あなたのいない街
雛瀬麻弥
第1話
大切に綴った想いを彼はどう思っただろう。
未だに、少し考えたりする。
ずっと年上で、大人だったあの人は、よく言えば妹扱いで私を大事にしてくれた。 身勝手に想い続けた幼い片思いが、砕け散るとは、思いもよらず伝えて世界最大の恥をかいた。
彼は困ったように目線を下げて「またね」と笑ってあしらったんだ。
ちゃんと答えられないのも当たり前で、彼は大切な人が隣にいた。そのこともあと になって知ったのだけれど。
叶うわけもないのに夢を見て、うぬぼれて振り向いてくれなかった人をひどく恨んだ。
しばらくしてから、振り返ると自分の馬鹿さ加減に笑えてきた。涙もでなかった。あの人とこうなりたいとか、脳内で想像することも
できなかったのに恋とかよくいうわ。
漠然と手を繋いで歩けたらいいな。
微笑みあえたらだなんて愚かに思ったりしたことは、
あったけれど、それだけだ。
あんな圧倒的に素敵な人のそばに誰もいないはずもなかったのに。
黙っておけば、誰も知らず恥ずかしい想いもしなかっただろう。
それでも、あの時の想いは本物だった。
目が合うだけでドキドキして胸が、きゅんと痛くなるなんて
恋以外の何物でもないはず。
『大好きです。もしあなたも同じ気持ちなら連絡ください。
そうじゃないなら破って捨ててください』
何枚も書き直して書いた手紙がそんな内容。
手紙を渡した後、会った時の気まずさは半端なかった。
破って捨ててくれたんだろうと信じたい。
彼が、新しい街に旅立ったのはそれから、一年後のこと。
知らない間に、私の街からいなくなっていた。
私が迷惑かけたせい?とか思うのはうぬぼれだった。
仕事の都合で引っ越していっただけだったのだから。
誰よりも大好きだった彼は、自分も重いものを背負っているのに
相手ばかり気遣うような人で、知る人みんなから慕われていた。
瞳の奥にある影を察することもなく、自分の気持ちだけを相手にぶつけて、
答えを求めるなんて勝手だった。気づけるくらいには、大人になったよ。
今、あなたは少しでも苦しみが少なく優しい人生を送れていますか?
あなたのいない街 雛瀬麻弥 @hinasemaya
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