
「ふむ、あちらはもう殆ど準備万端、という所かの? ローラルよ」
遥か彼方、人が豆粒ほどの大きさに見える距離に、魔法国家の陣がある。
賢者が軍議中に聞いた話では、こちらの先行した者達よりも早くに陣を敷いていた。
となればもう既に準備は終わっているのだろうなと、賢者は遠眼鏡を覗きながら呟く。
「そうだね。武装の準備なんてほぼ無いっていうのが大きいんだろうけど」
「魔法使いだけじゃからなぁ」
魔法国家の兵士は全てが魔法使いだ。武装の類は殆ど運んでいない。
魔法使い至上主義の国で、魔法以外に頼る事は恥に近い。
そんな中で剣や槍を持つ者は、自ら落ちこぼれと言っているようなものだ。
防具に関しても同じ事であり、重武装な人間はほぼ存在しない。
重い物がなければ移動速度は当然上がり、戦場への到着はかなり早かった。
勿論個人的に武装の類をしている者も居るが、それは一部に限られる。
魔法の発動に剣が要る、鎧が要る、という人間が少数ながら居る様だ。
対して賢者達はと言えば、全員がきっちりと弓を装備している。
勿論接近した時の為の武器も用意しており、剣や槍、盾に軽鎧の類もある。
盾では魔法を防げない事が多いが、全く防げない訳ではない。
込められた魔力が小さい、当てた後の操作が下手、そんな魔法ならば弾けば防げる。
それは鎧も同じ事で、相手が魔法使いだからと武装をしない方向には出来ない。
「本来なら兵站の事も考える必要があるんだけど・・・今回は考えてないみたいだしね」
「長期戦をする気が無いらしいからのう」
武装が無いとはいえ、人間である以上食料は必要になる。
特に長期戦、消耗戦になれば尚の事だ。兵站を甘く見ると軍隊は瓦解する。
けれど短期決戦で叩き潰す気である以上、戦場の準備は驚く程に早かった。
「しかしこの距離で始めるとなると、こちらに不利ではないかの。弓が届く距離じゃなかろう。いや、中には届かせられる者も居るのかもしれんが、そんな者は一部じゃろう?」
見えない距離を詰める訳でも、見通しの悪い場所を進む訳でもない。
どちらも進軍のしやすい平原での戦いは、どう考えても距離を取った魔法使いの方が有利だ。
そう思い賢者は疑問を口にすると、青年はふっと笑顔を見せる。
「君ならこの距離が届く、という認識で良いのかな?」
「え、いや、届くじゃろ普通。肉眼で見える距離なんじゃし」
「やっぱり君は格が違うね」
「・・・どういう事じゃ?」
青年の言葉の意味が解らず首を傾げた所で、後ろから誰かが近づく足音が耳に入る。
二人がその足音に振り向くと、そこに居たのはブライズだった。
「弓が届く距離まで詰めなければ大半の者は魔法を届かせられない、という事ですよ、筆頭殿」
「ブライズ、それはまことか?」
「ええ、今回はどうか解りませんが、普段は届きませんな。弓が届く距離とほぼ同じ距離に入って初めて魔法も届きます。まあ、私には関係の無い事ですがね」
「それは・・・お主は届かせられる、という事で良いのか?」
「ええ。肉眼で確認できる距離ならば」
「むしろ儂は、それが出来ん方が驚きじゃったがな・・・」
賢者としては、この距離で魔法を当てられない魔法使い、という時点で理解不能だった。
勿論未熟な魔法使いが届かせられないのは解る。距離で術式の維持が出来なくなるのだろう。
自らの手を離れた魔力と術式の維持には、それなりの鍛錬が必要になる。
だが相手は『魔法国家』だ。何よりも『魔法使い至上主義』だと聞いていた。
「その程度の事も出来ん連中が魔法使い至上主義じゃとか言っとるの?」
「はっはっは! まさしくその通りですな筆頭殿! その言葉を奴らに聞かせてやりたい!」
「ぷっ、くくっ、聞いていたら頭の血管切れそうだよね、彼らは。あははっ」
賢者に煽る感情は一切なかったが、相手が聞いていたら完全な煽りになっていただろう。
しかも幼女に言われたとなれば、彼らのプライドは酷く傷ついたに違いない。
もし目の前に居ればと思うと、老人と青年は面白くて大笑いをしてしまった。
「まあでも、全員が全員届かない訳じゃない。弓の射程より広い距離で打てる魔法使いも居る」
「あ、流石におるのか」
「うん。だから以前は少しずつ下がりながら魔法を放たれるから、私たちは頑張って距離を詰めるしかない・・・っていう形が多かったらしいね」
「らしい?」
「さっきヒューコン卿が言っただろう? 彼にはこの程度の距離は関係ないって」
弓の射程範囲外からチマチマ攻撃し、接近されたら総攻撃という形で被害を抑えていた。
けれどある日、戦闘開始と同時に雷の魔法が自陣を蹂躙し、距離をとれなくなってしまう。
勿論あちらは魔法使いである以上、下っ端たちも魔法で防御する事は出来るだろう。
そこで老人の攻撃に威力が無ければ、戦法は変わらないままだったかもしれない。
けれど彼の魔法は防御を貫き、ともすれば遠距離攻撃が可能な魔法使いを狙い撃ちした。
結果として「ブライズ・ポルル・ヒューコン」という存在が、今の戦場を作ったと言える。
という事を青年が説明し、ただ老人は少々恥ずかしそうな表情だ。
「おおー、今までこの国が比較的被害を抑えられているのは、ブライズのおかげという事か」
「そうだね。彼の功績は大きいと思うよ」
賢者は素直に老人の成果を誉め、青年も頷きながら褒め称える。
だが老人は更に気まずそうな顔になり、青年の方に手をのせた。
「殿下、その辺りでお願いしたいのですが。流石に筆頭殿の前では、その」
「なぜだい? 確かに君が打ち立てた成果じゃないか」
「確かに以前までならば胸を張れましたが、筆頭殿に比べれば微々たる力でしょう。今回の戦争で確実にそれが証明される以上、私程度の成果では少々恥ずかしいかと」
「そうかな?」
青年はチラッと賢者に目を向ける。彼の言う通りだと思う? という様に。
「そんな事は無いぞブライズ。その時儂は居らんかったんじゃ。居らぬ者と比べるのは間違っておろう。そしてお主の力があったからこそ生き延びる事が出来た民も多く居たはずじゃ。お主は誇っていい。胸を張って良い。お主が居たから今がある。儂はそう思うぞ」
「筆頭殿・・・有りがたきお言葉です」
老人は賢者の言葉に息を呑み、そして膝を突いて頭を垂れた。
王族からの言葉よりうれしそうなのは、力を認めた相手からの賞賛だからか。
青年はそんな風に思いながら二人を見つめ、ふと戦場になる場所へ視線を戻ず。
「・・・そろそろ開戦、かな」
騎兵が数人こちらに向かっているのを見て、青年はぽそりと呟いた。
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